老害だけでもややこしいのに3
「和泉ちゃんて冷たいよね-」
と加奈子が言った。
「お前なぁ」
うんざり顔で賢が加奈子を見た。
「だって、賢兄さん、本気で和泉ちゃんと結婚するつもり?」
「お前には関係ない、てか、帰れ!」
「ねえ、賢兄さん、あたしじゃ駄目なの? あたしの方が絶対に土御門の為になると思うけど? 和泉ちゃんて勉強会も修行の会も一回も来たことないじゃん。土御門に興味ないんでしょ。それに賢兄さんにもあんまり興味なさそうじゃん。和泉ちゃんに好かれてないって自覚してる?」
「ほっといてくれ」
「土御門に従わない者は破門になる掟じゃなかったっけ。加寿子大伯母様に逆らってまで和泉ちゃんと結婚して、次代様の地位剥奪になるわよ」
「ありがたいね。ぜひそうしてくれ」
と賢が言って立ち上がった。紋付き袴姿だったのだが、乱暴に着物を脱ぎ始めた。
「仁君が次期当主になってもいいの? 次男に逆転負けなんて」
「仁がそう望んで次期当主になるなら、俺は喜んでバックアップする」
「え~まじぃ?」
賢はセーターを着てジーンズに履きかえ、上着を手にした。
「誰に言われて嫌がらせに来たのかは想像がつくけどな、お前の思う通りにはならないぞ」
「どういう意味?」
「俺が何にも知らないとでも思ってるのか?」
賢がじっと加奈子を見た。
「恥をかく前に帰れ。俺の式は街中の噂話に精通してるんだぞ」
「……な、何よ……そんな事言ってもいいの? 和泉ちゃんに賢兄さんに無理矢理犯されたって言ってやるから!」
「そんな話信じるわけないだろ」
「そう? 賢兄さんとあたし、昔つきあってて、身体の相性ばっちりだったのよって言ったら顔引きつってたわよ。和泉ちゃん、信じちゃったんじゃない?」
「な、お前! 和泉に変な事を言うな!」
「賢兄さん、和泉ちゃんに全っ然信用ないし、愛されてないじゃん」
加奈子は甲高い声で笑ってから、
「ねえ、あたしにしときなよ。加寿子大伯母様もあたしなら賛成だってさ」と言った。
「断る」
「何よ!」
と加奈子が叫んだ瞬間に、彼女の着物の袂から何かが賢に飛びかかった。
「グゲゲゲゲ!」
賢の指示がなくとも、式神は主人を守る。黒凱がそれの首筋に爪をたて、大きな虎がそれの喉元に食らいついた。
「ぐう」
と呻いた加奈子の式神は大きな狐だった。
「天狐!」
天狐はきゅうんと鳴いて加奈子を見た。
加奈子の天狐もかなりの能力と位を持つが、霊能力でも強さでも賢の式神とでは相手にならない。今にも首を引きちぎられそうで、天狐は悲しげに鳴いた。
「加奈子」
名前を呼ばれて、ふいと加奈子が賢を見て目が合った次の瞬間、加奈子は意識を失った。
同時に天狐の姿も消える。
「黄虎!」
「ぐるるるるる」
黄虎と呼ばれた大きな虎は賢の足下にぐるぐるぐると頭をこすりつける。
「捨ててこい」
(え~面倒くさいなぁ)という風に鼻の頭に一瞬しわを寄せたが、すぐに加奈子の身体を自分の背に乗せて、部屋を出て行った。
そして賢も財布と携帯電話を掴んでからため息をつきつつ、部屋を出て行った。
美登里の家で元のジャージに着替えた和泉はとぼとぼと美登里の家を出た。
「お送りしますわ」
と言われたのだが丁寧に断る。
とにかく美登里とも離れたかった。
眠たかったし、空腹だった。
「お腹すいたなぁ」
時計を見るともう午後三時だった。
朝の四時から起こされて、窮屈な思いをして着物着て、あげくにとぼとぼ歩いて帰る羽目になるなんてさ。
と思いながら、近所のコンビニへ寄る。なるべく自炊しなければならないのだが、今日はもうそんな気力もない。っていうか、正月からコンビニって、今年一年を象徴しているようだわ。
「ええい、やけ食い」
おでんとカップラーメンとおにぎりを買う。
元気がない時は食って寝るしかない。
アパートへ帰りつくと、
「よう」
と声がして、階段の下に賢が立っていた。
「……」
「話してもいいか?」
「どうしてあたしのアパートを知ってるの?」
「和泉ちゃんの事ならなんでも知ってるから」
「……あっそ」
自分の部屋に招き入れる。
中に入ると、ぽんと白露と一狼が姿を現した。
「グゲゲ」と声がして、黒凱もひょいと現れた。
すぐに白露のところに飛んでいって、いちゃいちゃし始めた。
「ちょっとぉ、狭い部屋でばさばさ飛ばないでよ。もう少し小さくなれないの?」
と和泉が不服げに言うと、「グゲゲ」「クエエ」と鳴いてから、小さくなった。
「わ、可愛い、文鳥みたい」
二羽はカーテンレールの上に留まって、つつきあっている。
「正月からコンビニ弁当かよ」
と賢が言った。
「あのねぇ、朝の四時に起こされて、窮屈な着物で、怒られて、見せ物になってんの! ご飯なんか作る元気ないの!」
「はいはい、俺が悪うございました」
「そりゃあ? 若い可愛い恋人に? あーんしておいしいお膳を食べさせてもらってた? どこかの御曹司には? 正月からコンビニなんてねえ?」
「うわ、すげえ、嫌味。お前攻撃力高いな」
「ふん!」
和泉は立ち上がって、どすどすとバスルームに入って行った。




