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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第三章

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最終決戦5 赤い狼死す

 黒狐の姿がゆらっと揺らめいた。

 一瞬、薄くなりすぐにまた元の黒狐に戻った。

 

 赤狼が自爆した後に残った加寿子の身体は半分吹き飛んでいたがすぐに回復を始めた。



「赤狼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 賢が叫んだ。

 みるみるうちに怒りがパワーを呼び起こす。

 賢の闘気が上がっていくのが側にいた者には伝わって来た。

 怒りが全開まで達した時、賢はそれを一気に黒狐へ向かって放出した。

 目に見えるほどの揺らめきが上って行く。

 ねじ曲がったり、まっすぐ伸びたり、光を放ったり、様々な方向を向いているが、やがてそれは上空で黒狐を包むほどの大きさになった。

 賢の放出した怒りは巨大な黒狐を包み込み、一瞬でそれらを押しつぶした。

 ぱっと夜空がきらめいて、そして消えた。

  

 さすがに黒狐は姿を消して、二度と現れなかった。

 空高くに加寿子が浮かんでいる。


「下りてこい! くそばばあ! 引導を渡してやる!」

 と賢が叫んだ。

 その声に誘導されるように加寿子がゆっくりと下りてきた。 

 青ざめた顔は酷く疲れた様に見えた。

 若く美しかったはずだが、急にまた年をとったようだ。

 赤狼の自爆により崩れた身体を回復するのに、かなりの力を使ったようだ。


 だが、賢も疲れていた。かき集めた怒りのパワーも使いきった。

 能力は次々と新たに生まれるものではない。

 回復しなければならない。


「赤狼君……」

 と和泉がつぶやいた。 

 赤狼が自爆した瞬間から和泉は身体が動かなかった。

 今いる場所は別荘の屋根の上だ。

 その煉瓦の上にぺたんと尻餅をついたまま、じっと動かない。

 ひとつまみほどの赤い尾が手の中にある。

 水蛇を再生した時のように、和泉は赤狼の再生を願った。

 だが赤い尾は変化せず、ただ柔らかな感触を和泉に与えるだけだった。 

 和泉はぽろぽろと涙を流した。

 赤狼は和泉の親友だった。

 あの日、賢が和泉の守護を言いつけた瞬間から、赤狼は和泉を護り、助け、励まして、側にいてくれた存在だった。

 人間の食べる物をねだる事もなかったので、何もあげた事がなかった。

 甘い物が好きならたくさんケーキを焼いて食べてもらえばよかった。

「ありがとう」と感謝を伝えた事もなく、いつもソファ代わりにしていた。


 ふとした人影に和泉は顔を上げた。

 すぐ近くに加寿子がいた。

 加寿子は和泉を睨んでいたが、和泉も加寿子を睨み返した。


 ふわっと和泉の身体が光った。

 緑色の優しい光だった。それは和泉の身体から発せられて、辺りを照らした。

 和泉は自分の手の平を見て、自分が緑色に輝くのを確認した。

 それをどう使うかもようやく分かった。

 和泉は赤い尾を握りしめてゆっくりと立ち上がり、賢に近づいた。

 賢は泣いている和泉を抱きしめた。

 そして、賢の身体を和泉の緑の光が包んだ。


 闘鬼に食われかけ、赤く焼けただれたようになっていた賢の皮膚がもの凄い勢いで再生した。カラッカラに使い切っていた霊能力が、清水が湧き出るように賢の中に再び溜まり始めた。

 やがて空で浮かんだまま固まっていた青帝の身体が緑に光り始めた。

 朱雀も、白虎も、全ての賢の式神達の身体にも緑の力が作用した。

 驚くべきは建物の中に残してきたミニ水蛇が、元のサイズまで成長し緑色に光りながら窓から飛び出してきた事だ。 


「和泉ちゃん……」

 と陸がつぶやいた。

 和泉の力はまだ屋根の上に座り込んでいる陸と仁にも作用した。

 二人ともに、自分達の力が復元されているのを感じる。

 緑色に光った赤蜘蛛と紅葉が姿を現した。

 ぱたぱたぱたと足音がして、八神が姿を現した。


 和泉一人の霊能力で三兄弟全ての力を回復し、そしてその式神達さえもが復活した。

 だが和泉の緑の光がいくら空高く広がっても、赤い狼の姿だけは現れなかった。


 和泉は泣いている。

 賢は和泉を抱きしめたまま、加寿子を見た。

 そして唇を噛んだ。


 加寿子を見た者全てが驚愕した。

 緑色の光は加寿子をも回復していたからだ。


 加寿子はうれしそうに笑った。

「助かったわ、和泉。この私まで回復してくれるなんて」


 和泉は賢に抱きしめられたまま、首だけを回して加寿子を見た。


「いくらでも、回復してあげます。加寿子大伯母様」

 和泉は加寿子を睨みつけてそう言った。

 そして加寿子をじっと見つめた。

 すぐに加寿子の顔が引きつり始めた。 

 苦しそうに手で胸を押さえた。

「霊能力が高いのがご自慢なんでしょう? 土御門で一番の霊能力を手にしたいんでしょう? お好きなだけ、さしあげます」

 加寿子の顔から生気が抜け始めた。

 息をするのも困難な様子で、手を和泉の方へ差し出した。

 和泉から流れ込む、高濃度の霊能力に加寿子の許容量が耐えられない。和泉の霊能力が加寿子を超えている事の証明である。

 加寿子の両目から血が流れ出した。

 耳からも、鼻からも、手の爪の先からも、ぽたぽたと赤い血がしたたり落ちる。

 加寿子はひいっと悲鳴を上げて、両手で首の辺りをかきむしるような素振りをした。


「和泉」

 と賢が言った。

「やめとけ」

 和泉が賢を見上げて、信じられないという顔をした。

「赤狼君が死んだのよ? 許せないわ。いいえ、許さないわ……絶対に許さないわ! あなたのおばあさまでも絶対に許さないわ!」

 と泣き叫んだ。

「そうじゃない」

 賢は和泉を強く抱きしめて、

「そうじゃないんだ。許さなくていい……でも戦いは俺がやる。お前には憎しみを持って欲しくないんだ」

 と優しく言った。


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