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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第三章
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陰謀2

 加奈子の口返事に対し、朝子は怒りを覚えた。それは朝子にとっては屈辱だった。

 朝子は本家へ嫁入りして以来、加寿子の言うことは絶対で口答えなど許されなかった。

 加奈子が賢の嫁と認められているなら、加奈子は朝子への口答えなど許されるはずがないではないか。朝子は口答えするなとは言わない。自分の意見ならばはっきりと言うほうが好ましい。加寿子のように絶対服従を強いたりはしない。

 だが、この娘が息子の嫁になると加寿子が決めているだなんて、加寿子に従ってきた自分の半生はなんだったのだと朝子は思った。

「あなただけがその気でも、結局は賢さんの気持ちが大事ですから。賢さんは好きな人と一緒になって欲しいわ。幸せになって欲しいから」

 生来、お嬢様育ちで争いには向いていない朝子はそう言い返すのが精一杯だった。

 加奈子は唇を噛みしめた。


「加奈子さん、あなた、大伯母様がどうして賢様と和泉さんの仲を裂こうとするのかご存じなんじゃないんですか?」

 と言ったのはそれまで黙っていた美登里だった。

「ど、どうして、あたしが」

 加奈子は動揺した。

「さっき大伯母様と話してらしたじゃありませんか。賢様に取り入ってとか、うまくやらないと援助しないとか?」

「し、知らないわ。言いがかりよ!」

「先ほど賢様の部屋で、和泉さんを挑発するようになさってたのは大伯母様に言われたからじゃないんですか? あなた、賢様の花嫁候補に名乗りをあげたそうですけど、どうして急に? あなたもあなたのご両親も今まで本家には季節の挨拶にすら来なかったじゃありませんか。それなのに花嫁候補に名乗りを上げ、陰陽師資格の試験を受けようだなんて、どうしてですの? 確かにあなたは能力者としては昔から大変優れているようですけど、土御門の為ではなく、ご自分の為だけにそれをお使いになっていたじゃありませんか」

 美登里の痛烈な皮肉に加奈子はむっとしたような顔になったが、加寿子もいないこの場での言い合いは分が悪い。

「そ、そんなのあたしの勝手でしょ。あなたにごちゃごちゃ言われる筋合いはないわ」

「ごちゃごちゃっておっしゃいますけど、あなたがよそで何をしようが、土御門の名前さえ貶めるような事がなければよろしいんです。けれどこれは本家の次期御当主のお話ですのよ。何事も明確にしなければなりませんわ」

 きっぱりと美登里が言った。



 加奈子が逃げるようにして席を立ったので、そこにいた者は皆、心の中で美登里に拍手を送った。

「美登里ちゃん、加奈ちゃんとおばあさんの話、まじ?」

 と陸が聞いた。

「ええ、先ほど、二人で話してましたのを耳に挟みましたの」

「どうしておばあさんが和泉ちゃんが駄目なんだか、理由が知りたいよね」

「ええ、ご近所に住んでらした時はどうでした? 小さい頃はよく皆で一緒に遊びましたわよね? でも大伯母様は昔は皆に平等じゃなかったかしら?」

「そうだよね。賢兄が和泉ちゃんにアプローチし出してから、急にだ」

 うーんとその場にいる者は首をひねったが、誰も答えを知らなかった。

「うちのおばあさまなら何かご存じかもしれないですわね。私、話を聞いてみますわ」

 と美登里が言い、

「美登里ちゃんて、箱入りお嬢様かと思ってたら、頼りになるねぇ」

 と仁が言った。

「あら、そんな」

 美登里が恥ずかしそうに言ってから笑った。



「和泉ちゃんの方がいいわ。賢さんのお嫁さんに加奈子さんは嫌だわ」

 と朝子が言ったのは年始の会が終わり、一族の者がそれぞれに帰った後だった。

 明日も明後日も年始の会は続き、他の親戚の者や弟子達やらが新年の挨拶にやってくる。

 当主の妻としてやらなければならない事は山ほどあるのだが、ようやく家族のリビングで一息ついた時に朝子が言ったのはその一言だった。

「何より賢兄が和泉ちゃんが好きなんだから、心配ないんじゃない?」

 と陸が言った。

 早朝からきっちり着込んでいる袴を脱いで、大きくのびをした。

「でも、お義母様の支持者はまだたくさんいるわ。四老院だってお義母様側だと思うわ」

「当主の婚姻には四老院は口出すからなぁ」

 四老院というのは要するに目付役である。

 例え本家であっても独裁ではなく、裁かれる場合もある。

 それが四老院。要するに……能力者を引退して息子や娘に引き継いだ暇なじーさんやばーさんの集まりである。

 要するに恐怖の老害ズである!

 要するにヤング土御門の天敵であるオールド土御門である!

 要するに加寿子ばあさんを支持する者達がいるという事である!


「賢さんの気持ちはそれでいいとして、和泉ちゃんはどうなの? 賢さんをどう思ってるの?」

 仁と陸は顔を見合わせて、肩をすくめた。

「それは……なんとも。多分、賢兄が和泉ちゃんを好きなのは伝わってると思うけど」

「そう……和泉ちゃん、お嫁に来てくれたらいいのにね」

「うん」

「私、嫁いびりなんかしないわ」

「自分がされて嫌だった事はしないよね」

「そうなの……って仁さん、だめだめ、言わないで」

 朝子は、はあとため息をついてから、

「賢さん、どこへ行ったのかしら?」と言った。

「和泉ちゃんのとこじゃない?」

「帰ってくるのかしら。明日は属子さん達がお年始に来るのだし、予定がたくさんあるのだから」

 と朝子が心配そうに言った。

「和泉ちゃんのとこで泊まるくらいなら、うまくいってるって事じゃないの。不機嫌な顔で戻ってこられた方が困る。ま~た振られたって事だからさ」

「誰が振られたって」

 と声がして、賢がリビングに入ってきた。

「賢さん!」

「賢兄!」

「何だよ、皆そろって」

 賢はどさっとソファに腰を下ろした。

「どこに行ってたんだよ。大変だったんだぜ」

 と仁が言った。

「何が」

「加奈子さんがお嫁に来たら嫌だわ」と朝子が言い、

「おばあさんが何か企んでる」と仁が言い、

「美登里ちゃんが加奈子を撃退した」と陸が言った。

 それを聞いた賢は、

「加奈子の事は調べがついてる。うるさく言ってくるなら出入り禁止にしてしまえ。加奈子と結婚するつもりはねえ。ばあさんの事は対策は考えてるが、老い先短いんだからしばらく放っておけ。美登里はなかなか使えるな。神道会でも役員にしよう」

 と賢が返事をしたので、皆がぽかんとなった。 

 賢はテーブルの上のタブレットを取り上げて、画面を起ち上げる。

 そして予定表を繰り始めた。

「今月は……休みもないのかよ」

 賢が今一番気になる所は、加奈子よりもばあさんよりも、雪が深いうちに休みが取れるかどうか、だった。

 三日は欲しい。雪が深いうちに。和泉の気が変わらないうちに。


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