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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第二章

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銀猫登場

「でも、加奈子さん、今年のバレンタインには賢ちゃんに告白するって言ってたわよ。大伯母様に言われたからじゃなくて、本気で好きなんじゃないの」

 と、和泉がおにぎりのビニールを剥ぎながら言った。 

 何かちょっと一山越えたような雰囲気になって、空腹を思い出したからだ。

「それはない」

「どうして? っていうか、加奈子さん、若いし、美人だし、土御門神道に理解あるし、いい物件だと思うけど」

「何それ、お前が加奈子を勧めるか」

「そうじゃなくて、つきあってたんでしょ? どうして別れたの?」

「つきあってないって言ってるだろ!」

「身体の相性ばっちりだったって」

「だから! そんな関係じゃないって言ってるだろ!」


「童貞だもんねえ、若様」


「え?」

「ん?」


「うーーーーーーーーー」

 と一狼が唸った。


「ぎ、銀猫。く、くだらねえ事言うな」

「和泉ちゃん、安心おし、若様は和泉ちゃんしか眼中にないんだから。他の女の子なんて興味ないからねぇ」

「え?」

「ちょ、何言ってんだ……」

 声の主より先に真っ赤な顔の賢が一狼の背中に顔を突っ込んで、もふもふしている姿が和泉の目に入った。


 いつの間にか丸いテーブルの上に猫が座っていた。

 銀色の毛並みが美しい猫だった。 

 猫は「ニャーン」とのびをしてから、背中の毛を舐めた。

「銀猫、さがれ!……てかお願いします。消えてください」

 と賢がイチローにしがみついたまま言った。一狼はおろおろしている。

「銀猫?」

 猫はにっと笑って和泉を見た。

「久しぶりだねえ。和泉ちゃん」

「え、あ、見た事ある。昔、賢ちゃんちで飼ってた猫だよね?」

「そうだよ。あの頃は老いぼれてて、眠ってばかりだったけどねぇ。若様の能力でなんとか式神としておいてもらってるのさ」

「へぇ、しゃべるんだ」

「まあね、それしか能がないからね」

「すごい、白露もイチロー君もしゃべらないから、式神ってそういうもんだと思ってた」

「銀猫、何しに来たんだ」

「そりゃあ、若様の応援にですよ」

「……本当に応援か?」

「若様はお優しいから、加奈子の事もうやむやにしてしまうつもりでしょう? そんなの駄目ですよ。加奈子がどうして若様に色目を使うようになったのかをちゃんと和泉ちゃんに説明しなくちゃ」

 銀猫は和泉を見てまた、にっと笑った。和泉は自分一人だけでおにぎりとおでんを食べていた。一狼がおでんの匂いに鼻をひくひくとさせている。

「何か理由があるの? 加寿子大伯母様に言われた以外に?」

「加奈子んちは火の車だからねぇ」

「火の車って借金?」

「ああ、そうさ」

「銀猫、和泉には関係ない話だ」

 と賢が言った。

「そうですかねえ。若様はお優しくていい男だけどね、一人で全部抱え込むのよくないですよ」

 と銀猫が諭すように言った。

「和泉ちゃんだって、知っておいた方がいいですよ。ねえ? 和泉ちゃん」

「え、うん。ていうか、あたしに話すかどうかの相談を目の前でされても……気になってしょうがないわ」


 美しい銀の猫は一狼に寄りかかって座っている賢の膝の上にぴょんと飛び乗った。

 それに一狼が反応して、「ぐるるる」と唸った。

 銀猫は一狼を見てから、「シャー」っと毛を逆立てた。

 次の瞬間、「グーーーーーー」っと酷く怒っているような唸り声がして、和泉はびっくりしておでんの卵を落としてしまった。

 大きな大きな、一狼よりも大きな虎が一狼の頭を押さえているからだ。前足で頭を押さえられた一狼はプライドが傷ついたのか、歯をむき出して怒っている。

「ちょっと、虎までいるの~~? あんまり大きいの連れてこないでよ、賢ちゃん!」

 と和泉が言うと、銀猫がまたぴょんと跳ねて虎の頭の上に飛び乗った。

「黄虎! おやめ、あんたはいつまでたっても喧嘩っ早いんだから」

「グウ」

 黄虎は素直に前足を一狼からどけた。

「銀猫さんの言うことをきくんだ」

「この子はあたしの息子のようなものだからねぇ」

「で、でっかい息子ね」

 銀猫が黄虎の頭を舐めてやると、黄虎はぐるぐると喉を鳴らした。それから、和泉の背後にぺたんと座った。

「もう~狭い部屋に~」

 と言いながら和泉が黄虎にもたれかかる。そして、

「わ、ちょうどいい~~暖かいし~~もふもふするには毛が短いけど、背もたれにはいいかも」と都合のいい事を言った。

「で? 何の話だったっけ」

「若様が童て……」

「わー! その話はいいから!」

 と慌てる賢に、和泉は、

「……まあその話はまた後で聞くわ。とりあえず、加奈子さんの家の借金と賢ちゃんとどういう関係があるの?」と言った。

「加奈子の家は父親が朝子さんの従兄弟の中の一人でね、この人は霊能力はあまりないんだが、隔世遺伝かねえ。加奈子はかなり能力が強いのさ。それがあだになったのかねぇ。加奈子の母親は妹を生んですぐに亡くなりなさったのさ。で、その後、後妻に入った女が悪かった。この継母は金にがめつい女でね。加奈子の霊能力に目をつけて、金儲けの為に占いや霊媒をさせたのさ」

「え、土御門とは別に?」

「ああ、土御門の名前を出したら上には絶対認められないに決まってるし、儲けは自分の物にならないからね。細々と、加奈子の能力を金に換えていたのさ。でもさ、金にがめつい人間が稼いだ金を大事に持ってるわけないだろ? 入るはしから浪費する、入る以上に使うのさ。金の威力は怖いよ。で、借金まみれ」

「へえ。加奈子さん、かわいそうじゃない。道具みたいに使われて」

「まあね、まだ幼い加奈子に母親が必要だと後妻をもらったばっかりにねえ」 

「ええ」

「けどね、借金はもちろん継母の浪費もあるが、一番でかいのは、加奈子がした不倫の代償さ」

「不倫?」

「大学生の時に教授と不倫、相手の家庭を壊して奥方に莫大な慰謝料を請求されてさ。馬鹿だから、証拠をたんまり残して奥方の完全勝利さ。まあ、それでもね、慰謝料自体はたいした額じゃない。何百万だからね。それもさ、加奈子は相手を独身だと信じてた。不倫してるつもりはなかったらしいのさ。でもその後、父親にこってり怒られてやけになって飲酒運転のあげく事故を起こしてね。相手は死んでしまったんだ。その賠償に億に近い額を請求されてるのさ」

「えっ」

 和泉は両手で口元を押さえた。

「もう家屋敷を売らなきゃどうにもならない。けど、そんな事をしたら本家にばれてしまう。破門じゃすまないだろうね。一族から完全に追放だろう」

 和泉は賢を見た。賢は小さくうなずいた。

「で、考えた。若様の嫁になったら、援助が受けられる。若様なら億近い金も出せない事もないだろう。うまく甘えて金を引き出せればいいと考えて、花嫁候補に名乗りを上げた。だが、和泉ちゃんがいた。若様は和泉ちゃんしか目に入らない。さてさて困ったってわけさ。だが、意外な協力者がいた」

「大伯母様?」

 銀猫はうなずいた。

「あの人の方から囁いたのかもしれないねぇ。若様と和泉ちゃんに亀裂をいれたら、援助してやるってさ」

 和泉はショックを受けたような顔でしばらく黙っていた。

 確かに和泉は土御門では遠い末端の方だが、人様に顔向け出来ないような生き方はしていない。だが加寿子は和泉よりも加奈子の方が賢にふさわしいと判断したのだ。

「加奈子の継母が悪かったのは確かさ、そんな女と結婚した父親も。でもねぇ」

 と銀猫が哀れげな声で一声、にゃーんと鳴いた。

「親のせい、周りが悪いと言って許してもらえるのは義務教育までさ。いい加減、自分の足で立たなきゃねえ」


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