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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第三章
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和泉の狂気

「いいかい? 余計な事は言うんじゃないよ。ただただ、謝る、それだけだ、いいね?」

 橙狐が銀猫にうなずいた。

「じゃあ、行っておいで」

 橙狐はすたすたとキッチンへ入って行った。

 和泉がキッチンのシンクの方へ向いて立っている。

 橙狐は振り返って、入り口の方の仲間を見た。

 入り口からは銀猫と赤狼と茶蜘蛛が覗いている。

 銀猫がうんうんとうなずき、橙狐もうなずき返した。

 橙狐は見まごう事ないほど完璧に賢に化けている。

 歩き方も顔つきもすべてが完璧だった。

 橙狐の変化の技は十二神の中でも最高級だ。

 賢の顔の橙狐が和泉に声をかけた。


「和泉ちゃあん、俺っちがぁ、悪かったって、ごめん、ごめん」

 

 入り口で、銀猫と赤狼がずっこけた。

 糸を垂らして天井からぶら下がっていた茶蜘蛛も床へ落ちた。


「ば、馬鹿だね! 若様はそんなしゃべり方しないだろう! 馬鹿!」

「アアイウノヲダイコンヤクシャトイウンダ」

「あっしが行ったほうがましだったでやんすよ!」


 和泉が振り返った。 

 和泉が笑っているので、ほっとしたように賢の顔の橙狐も笑った。

 次の瞬間、橙狐が「ケーーーーーーーーーーーーン」と鳴いた。

 和泉が手に持っていた包丁で橙狐の首筋を切り裂いたのだ。

 

「和泉ちゃん!」

 慌てて銀猫と赤狼がキッチンへ飛び込んだ。

 和泉の手の包丁には橙狐の体液が付いて、それがしたたり落ちていた。

 橙狐を切り裂いた傷は深く、橙狐は口をぱくぱくとしながら膝をついた。

 そして変化の術が解けて、オレンジ色の狐が床に横たわった。

「あんた……なんて事を!!」

 赤狼が橙狐の身体を調べるように、くんくんと匂いを嗅いでから、

「セイテイ!セイリュウタイコウ!」と叫んだ。

 その赤狼へ和泉は灰皿を投げつけた。

「うるさいわ、あんた」

 尻尾でそれをはたき落としてから、グルルルルッと赤狼が和泉へ牙を剥いた。

 和泉は可笑しそうに笑った。

 笑いながら、包丁を自分の首筋に当てた。

「和泉ちゃん!」

 ゆっくりと和泉が包丁をひく。

 和泉の白い喉に赤い血筋が走った。

「どうなってるんだ! 憑かれてるのかい?」

「ワカラナイ。ナニモミエナイ。アクリョウノソンザイハヤハリカンジナイ」

 和泉は包丁を自分の方へ向けて、シャツの上から胸元を切り裂いた。

 シャツが斜めに裂けぱくっと開いた。その下から和泉の肌が見えるが、やはり傷ついて血が流れた。白いシャツが血に染まる。

「和泉ちゃん! やめておくれ!」

 ふーっと銀猫が背中をふくらせて唸った。

 和泉は今度は包丁を自分の足に突き立てた。

 痛みを感じていないのか、笑っている。

 包丁は深く和泉の太ももに刺さった。

 それをぐいっと引き抜いたところで、

「和泉!」

 と賢が駆け込んで来た。

「若様! 和泉ちゃんがおかしいんだよ!」

「和泉、しっかりしろ!」

 と賢が包丁を取り上げる為に和泉の腕を掴もうとした。

 その瞬間に和泉は包丁で左手首を勢いよく切った。

 バシュッと血が飛んだ。

「和泉!」

 和泉は包丁を賢に向かって投げた。

 賢がそれを避けた瞬間に、和泉が動き出した。

 キッチンの横の大きな窓に身体全体でつっこんで行き、窓ガラスを破って外に転がり出た。外は吹雪である。横殴りに雪と風が暴れている。

 和泉は雪の庭で転んだが、ふらふらと立ち上がって走りだした。

 雪に点々と赤い血が落ちる。

「和泉!」

 賢が慌てて同じように破れた窓から庭に下りて、

「緑鼬! 和泉を追え!」

 と叫んだ。 

 一瞬にして、賢の身体を黒い大きな獣が追い越して行った。

 びゅん、びゅんと、荒れ狂う吹雪をものともせずに、濃緑のビロードの様な毛皮の鼬が疾走して行った。

 賢もその後を追おうとしたが、賢の前を黄虎が遮った。

「若様、そんな薄着で出たら若様が凍死してしまう! 緑鼬が連れ戻してくるよ!」

 と銀猫の声がした。

「うるさい!」

 と言い捨てて、賢は泉が走って行ったほうへ自分も走り出した。

 だが、すでに見失っている。強く吹き付ける雪に前も見えない。

 庭から出て車を止めてある場所まで行くが、和泉の姿も緑鼬の姿もない。  

 吹雪がまるで賢の行く手を阻むように吹き付けてくる。

「和泉……」

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