最終決戦7
和泉の姿が消えてから、加寿子が賢を見てにやっと笑った。
「私を殺しても和泉は手に入らない。いいや、私を殺すなら和泉は手に入らない」
「今更命乞いか」
と、賢が答えた。
「違う。事実を言っただけ。お前は実の祖母を手にかける非道な男だもの」
「自分の欲の為に実の孫を殺そうとしたあんたの孫だ。しょうがないさ」
「そうね。確かにお前が一番、私に似ている。お前ならやり遂げるだろう。だが、お前も私に似て、一番欲しい物は手に入らない。可哀相な賢。和泉の為にここまでしてもお前は和泉を手に入れる事が出来ない」
と言ってから加寿子はふふふふと笑った。
「言いたいことはそれだけか」
「そうね、これが私の最後の呪い」
月明かりの下でふふふと笑う加寿子の顔は白く、狂気を帯びていた。
賢の手にぱっと光が浮かんだ。
賢は冷静だったが、やはり無性に悲しかった。
仁や陸の思いも同じだった。
だが、加寿子を許すという選択はない。
土御門の未来の為にも加寿子を生かしてはおけない。
加寿子は土御門を脅かす存在に成り下がっていた。
「残念だ。あんたの事は尊敬していたのに」
と賢が言った。
「そうね、お前もいい後継者に育った」
最後の力を振り絞って、加寿子の身体が青白く輝き始めた。
「ぎゃあああああ」
という悲鳴のような声が遠くに聞こえたような気がした。
しかし和泉は膝を抱えてまま、顔も上げなかった。
加寿子がどうなったのかを知りたくなかった。
賢が加寿子をどうしたのかを知りたくなかった。
許さない、許せないと思っていた時間が過ぎると恐ろしくなった。
赤狼の死も嘘で、加寿子の恐ろしい企みも嘘だったらよかったのに、と思った。
これは全て夢だったらいいのに、とずっとそんな事を考えていた。
銀猫がにゃーんと鳴いて、和泉の腕に顔をこすりつけた。
柔らかい毛皮の感触で和泉は顔を上げた。
銀猫は悲しそうだった。
「加寿子大伯母様の事が好きだったのね?」
「ああ、そうだね。厳しい人だったけど、あの人の一生懸命なとこが好きだったね。
あの人には時間が足りなかったのさ。もっともっと土御門の為にやりたい事があった。けど、老いがそれを許さない。優秀な後継者も育つ。自分は引退するしかなかった。それで満足していたはずだったのに」
「あたしのせい?」
「そうじゃない、そんな意味で言ったんじゃないよ」
銀猫は首を振った。
「うん、分かってる……でも、やっぱりあたしのせいよね。それに、うちのお祖父さんの事も恨んでいたようだし……」
「竜之介さんはぱりっとしたいい男だったよ。加寿子様もあの人の前ではずいぶんとおしとやかでね……家同士の決めた許嫁のようなものだったんだけどね、竜之介さんには家を捨ててもいいほどの好きな人がいて……うまくいかないもんだよ」
「そうだったの」
和泉は自分の祖父の顔を思い出そうとした。
随分と昔に亡くなったが、優しい人だったというのは覚えている。
だが何故だか上手く思い出せなかった。
銀猫がそわそわと上を見たり、ひげをぴくぴくさせたりしだした。
「終わったようだよ」
銀猫の声に和泉はまた自分の肩を両腕で抱いた。
銀猫が窓際から外を見て、にゃーんと鳴いた。
和泉は何も見たくないのでその場から動かなかった。
しばらくしてから賢が疲れた顔で戻ってきた。
銀猫がにゃーんと鳴いたが、和泉は顔を上げることが出来なかった。
賢は赤狼の敵を討ったのだろう。
結果を聞くのは怖かった。
賢に加寿子を手にかけたという事実を生涯背負わせてしまったのだ。
和泉の為に賢は実の祖母を殺したのだ。
その事実が今更和泉を打ちのめす。
赤狼が自爆したショックで加寿子を許さないと宣言してしまった自分の事も恐ろしかった。どんな理由があるにせよ、自分は平気で人を痛めつけられるような人間だと知った。
「どうして、こんな事に……」
と和泉が言った。
「もう言うな」
賢は酷く疲れたような声で言った。
「賢兄」
と携帯を手に仁が入って来て、
「靜香おばさんが亡くなったってさ」
と言った。その後から陸も戻ってきた。
「そうか、一緒に葬式だな」
「ああ」
「ばーさんの事は他言無用だ。親父には俺が話す。いいな」
仁と陸がうなずいた。
加寿子の遺体を車に積んで、仁と陸が先に出発した。
和泉はそれを恐ろしい気持ちで見送った。
許されない、と思った。
きっと私は許されない。




