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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第三章

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何かいろいろ陰謀が渦巻いてるっぽいですけど、雪深い別荘へ行こうかな

 待ち合わせの喫茶店に和泉が三十分も早く来たのは賢に誠意を見せる為だ。

 山の教会が実は悪霊で、のこのことあんな場所に行った和泉とうっかりな仲間達を賢が助けてくれた事を感謝しているとアピールする為だ。

 と思っていたらすでに賢が来ていたので、誠意を見せるどころか、

「遅い」と言われてむかっときて、

「三十分も早く来たんですけど」と言った。

「六時っつったろ」

「七時って聞きました」と、喧嘩になる始末。

 だが今日はにこやかに過ごすべきだと思ったので、和泉は口を尖らせるだけにしておいた。持っていた紙袋の中から、チョコレートの箱を出して、

「これ」

 と賢に渡す。

 なんてったって、今日はバレンタインデイだ。

 街にはカップルが溢れている。賢と和泉もそんな幸せそうなカップルの中の一組だ。

「あ、ありが…」

 と賢が礼を言おうとすると、

「で、これが雄一伯父様で、これが仁君で、これが陸君で」

 と、どさどさどさと三箱追加。

「みーんな同じですか、そうですか。せめて種類ぐらい変えようとかの配慮もないですか」

 と賢がため息をついた。

「お腹がすいたんだけど」

「はい。ではお食事にでも行きましょう、和泉さん」


 先日の事を和泉は賢に言っていない。

 賢の部屋で見た振り袖の娘の事だ。

 普段でも振り袖を着る娘は美登里くらいしかしらないが、彼女ではなかった。

 だが、あれは実際にあった事なのかどうかも定かではなかった。

 疲れきって眠ってしまったから悪夢を見ただけかもしれない。

 何より賢の部屋に、土御門本家に悪霊が入り込むとは考えられない。

 だから和泉はあれが夢だったという結論にしたのだ。次に和泉が目覚めたのは翌日だが誰も何も不穏な空気を感じていなかった。賢や弟達も戻り、雄一伯父や朝子もにこやかに過ごしていた。何より、話題が和泉のウエディングドレスでもちきりで、式はいつにするとか、新婚旅行はどこへ行くとか、その攻防で精一杯だった。

 赤狼も再び和泉の念珠に戻ったが、すぐに大あくびで眠ってしまった。

 だから和泉は賢にもその事を言わなかった。

 それから日常に戻り、翌々日には仕事に行った。

 何もなかったんだ、と和泉も思うようになっていた。


「だから、いいか?」

 と聞かれて、和泉ははっと我に返った。

 食事がすんでデザートを食べている途中だった。

「え? 何?」

「……俺は今、ありったけの勇気を振り絞って言ったんだが」

「ご、ごめん。え~と、何だっけ?」

「……」

「あ、陸君がまた犬を拾って来たって話よね?」

「陸が犬を拾ってきた話を、俺が勇気を振り絞ってまで言う必要があるのか?」

「すいません、聞いてませんでした」

「……雪深い別荘に行こうって誘ったんだけど」

「あ」

 と和泉は言った。

「いつ?」

「和泉の休みに合わせるけど」

 和泉は携帯電話のスケジュールを開いた。

「いつでもいいの?」

「うん」

「……うーん、じゃあ、明日!」

 と和泉が言ったので、賢はコーヒーを吹き出した。

「明日?」

「うん、店舗の改装で明日から三日間、お休みなんだけど」

「ちょ、お前それを早く言っとけよ。よし、もう食ったな? 出るぞ」

「え? もう帰るの?」

「今から出発する」

「え~~今から?」

「そうだ」

「え~」

「早く!」

 強引に車に乗せられ、部屋まで送られ、

「二時間後に迎えにくる。用意しろ」

 と言って、賢は車で去って行った。


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