馬鹿なんだよ
静まり返った室内のなか、俺はベッドに横たわる啓太を見下ろしていた。もう、あの空腹感はなくなった。だけどそれとは違う感覚に支配されていた。
うれしさと、悔しさと、怒りが心の中で渦巻いている。正直自分でもどう思ってるかわからない。心のどこかで、啓太と契約したいとは思ってた。でもそれとは逆にしてはいけない。そう思ってる自分もいたのは確かだった。それなのに、もう契約はなされた。それも強引に。
「……馬鹿はどっちだよ……。っく……したくなんか……なかった……のに」
「ん……お前……まだ泣いてんのかよ?て言うか……俺何で?」
「……貧血」
「まじ?」
「ごめん……抑えきれなかった。致死量までは吸ってない……」
正直、吸血している途中から記憶がない。気付いた時はもう啓太はぐったりしていて、正直頭が真っ白になった。
起きようとしてる啓太を、何とか押しとどめる。やっぱり、まだ許せない。
「……して……」
「ん?」
「破棄して……契約」
「はぁ?」
「あんなの……するきなかった。傍にいるだけでよかった」
「……それだと、ずっとじゃないだろ?」
「え?」
「できる限り、傍にいるだけでいいって言いたいんだろ?それがふざけんなって言ったんだけど?一方的に決めんな。お前は消えるまで俺のそばに入れてよかったってなるかも知んないけど、残された俺は?なんもわけも知らずに、突然姿消されてみろ。どう思う?」
「……でも……」
「俺が突然の前になにも言わずに疾走したらどうすんの?」
「捜す!!どうやってでも何が何でも探して一緒にいる!!あ……」
「お前がそうすんならおれもそうする。お前が違う世界の存在だって知らないから、お前がいるはずもないこの世界で、お前を探し続けることになる。うっわ、俺超不憫」
想像もしなかった。自分が消えた後の啓太の事なんて、考えもしなかった。俺が消えても、啓太から俺の記憶がなくなることはない。だから今、啓太が言ったこともあり得る。
心のどこかで、啓太は俺のことなんかすぐに忘れてしまう。そう思ってたのかもしれない。啓太は他人に関して無関心なところがあるのは、もう承知の事だったし。実際去年のクラスメイトの名前すら思い出せないとか言ってたから。俺なんかすぐに忘れられるだろうって、そう思ってた。
「……啓太って、よくわからない」
「はぁ?何急に言い出すんだよ」
「だって……ほかの人には関心持ってないとか言ってるのに、実際そうだし、でも俺には構ってくれたり……。契約だって……普通もっと考えたりしない?人間同士の約束とかじゃないんだよ?俺バンパイアだし……」
「……まぁ、お前以外に友達って感じのやついないな」
「……」
「そんくらい、お前になんか興味持ったんだよ。最初のころから」
「え?」
「転校して、俺の隣だったろ席。正直俺は、転校生とかどうでもいいしとか思ってたんだよ。実際クラスのやつらは騒いでたけど俺は話しかけなかったろ?」
「うん」
そう。クラスの人たちに囲まれて質問攻めにされたんだよね。もうクラスのほとんどの人と話したんじゃないかってくらい。でも隣の席にもかかわらず、啓太と初めて会話したのって俺が転校してきて3週間もたった時だったんだよね。会話で来て泣きそうなくらいうれしかったから覚えてる。
「あんときは、なんかほっとけないなって思ったんだよ。あの頃何かドジばっかしてたし」
「う……あの頃は、この世界の生活?になれてなかったから……」
「気がついたら、お前の世話係みたいになっててさ」
「む……」
「めんどくせ―って思ってたんだ。何でおれがこんなことって。でも……お前と一緒にいるのが、いつの間にか自然に思えてきて。こういうのもいいなって思ったんだよ」
「そう……なんだ」
ていうか、なんかそう言われると恥ずかしんだけど。口説かれてるわけじゃないんだよね。
「大体俺が誰かのために弁当持って行くとか、勉強見せるとかお前だけにしかしてねーし」
「――――っ」
「つか、こんな話させんなよ。どんだけ恥ずかしい奴だよ俺」
「……」
「んで?此処まではなさせて、まだ契約破棄したいわけ?」
「それっは……」
許せないのはまだ変わらないけど、でも……もうその理由は変わってきてる。何でそんなに受け入れるの早いの?それでほんとにいいの?
啓太は関わらなくていい世界。そんな世界から俺は来た。そして今、俺はその世界に啓太を誘う。
「契約してくれて……ありがと、啓太」
これからも、ずっとずっとそばで守るから。ずっとずっと契約者でいて。
なんか、思ってたのと違う……
こんなはずじゃなかったのに
啓太がなんかでしゃばって……
あれ?
いつもの事だけどさ……
しかもまた恋愛になってない。
もう諦めろよってね。
うぅ……




