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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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初めてのアダージオ 更衣室で

知識は多い人、いますね

真理(エリゼ)の視線を感じたのか、真由子が真理(エリゼ)を見た。

ちょうど、男性ダンサーと「組んで」踊るパドドゥを語っていた真由子。


「足を踏んだら危ない」

と、よく知っていますオーラ全開で話している。


しかし、その話は以前、カトレア・クラブのオープンクラスに行った帰り、カフェ・ラ・メゾンで真理(エリゼ)が話したことだった。

真理(エリゼ)を目が合い、一瞬気まずそうな真由子、すると。


「真理ちゃん、そうよね」

と真由子が真理(エリゼ)に同意を求めた。


「前、パドドゥの話で盛り上がったのよ。真理ちゃんはお嬢さんが何度も踊っているから」

と真由子が言うが、なんだか上から目線な言い方だ。


「私は娘のリハーサルをたまに見たりしただけだから。あとは話を聞くくらいだから、真由子さんに比べたら全然詳しくないのよ」

と真理(エリゼ)。

いきなり真由子に話を振られて少し動揺したフリをして返事をする。


と同時に、カフェ・ラ・メゾンでの勝気な真由子を思い出した。

子供の頃のほろ苦い思い出を語った真理に、

「今でも昔と同じ、その他大勢」

と言われたこと。

そして、とてつもない強気な事を彼女は当たり前のように言っていたこと。


その時、

「後は、どんな注意が必要かしら」

と幸子が問いかけた。

真理(エリゼ)が真由子とのかつての会話を思い出しているなど知る由もない幸子。


「そうね」

と真理(エリゼ)。


基本的な事は既に真由子が話した通りだ。

なんだか偉そうな口ぶりではあったが、間違ってはいない。

今日のレッスンで体験できるのは、基礎の基礎、パドドゥとは名ばかりのほんの導入部にあたる部分だ。

しかも、相手はバレエ講師でもある。

心配はないだろう。

大河にはそこまでの技量は期待できないが、康太先生の助手であるなら十分だ。


しかし、真由子の話を聞くうち、幸子たちはもっと事前情報を知りたくなったようだ。

それぞれ、パドドゥとは何ぞや、とばかりに下調べはしてあるのだろうが。


「そうねえ」

と今度は真由子が言う、まだまだ話したりないと言わんばかりの勢いだ。


これ以上、真由子のウンチクを聞くのか、

めんどくさい。

それがエリゼの本音だった。


「でも、今日は体験だし、永遠にパドドゥなんかに縁のない私たちにどんな感じかを味合わせてくれるってことでしょう。

だったらそんなに危ないことも、難しいこともしないはずよね」

と幸子が遮るように言った。


吸い込んだ息を、飲み込むように真由子が一瞬顔を赤らめる。

そして。


「そうよね、みんなには良い体験になるでしょうね、

でもね、今日のこのレッスンで、次の発表会で組んで踊る人が決まるかもよ」

と真由子が言う。


まるで、

「縁のない私たち」

に自分は含まれていないと言いたげだ。

真理(エリゼ)は無言でシニヨンヘアを整えながらそう思った。


「その髪、結い直した方がいいかも」

と真理(エリゼ)が声をかけたのは晴美だった。


真理(エリゼ)の側を通り過ぎた晴美、その髪がきちんとまとめられておらず、

おくれ毛がたくさん出ている。


「あ、いつも通りよりちゃんとお団子にしてって言われてたっけ」

と晴美が慌てた様子で、真理(エリゼ)の隣で髪を直し始めた。


「そうなのよ、お団子、ちゃんとまとめていないと」

と真由子がすかさず話し始めるが、


「ねえ、これでいいかな」

とまるで真由子の言葉が聞こえていないかのように、晴美は結い直した後ろ頭を真理(エリゼ)に見せていた。


「きれいにお団子にできてるよ」

と真理(エリゼ)。


「お団子が緩いと、ピルエットでばらけたりするの。そうすると男性に当たっちゃうから」

と真由子はまだ話を続けている。

側にいた数人が、そっと鏡で髪を確認している。


「あら、晴美さんもレオタード、おニューね?」

と真由子が晴美を見ている。

確かに、今まで見たことがない、光沢のあるきれいな色のレオタードを着ている。


「そう。だいぶ前に買ったんだけど、なかなか勇気が出なくて、ちょっと華やかすぎて」

と晴美が笑う。


それは、光沢のある生地で、淡い紫が鮮やかだ。

晴美によく似合っている。

その場にいた面々も口々に、きれい、と声をかけた。


「でもね」

と真由子がまた口をはさんだ。


「そういう生地って、滑りやすくて男性ダンサーは嫌うんですって」

と。


そう言われて、うつむく晴美。

少し寂しそうだ。


「でもさ、康太先生でしょう?大丈夫よ。サポート上手だし、慣れているはずだから」

と真理(エリゼ)が言った。


「もちろん、康太先生なら心配はないわよ、でも大河くんはどうかしら。

プロのダンサーではないでしょう。いくらかつては希望の星と言われていたとしてもね」

と真由子。


「大河、くん?」

真理(エリゼ)のこめかみがピクンと動いた。


大河の事をなれなれしく呼び、しかもなんだか見下した言い方。

真理(エリゼ)はすっかり気を悪くしていた。


「大河くん、康太先生のクラスでうちの娘と一緒なんだけど、ときどきアダージオも組んで練習するらしいのよ。上手だって言ってたわ」

と真理(エリゼ)が言い返す。


「・・・」

真由子は真理(エリゼ)を見るだけで何も言えずにいた。

さすがに真理(エリゼ)の話の方が説得力がある。


「でも、私も晴美さんみたいな生地のレオタード来てましたけど、康太先生は何もおっしゃいませんでしたよ」

いきなりそう口をはさんできたのはしのぶだ。


しのぶはこの前の合同発表会で、康太先生とペアで踊った。

パドドゥの言う位置づけではなかったものの、今日のメンバーの中では唯一の男性ダンサーと「ペア」で踊った経験者だ。

そのしのぶの唐突な言葉。

なんとなく説得力がある。


「さあ、そろそろ時間ね」

と真由子はそう言い残すと、何事もなかったかのように更衣室を出てスタジオへと向かった。

しのぶの天然な話しっぷりが時には効果的なのだ、と真理(エリゼ)は密かに僅かだが好感をもっていた。

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