美登里、はっちゃける2
「それで、何のお話でしょう?」
和泉はパスタをすすりながら美登里へ聞いた。
やはり昼間のカフェにいる。
人を待たせていると思うと気もそぞろで午後の仕事はさんざんだった。
出来るだけ急いで書店を出て美登里の待つカフェへ飛んできたのだが、美登里はその時、
「まあ、それは霊障かもしれませんね。人は時として身に覚えのないような事で誰に悪意をもたれているか分かりませんの。でも、心配はいりませんわ。ご心配ならこちらへご相談ください。誠意を持って土御門が対応いたしますわ」
と言いながら、パンフレットの様な物をカフェのウエイトレスに渡していた。
「美登里さん、お待たせして……」
「あら、和泉さん、いろんな方とお話が出来て、とても楽しい時間でしたわ。私も土御門の一員として、もっと世の中を知らねばならない事を実感しました」
「はあ」
カフェのウエイトレスは美登里に向かって深々と礼をしてから、満足そうな顔でその場を去って行った。
「和泉さん、お話はお食事が終わってからですわ」
「は、はい」
(日に二度も外食って、やばいんですけど)
と思いながら、一番安いパスタを選んだ。ちなみに、普段はおにぎり一個とかの弁当持参である。今日は寝坊して弁当なしだったので、仕方なくカフェで外食したのだが、そこを美登里に見つけられてしまったようだ。
(不運……賢ちゃんとの結婚話でもしにきたのかしら……そんな報告いらないよ)
やがて和泉がパスタを食べ終わり、美登里も焼き魚定食を綺麗に完食した。
和泉が骨と頭しか残っていないサンマの亡骸を眺めていると、
「和泉さん、お話というのはこれですわ」
と、美登里が土御門神報をテーブルの上に置いた。
美登里がちらっとカウンターの方を見ると、ウエイトレスが慌てて膳を下げに来た。
(さ、さすが土御門ね。目線一つで人を動かすって……)
と和泉が感心していると、
「このゴシップ記事が元で賢さんと喧嘩なさったと聞きましたわ」
と美登里が言った。
「え」
「まさか、これが本当の事だと思ってるわけじゃないでしょう?」
「……」
「少なくとも、私は賢さんと結婚はしません」
「そうなんですか」
何か言わなくちゃ、と思ったのだが、うまい言葉も出てこない。
「和泉さん、こんなゴシップ的な記事を鵜呑みにするなんて。それで、今、賢さん、大変な事になってるんですよ」
「え? 大変って?」
「教えません。気になるなら、ご自分で賢さんに連絡してください」
「えー」
和泉は頭をぽりぽりとかいた。
電話して何と言えばいいのだ。
「でも、賢ちゃん、結婚するって言ってたし」
と和泉がぶつぶつと言った。
「賢さんがそうおっしゃってたんですか? どなたと結婚なさると?」
「そこまでは聞いてないですけど」
「どうしてお聞きにならなかったの?」
「どうしてって……賢ちゃんが誰と結婚しても……しょうがないし」
「しょうがないって何です? 和泉さんは賢さんの事をどう思ってるんです?」
ちょ、直球ですか。
和泉がもう一度頭をぽりぽりとかくと、美登里がその手を見て、
「あら、そのお念珠。もしかして賢さんのお作りになった物ですか?」
「え、ええ」
「おばあさまがずっとお願いしてるのに、賢さんに作っていただけないんですよ」
「そ、そうですか」
「あら? あら?」
美登里が手を伸ばして和泉の念珠に触れた。
「まあ、式神が入ってるわ。凄いわ。賢さんの式神が和泉さんを守ってるのね!」
美登里はなぜだか嬉しそうに言った。
「え、美登里さん、よくお分かりですね」
「ええ、私も一応霊能者のはしくれですから」
「え! そうなの?」
「はい、本家の御三兄弟には及びませんが、私も幼い頃より修行はいたしました」
「へ、へえ。格好いいっすね」
「おばあさまはあまりいい顔をしませんの。ですから土御門の中でも知っている人は少ないんです」
「靜香伯母様はどうしていい顔をしないんですか? 土御門家においては霊能力の高さが一番なんでしょう?」
「おばあさまの希望は私が当主の嫁になるか、もしくは、次代の当主になる子供を生むかの二つです。霊能力の高い土御門に嫁いで子供を生む、のが一番で、私が霊能者として活動するのは駄目なんです」
「へえ、何かいろいろと凄いですね」
と和泉が感心したように言うと、
「私の事はいいんです」
と少し照れたように美登里が笑った。
「和泉さんと賢さんの事が問題なのです!」
「……」
「このままだと、賢さん、次代様にはなれないかもしれませんよ」
「え? どうして? 三兄弟の中じゃ一番能力が高いし、それが次代の条件なんでしょう?」
「今、賢さんは御自分の能力を制御できないんです。賢さん、監禁されてるんですよ」
「監禁?」
それさっき、大変な事になってるけど、教えません! って言い切ったやつでしょうか、美登里さん、と和泉は思ったがそこは黙っておいた。
「ええ、賢さんにその気がなくてもその強大すぎる霊能力が周囲に災いを巻き起こすんです。今まではそれを制御できていたのに、賢さんの感情が不安定になってしまってから、うまくいかないみたいです」
「えー」
「えー、じゃ、ありませんよ。あなたが原因でしょう?」
「ワタクシがですか」
「そう、あなたが、です。くだらないゴシップ記事を真に受けて、喧嘩なさったんでしょう? それが誤解だと分かったんですから、賢さんと仲直りしてくださいますよね?」
美登里はにっこりと笑ってそう言った。
「はあ」
「このまま賢さんの能力が暴走を続けていたら、賢さんご自身の身体にも負担になるし、土御門に危険人物として見なされます」
「だって賢ちゃんが本家の長男なのに? それを評価する人が別にいるんですか?」
「ええ、本家といえども全能ではありませんもの。本家の行動が滅亡への道になり得る場合もあります。土御門にはそれを見定める機関が存在します」
「ちょ、まじで?」
「ええ。だてに千年も続いた家系ではありませんのよ」
「へえ」
和泉は感心したため息しか出なかった。
「感心している場合じゃないですよ。和泉さんから連絡して、早く仲直りしてください。これはもうあなたと賢さんだけの問題じゃないんです。土御門一族の存亡をかけた事態なんです!」
そ、そんなぁ。
熱く語る美登里とは逆に、和泉はなんだか泣きたくなってしまった。
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