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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第二章

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美登里、はっちゃける3

「賢さんにお願いがありますの」

 と美登里がやってきたのは翌日だった。

 美登里はほぼ直系の土御門であるので、どこへ行っても丁寧に迎えられる。

 たいていは靜香大伯母の背後にひっそりといるのだが、この日は何やら生き生きとして、やけに活動的な表情だった。

 出迎えた女中頭の沢も、リビングで対応した朝子もが首をかしげた。

「美登里さん、賢さんは今…」

「存じてます。でも、私のお話は賢さんの為にもなります。聞いて損はありませんわ」

 と美登里が自信満々で言った。

 興味津々で仁と陸が美登里を道場へ案内した。

 秘書の田所や望月が道場の扉のこちら側から賢の様子を眺めている。

「おいたわしや…賢様…」

 賢は道場の真ん中に座っていた。

 袴姿で精神修養の途中であるらしく、ぴくりとも動かない。

 だが、その目の部分には目隠しをされている。

 誰とも目を合わさないように、である。

 本日も振り袖姿の美登里がすすすと音もなく近づき、

「賢様、美登里です。本日はお願いがあってまいりました」

 と言った。

「何の用だ」

 と賢が答えた。

「おばあさまの為にお念珠を作っていただきたいのです。おばあさまが何を手放しても、手に入れたいような素晴らしい一品を」

「断る」

「何故です? 今は無駄に霊能力を発揮して暴れているだけなのでしょう? その力でお念珠を作ってください」

「……断る」

「ただとは言いませんわ」

 美登里はそう言って、胸元から紙片を取り出した。

「和泉さんの新しい携帯番号とメールアドレスですわ。これを差し上げます」

「……」

「賢様、おばあさまがどうしても欲しがるようなお念珠を作ってください。私とどんな取引をしても手に入れたいと思うような」

「取引?」

「ええ、私はそのお念珠でおばあさまと取引をするのです。私は霊能力の高い土御門へ嫁いで子を産むだけの女では終わりません。賢様もご存じでしょう? 私にも能力が授かっている事を。私も賢様のように能力者として働きたいのです。それをずっとおばあさまに反対されてきました。でもやはり、どうしてもあきらめたくないのです」

「お前に霊能力があるのは知っている。だが、女の身でなにも能力者として働かなくても。いつ命を落とすかもしれないんだぞ」

「分かっています。でも、何もしていなくても交通事故で命を落とす時もありますわ。それに、賢様の損にはなりません。私を配下に置いて任命してくだされば、私はいつでも和泉さんを守りますわ」

「……」

「賢様、本当は和泉さんの居場所はすでに知って

らっしゃるのでしょう? 和泉さんのお念珠に入れた式神があなたに和泉さんの居場所をお知らせしますものね。私、昨日、和泉さんにお会いしましたのよ。お元気そうでしたわ」

「……そうか」

「刑事さんとランチデートしてましたけど」

 バチッと天井が鳴った。

 バチバチッと続け様に鳴り、賢は自分の頭を押さえた。

 苦しそうに呻いている。

 暴走する力を押さえようとしているのだが、意志に関係なく、大きすぎる霊能力が空気を裂き、空間を歪める。

 美登里はその様子を見ていたが、

「でも、和泉さんもずいぶんですわよね。稀代の陰陽師、天才、安倍晴明の生まれ変わりと言われた賢様にこの仕打ちとは。和泉さんのお念珠に入っている式もあなたの手持ちの中で一位二位を争う能力の式神。なんて贅沢なんでしょう。あの方にそれだけの価値があるとでも?」と言った。

「やかましい!」

 と賢が叫び、さっと右手から閃光が放たれた。 

 それを見ていた人々が全員、あっと声を上げた。 

 賢の手から放たれた光は美登里を襲ったが、美登里を傷つけるには至らなかった。

 美登里の前に大きな真っ黒いオオカミが鎮座していたからだ。そのオオカミは賢の光をうなり声で粉砕した。

 もちろん、もとより賢が美登里の命を奪うほどの力を放ったわけではない。

 だが、美登里の式神「一狼」は見事に役目を果たした。

「能力者として生きていくのは楽じゃないぞ」

 と賢が言った。

「承知の上ですわ…賢様、お念珠を作ってください。そしてぜひとも口添えをお願いします。私が能力者として働けるように」

 美登里はその場に正座して深々と賢に頭を下げた。

「いいだろう」

 と、賢が言った。

 美登里が顔をあげて、嬉しそうに、

「賢様! ありがとうございます!」と言った。

「どうせ、暇だしな。和泉を守ると言ったその言葉忘れるな」

「もちろんですわ」

「前払いだぞ」

「え?」

「和泉の電話番号とメアド、くれよ」

「分かりました」

 美登里は紙片を賢に渡した。

「どうせ電話できないんだけどな」

 と賢がつぶやいた。

「どうしてですの? 誤解だと言えばいいじゃありませんか」

「まあな」

「私、昨日、和泉さんにお会いした時に、一応は誤解である事はお伝えしました。私は賢様とは結婚しませんと言いました。ですから、和泉さんもうあれがただの噂だって事はご存じですわ。すぐに仲直りできますわ」

「お前……使えるな」

「そうでございましょう?」

 美登里はふふふと笑った。


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