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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第二章
32/107

美登里と恋の行き先2

「賢さんはどなたかお好きな方がいらっしゃるんですか?」

 と美登里が言った。

「うん、まあね…片思いだけど…」

「まあ、賢さんが片思いだなんて」

 美登里はくすくすと笑った。

 美登里の知っている賢は無愛想でしかめっ面で、あまり優しくもない。だが霊能力だけは桁違いで一族全体から尊敬と憧れのまなざしでもって見られている。

 一族には陰陽師を目指す弟子も結構な数がいて、その修行の会や勉強の会で賢は講師を勤めている。美登里はその姿を何度か見た事があるが、近寄りがたく、冷たい雰囲気だった。真面目で笑ったところなど見せた事がないという評判である。

 その賢が片思いとは。

「では、賢さんとの結婚の話はなくなるんですね」

「美登里ちゃんは賢兄が好きで結婚したいってわけじゃないんだろう?」

 美登里はどきまぎしながらもうなずいた。

「はい、ずっとおばあさまからそう言われ続けてきましたから、そうなるんだと思っていましたけど。賢さんに好きな人がいるのでしたら、その方と結婚された方が幸せだと思います」

「美登里さんももっと外へ出て、いろんな方と出会って、おつきあいをしてみるといいわ」

 と朝子が言った。

「そうですね。あの…賢さんの好きな方ってどんな方なんですか?」

「和泉ちゃんって覚えてる?」

 と陸が言った。

「和泉さん? 覚えてます。確か優秀な見鬼だと聞いたことがあります。昔、何度か一緒に遊びましたよね?」

「そう、和泉ちゃんが賢兄の想い人」

「まあ、素敵」

 と美登里は言った。恋愛の経験のない美登里には想い人だの、片思いだのでも十分何か素敵な響きに聞こえるようだ。

「それがさ、今月号の神報が原因で和泉ちゃんにふられそうなんだって。この間、告白してうまくいきそうだったのにさ」

「あら、じゃあ、和泉さん、誤解してるのかしら?」

「かもね」

「賢兄、怒っちゃってさ、普段の事なら冷静だけど、和泉ちゃんの事になったら自分で制御出来なくって。じっと堪え忍んでいた時は我慢できた感情でも、一度解放しちゃうと駄目みたいだね。和泉ちゃんに告白しちゃってから、ちょっとパニックでさ。なまじパワーがあるから手に負えないんだよ。もう暴風みたいになってんの。視線が合えば意識飛ばされるし、座ってるだけで床も壁もべこべこにするし、ガラスは割れるし、今、道場の奥の小部屋に監禁されててさ、仁兄が見張ってる」


「まあ…でも、賢さんて本当に和泉さんの事が好きなのね。うらやましいわ」

 

 恋愛に関して免疫がなく、憧れしかない美登里には賢と和泉の話は強烈だった。

 自分もそこまで愛されるような恋がしたい→心が夢でいっぱいにふくらむ→頭がお花畑になる→ぜひ二人には幸せになってもらいたい→でも和泉が誤解している→自分と賢は婚約なんかしない→和泉に知らせなくちゃ!→美登里、覚醒。


「和泉さんの電話番号、教えてもらっていいです? 私、和泉さんにお話します。婚約の話はただのゴシップ的な記事だったって」

「それが、番号変わったみたいなんだよね。今までの番号、つながらないんだ。居場所も分からないし」

「そうなんですか」

 そんな話をしているうちに、

「美登里! いつまで染み抜きにかかっているの!」

 と靜香の声が飛んできて、声と同時に靜香が広間の入り口に見えた。

「おばあさま、すみません」

 美登里は慌てて立ち上がった。

「帰りますよ」

 靜香は朝子と陸をじろっと睨んでから、ぶつぶつと文句を言いながら玄関の方へ出て行った。

「すみません。今日はこれで」

 と美登里が後を追って行った。

「美登里ちゃんは意外と話が通じるね」

 と陸が言いながら笑った。



「和泉さんじゃないですか!」

 と大きな声で名前を呼ばれて、和泉は恐る恐る振り返った。

 張りのある元気な声には聞き覚えがある。

「若尾さん」

 若尾刑事がきらっと白い歯を見せて笑顔で和泉の方へ歩いてきた。

 お昼時、和泉は一人、カフェでランチタイムだった。

「お一人ですか? ここいいですか?」

「え…ええ」

 若尾はどかっと和泉の前に座り、カフェの店員へ

「こっちもランチね!」

 と大声で言った。

「北陸の方でいらっしゃるって言ってませんでした?」

「ええ、そうなんですけど、またまたわけありでこっちへ戻ってきたんです」

「そうですか! そういえばこの間、美香子さんをお見かけしましたよ。彼女についてた二体の霊の姿が見えなかったですけど、お祓いしたんですか?」

 和泉は首を振った。

「いいえ、井上君も島田先輩も他の勢いのある悪霊に吸収されてしまったんです。その悪霊自体は賢ちゃ…土御門賢さんが祓って、終わりました」

「そうなんですか」

「ええ」

「前の会社、やめられたんですよね?」

「ええ」

「今は何を?」

「今は、書店員をしてます。あそこの一階の本屋さんで」

 と和泉が指さした方へ若尾が振り返る。通りの向かいに大型書店があり、駅前なので通勤、通学の客で賑わっている。。

「へえ、じゃあ、また寄らせてもらいます。僕も本好きなんですよね。いやぁ、和泉さんとは趣味があうなー」

 と若尾が言って笑った。


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