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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第二章
43/107

老害だけでもややこしいのに

「和泉ちゃん」

「え?」

 和泉は池の縁に立って、池の中で泳ぐ鯉を眺めていた。

 上級の一族が集まっての年始の会はまだ続いている。


 当主が新年の挨拶をした後に食事の会が始まるのだが、早速その場で加寿子が爆弾宣言をした。

「新年を迎えたおめでたいこの日に、更におめでたい報告がありますよ。次代様のご結婚が決まりましたからね」

 その言葉を聞いた一族はざわっとしたが、やがて祝福の言葉を口々に言い出した。

「で、お相手は?」

 と言ったのは加寿子・靜香姉妹の弟である、土御門清司郎というじいさんである。

 弟であるが長男であったにも関わらず加寿子が本家を継いだのは、霊能力どころか見鬼の才さえないという普通の人だったからである。

「隣に座っている娘ですよ」

 と加寿子が言った。

 皆の視線がいっせいに賢と和泉に注がれた。

 和泉は頭の中が真っ白になって、うつむいていた。

 手が震えていた。

 いつの間にそんな話になったんだろう。

 賢ちゃんと結婚? 

「ごめん」

 と低い声がした。

 顔をあげて横を見ると顔色の悪い賢がもう一度、

「変な話になって、悪い」と言った。

「ううん」

 本家の親族達の集まりなど出た事もなく、顔も知らない者が大勢いた。

 いつも正月は両親が手伝いに来て忙しそうに働いているのを台所で眺めるくらいだったし、大人になってからは自分とは無縁の世界だと思っていた。

 そんな世界に紛れ込んでしまい、注目を浴びている。

 そして和泉に集まるそれは、決して暖かい視線ばかりではなかった。

「やっぱ、嫌……だよな」

 と賢が言った、その瞬間に和泉の目から涙が出た。

 それは緊張と心細さから出た涙だった。

 

 バチバチバチッと音がした。

 賢がテーブルに肘をついて頭を抱えた。

「天井が!」

 と言う声に皆がいっせいに上を向く。

 天井に亀裂が走っていた。

「やばい! 賢兄ぃ!」

 と仁の声がした。

「賢ちゃん?」

 仁と陸が席を立ち、賢の側に来た。

「ちょ、まずい。賢兄、部屋で休もう」

 賢が立ち上がり、弟達に身体を支えられて広間を出て行く。

 和泉も慌てて後を追うが、部屋の前で陸に止められた。

「しばらく一人にしておいた方がいいと思う」

「あ、うん」

 それから和泉は広間に戻らず、庭にでた。

 どうしていいのか分からないので、とりあえず池を眺めてぼーっとしていた。


 そして、声をかけられたのだった。 

「加奈子さん」

 華やかな振り袖の娘には見覚えがあった。

 朝子の従兄弟の中の一番下の弟の娘、だったはず。それがどういう位置になるのか和泉には分からないが、元旦の年始の会に来ているのだから、一族の中でも重鎮なのだろう。

 何度か会った事はあるが、昔からアイドルのように小顔で可愛い娘だった。

「和泉ちゃん、賢兄さんと結婚するの? おめでとう」

 と言われて、和泉はただにこっと微笑んだだけだった。

「いつの間にそういう仲? まあ、昔から賢兄さんは和泉ちゃんと仲良しだったけど」

「え、まあ」

「あたし、狙ってたのになぁ。賢兄さん」

「本当に?」

「ええ、美登里さんが婚約者候補から降りたって聞いたから、次はあたしと思ってたのに」

「そう、なの」

「うん、でも、加寿子大伯母様が年始の席で発表するくらいだもん。本決まりなんでしょ」

「……」

 加奈子は和泉の顔をしばらく眺めていたが、

「あたし、賢兄さんとつきあってたんだぁ」

 と言った。

「え?」

「やっぱ、知らなかった?」

「ええ」

 和泉の心臓がどきどきとし始めた。

「まあ、昔の事だしね」

「昔って言っても、加奈子さん、まだ二十歳くらいでしょ?」

「やっだぁ、二十歳はないよ」

「え? いくつ?」

「二十三」

「……」

「そうね、そんなに昔ってほどじゃないか。あ、証拠見せてあげようか?」

 と言って、加奈子は携帯電話を取りだした。

 写真の画像を選び出して和泉の前に差し出す。

 確かに賢と加奈子が二人で写っている画像だった。

 加奈子が賢の腕に自分の腕をからませている。二人とも笑顔だった。

 だが今まで見た事のない賢の顔だ。 

 スリムな身体に細長い手足、顎が尖って、切れ長の瞳。

「え……これ、賢ちゃん?」

「そうよ」

「だってこんなに細い賢ちゃん、見た事ないわ」

「……和泉ちゃんてさぁ、本当は賢兄さんのこと、何にも知らないんじゃないの?」

「え?」 

「これが本当の賢兄さん、わざと太ってるけど、本当はとってもスリムで超格好いいんだから。本家の三兄弟の中で一番、イケメンで素敵なのよ」

 イケメン? 賢ちゃんが?

「どうしてわざと太ってるの?」

「まじ? それも知らないの? 土御門なのに?」

 加奈子は呆れたような顔で和泉を見た。

「あの凄すぎる霊能力を制御するために決まってるじゃん。それだけのスタミナを身体に保っていないと、自分がまじやばいからでしょ! 大きな祈祷に行くと賢兄さん、三十キロくらいすぐに減るよ。で、また必死に食べて太るの。そんな事も知らなかったのぉ? 和泉ちゃんて、本当は賢兄さんの事、あんまり興味ないんじゃない?」

「……」

「あたしがお嫁さんになりたいなぁ。今年のバレンタインには本気で告白しようと思ってたのに、今日来たら結婚するなんて聞かされるし。超ブルーなんですけど」

「……」

 加奈子は青ざめる和泉の顔を見て楽しそうに笑った。

「だってあたし達、身体の相性もとってもよかったのよ」

 と加奈子が言った。

「え…」

「賢兄さんてえっち上手だもんね? あ、怒った? 昔の話だよ」

「……」


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