合同発表会、本番
発表会の幕が上がりました。夢の時間はあっという間
合同発表会の幕が上がった。
演目はどんどん進んでゆき、いよいよいずみ先生のバレエクラスの生徒たちの出番が次に迫っていた。
会場にアナウンスがの声が響いていた。
あすかバレエスタジオ、
パキータより。
出演者の名前が次々と読み上げられる。
最初はメインを務めるしのぶだ。
プログラム通りに名前がアナウンスされる。
名前が読み上げられるのは、重要な役どころ、の順番だ。
だからしのぶがトップ。
真理は後ろから数えた方が早い位置だ。
それも、子供の頃と同じ。
自分より後でバレエを始めた子のほうが、名前が先になっていた。
そんなことが、よくあった。
昔の切ない思いでに、心が重たくなったが、それを振り払うように、真理は小さく首を振った。
目の前の舞台の事だけを考えよう。
夢にまで見た、トゥシューズで踊る舞台。
まばゆいライトが舞台を照らし、音楽が流れ始めた。
まずは全員で出演するアントレー、オープニングだ。
ここでも、ポーズを取り舞台に立っている方が長い真理たち。
きらめく照明をあびながら、舞台の真ん中で踊るしのぶ、そして康太先生。
そのわきを固めるように、晴美とあかりたち、二人組のバリエーションチーム。
そんなみんなの後姿を真理を目の端にとらえながら、真理は自分の役割をこなした。
背筋を伸ばし、凛とした姿でポーズをとる、自分だってこのパキータの重要な出演者だ。
そんな誇りを胸に秘めて。
アントレーの次に、それぞれのバリエーションが始まる。
真理たちは2曲目だ。
もともと、振りは決まっている踊りなのだが、いずみ先生が多少のアレンジを加えた。
オリジナルの振りは、真理たちには難易度が高すぎたのだ。
このバリエーションを真理たちは何度練習してきただろうか。
6人揃う日も、誰かが欠けている日もあったが、何度も何度も繰り返し踊った。
それが、本番の舞台では瞬く間に過ぎてゆく。
舞台の上の6人はきっと、全員同じことを感じたのだろう、
「あっという間に終わった」
と。
真理たちのバリエーションが終わり、客席に向かってお辞儀をすると、舞台袖に引き上げた。
たくさんの拍手に包まれながら。
お辞儀をしている真理の目に、客席にいる舞香の姿が見えた。
心配そうな顔をしている。
そして、小西大河も。
薄暗い客席で、大河の眼がキラキラ光っているのがわかった。
演目「パキータ」、次はしのぶと康太先生のバリエーションだ。
康太先生にエスコートされながら、舞台中央に立つしのぶ。
「きれいだね」
と真理が舞台袖から思わずつぶやいた。
眩しい舞台の中央で、康太先生と踊るしのぶ、真理の持っていないものを見せつけられるような気持ちになりながらも、懸命に踊る姿は美しく尊い。
それを賛辞しないわけにはいかなかった。
そして、舞台はいよいよコーダ、パキータのフィナーレだ。
真理たち6人が最初に舞台に登場。
ステップを踏みながら一番後方へ移動し、ポーズをとってそのまま。
何度目かのこの光景。
真理はまた、後ろから踊るみんなの背中をながめることになった。
それでも、舞台の上にいる、これはただ喜びでしかない。
そんな不思議な魅力が舞台にはあった。
客席のお客さんたちから、暖かい拍手が鳴り響いた。
コーダが終わり、最後のお辞儀をするその姿に惜しみなく拍手と歓声が贈られていた。
舞台袖には、いずみ先生が待っていてくれた。
戻って来た生徒全員に、ねぎらいの言葉をかけるいずみ先生。
真理たちもお互いに手を取りながら、大きな問題もなく踊り終えたことをたたえ合った。
合同発表会のプログラムはどんどんと進んでゆき、いよいよ最後、グランドフィナーレの開幕となった。
この日の出演者全員によるこのフィナーレ、皆の顔は晴れやかだ。
一番手で舞台に登場するのは幸子。
舞台に出るタイミングが合わず、苦労した彼女だったが本番では完璧だ。
客席からはいつの間にか手拍子が湧いていた。
いよいよグランドフィナーレの最後、全員で踊りそして最後のポーズとなった。
一列に並ぶ真理たちが、この日のリハーサルで立ち位置が変わった。
真理たちの前に斜めに3人ずつ中腰でポーズする。
最後のポーズの瞬間は、記念写真も撮られることになっている。
出演者が舞台の上に扇のように広がっているフォーメーションだ。
真理たちは一番後ろで、手を上にあげたポーズ。
その時、真理の視界を遮るものがあった。
前にいる三人。
右足を後ろに引き、手を前に伸ばしているポーズをとっている。
身体は中腰くらいにかがんでいるはずなのに、真理の前には大きな背中が見えている。
中腰にしていないのだ。
真理のことを完全に隠してしまっている。
本番のさなか、夢中で気付かないのだろうか。
しかし、その前の人物が、少しだけ後ろを振り返り、チラリと真理を見た。
前にいたのは真由子だった。
真理と真由子、視線は同じ位置だ。
それでも、真由子は最後まで身をかがめることをしようとはしなかった。
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