怖いから
あいつが殺した。
その言葉が頭の中で繰り返された。
あいつが殺した、あいつが啓太の家族を殺した。
それであいつは、何食わぬ顔で俺と啓太の前に現れた。
「ユーリ様、落ち着いてください」
「落ち着けない!!無理!!」
「優里」
「っ……。って、啓太は良いの?なんでそんな冷静なの?」
「冷静なわけないだろ。でも恨んだって、怒ったって、なにもかわらない。家族が帰ってくるわけないしな」
そういって、啓太は俺の頭を撫でた。いつもはそれで凄く落ち着けるのに、今日は全然駄目だった。
「さて、確証も取れました。貴方が生き残ってくださり、嬉しく思います」
「いえ、別に」
「ですが、ルーク様をすぐには裁けません」
「え、なんでですか?」
「……俺のせい?」
啓太が驚いて、視線を俺に移した。
だって、それしか思いつかない。
「俺と婚約関係だから。一応俺ってこの世界じゃそれなりの地位だし……。ルークはそれほどじゃないけど、俺の許婚なら……容易には裁かれない。それに今の地位を守るために揉み消されるかも」
「ユーリ様、ご謙遜されすぎです」
「……なに、優里ってそんなに凄い人?」
「お父様は族の創設者、さらに所持されている魔力は魔界で五本の指に入るほどの実力をお持ちです」
「想像できないな……」
「どういう意味ー?俺の事はいいの。とりあえず、ルークぶっ殺す」
「お前が殺人鬼になってどうするよ。お前は許婚破棄しろ」
「……」
簡単に言ってくれるじゃないか、啓太よ。
「……ユーリ様」
「あれ、なに?俺なんかまずいこと言った?」
「私からご説明致しましょうか?」
「……ううん、俺から話すよ。あのね、魔界で許婚を解消するためには、その解消したいほうが、新しい婚約者?恋人?を連れてないと駄目なんだよね」
「へぇ、大変だな」
人事か貴様!!啓太と恋人同士だったらなぁ!!すぐにでも解消するのに……な。
自分で言っててダメージ受けたよ。
俺だって頑張ってるんだぞ!でもさ、色々あるんだから仕方ないよね!
「ユーリ様……」
「裁判長、それ以上は言わないで……うん」
「どうしたよ、優里?」
なんでもないさ……ははは。
「ですが、これはチャンスではないでしょうか」
「裁判長?」
「この気に総てを伝えるというのは、いかかでしょう」
「……なっ!?はぁ!?」
それってつまり、許婚破棄する為に、啓太にこ……こここ告白しろってこと!?いやたしかにそれは、いいアイデアだよ。一石二鳥だよ。いやそれ以上だよ。でもさ、でも……。
ちらっと横にいる啓太を盗み見る。
告白失敗したらどうしよう。それが凄く怖い。
まだ、契約する前ならよかったんだ。ただ諦めれば終わりだもん。
でも今は違う。契約はフラれたって継続される。契約破棄すればいいだけなんだけど……その分、喪失感は倍に膨れ上がる気がする。
啓太の傍にいられなくなるの、やだ。
だって、やっとみつけた大好きな人。大事で啓太の為ならなんだってできる。
この身を捧げても、いいくらい。
フラれるか、そうじゃないかはわからない。けどどうしても、悪い結末しかうかばなくて。
今を続けたくて、逃げてた。
「躊躇うより歩み出せ、後悔は全力を尽くした後にしろ……だと、昔誰かが言ってましたね」
「……わかった。……明日、ルークを魔界に呼び出す。そこで破棄する。啓太も一緒に来て」
「わかった」
明日、司法局の数人も待機し、許婚破棄後すぐに身柄を拘束するらしい。
たぶん、今夜は寝付けないな。
明日、総てに決着をつけよう。




