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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第三部 アーネスト編

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26、再会





 オーレリアが気を失ってから半日が経過した。後続の護衛部隊はまだ合流していない。

 馬車にはエリスの張った不可視の結界が作用しており、今のところ特に問題は起きていなかった。

 だが、辺りは宵闇に包まれ、これから獣の時間が始まる。

 視認は出来なくとも匂いは誤魔化せない。

 ガイは横たわるオーレリアの身体に毛布を掛け直して額の汗を拭った。オーレリアの身体からは依然としてじわじわと黒い魔力が溢れている。

 エリスも目を閉じたまま背凭れに凭れかかっておりまだ本調子に戻ってはいないようだった。



 夜半過ぎ、馬車の外で見張りをしていたコリンはふと空気が変わったことを肌で感じた。

 辺りはしんと静まり返り、物音一つしない。

(……なんだ?この感じ……)

 季節は冬が終わり春を迎えようとしている頃だがまだ肌寒い日が多い。ましてやここは山間部に近い地域だ。寒冷な気候のはずなのに妙にねっとりと蒸し暑い。それなのに先ほどからひりひりと肌が粟立つ感覚が拭えない。

 コリンはそっと音もなく立ちあがるとこくりと喉を鳴らして腰の剣に手をかけた。

 直後、ぶわっと上空から強風が吹き荒れた。

「――‼」

 コリンは上空に視線を上げて、一気に蒼褪めた。

(――竜!)

 それも1頭や2頭ではない。軽く5、6頭はいるだろうか。巨大なシルエットが夜空を覆う。

(近い)

 通常結界の外にいるはずの竜との距離が異様に近い。結界の中だ、とコリンは瞬時に理解して蒼白になった。こちらに気付かれれば終わりだ。

 だが竜は何か様子がおかしかった。

 1頭の竜は暴れるように空中を旋回している。その後を追うように数頭の竜が続いている。竜たちは先頭の竜を攻撃しているようだ。

 ドウ!と音を立てて1頭の竜が落ちた。追われていた竜ではない。

 衝撃で地面が揺れ、突風が起こり、コリンは吹き飛ばされそうになった。

 腰を低くしてなんとか踏み止まったが、それが精一杯だ。

(こんなところで喧嘩はやめてくれ‼)

 よくわからないが、竜同士の諍いだろうか。

 竜が落下した地点がもう少しずれていれば馬車を直撃していた。背筋を悪寒が這い上がる。

 落下した竜を追うように1頭の竜が降下してきた。

 それを皮切りに次々と竜が地上に舞い降りる。

 

 気付けば6頭の竜に囲まれていた。こめかみを冷たい汗が伝い落ちる。

 流石に生きた心地がしなかった。竜1頭相手でも相当厳しいのに、6頭では嬲り殺しにされる情景しか想像できない。

 けれど逃げるわけにはいかなかった。後ろの馬車にいるオーレリアを守らなければならない。目の端に御者のロブが馬車の近くにいるのを捉える。馬車に近付く竜は彼に任せるしかないが、足止めにもなるかどうか。

 コリンは腹に力を込め、剣を構えた。

 その、直後。

 とん、と軽やかな音とともに上空から何かがコリンの前に落ちた。いや、降り立った。

「――――何故、おまえがここにいる、コリン」

「……………。……………た、たいちょ、う?」


 不機嫌そうな声から、竜よりも恐怖を覚える程の殺気が放たれる。

 だが、何かに気付いたようにふと顔を上げたアーネストから殺気が消え表情は一瞬にして歓喜に彩られた。

 馬車の扉が開いて、オーレリアがゆっくりと姿を現したのだ。

「―――殿下」

「ア、ネスト……?」

 オーレリアはまだ熱が高いのか、頬は赤く、息が苦しそうだった。だが、ずっと不在だった自分の護衛を見つけて驚きに目を瞠った。

「―――殿下殿下殿下殿下殿下」

 オーレリアが口を開くより早くアーネストが飛んだ。……少なくともコリンの目には飛んだように見えた。光のごとき速さで一足飛びにアーネストはオーレリアの前に瞬間移動すると跪いてオーレリアの華奢な身体を掻き抱いた。


(た、隊長が壊れた………)

 コリンは唖然として目の前の情景をただ見ていた。

 普段、アーネストはとても礼儀正しく、オーレリアを溺愛していることは確かだが、決して臣下の礼を欠くことはなかった。

 だが今は我を忘れたようにオーレリアを抱きしめて頬ずりし、幸せそうに満面の笑顔を浮かべている。……ちょっと見たことがないくらい、蕩けるような笑顔だ。

 オーレリアの後ろから馬車を降りようとしたガイも衝撃を受けたようにぴしりと固まってしまった。だが、暫くして意を決したようにごくりと唾を飲み込んだ。

「た、隊長…姫さまは具合が……」

 ガイが果敢にもそんなアーネストを諫めようと声をかける。コリンは仰天した。

(ガイ―――!!この状況でよく隊長に声をかけられるな!勇者過ぎるだろう!)

 だが幸いにもアーネストはガイの声など全く聞こえなかったのか、または無視しているのかオーレリアを抱きしめる腕を離すつもりはないらしく、頬ずりもやめない。

 ガイはオーレリアが大人しくされるがままでいることに、彼女の具合が悪いからだと思った。だからアーネストからオーレリアを引き剥がそうと腕を伸ばしかけたのだが、カタリと音がして後ろからその手を止められた。エリスだ。ガイが振り向くと、エリスは首を横に振った。

「……大丈夫だ、ガイ。殿下の魔力を見てみろ」

 言われてガイはオーレリアの身体から流れ出ていた黒い魔力が薄くなっていることに気付いた。

「あれ……?」

「……アーネスト殿が側にいるからだ」

「え……?」

 ガイは困惑の表情を浮かべたが、エリスはそれ以上説明するつもりはないらしく、すとんと椅子に腰を下ろすと目を閉じてしまった。まだ身体が辛いようだった。ガイもそれ以上エリスに問い質すことは出来なかった。










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