13、蒼黒1
アーネストがガイを担いで屋敷に戻ってきた時にはオーレリアは再び意識を失っていた。
「殿下はご無事か」
屋敷内に入るなり側に居た騎士にガイを押し付け、アーネストは一直線にオーレリアの眠る居間へと向かった。
側に控えていたエリスはオーレリアの首筋に手を当て魔力の循環を確認して頷いた。
「今は安定しています」
魔力切れを起こして気を失ったが、エリスがすぐに魔力を供給したのでそれ程問題はない筈だ。ただし彼女の髪と瞳の色が変わったことは普通ではない。
アーネストはオーレリアの姿を一目見て一瞬動きを止めたが、そっと側に跪いてオーレリアの髪に触れた。
「これは……」
「殿下が炎を消したあと、こうなりました。瞳は漆黒です」
エリスの答えにアーネストは嬉しそうに歓喜の笑みを浮かべた。
「……そうか。殿下は覚醒されたか」
「それは」
耳慣れない言葉にエリスは訝し気に眉根を寄せるがアーネストはそれに答えるつもりはないらしく首を振った。瞳は熱を孕んで一心にオーレリアを見つめている。
アーネストはオーレリアの髪に手を触れたまま呟くように告げた。
「殿下のことは心配いらない。私がお側にいるから貴殿はもう休め」
そう言われても簡単に納得できるものではない。せめて「覚醒」の説明をしてほしいところだが、アーネストはオーレリアの側を離れそうにない。眠っているオーレリアの真横で長々と話すことは憚られる。
エリスはオーレリアのことを聞くことは諦め、現状について訊ねた。
「……一体、何が起こったのですか」
アーネストはうっとりとオーレリアを見つめながら、口調はそれとは真逆に冷淡なほど事務的に告げた。
「ガイが無理矢理魔力を発動させられたようだ。建物を包囲した直後にガイたちのいた部屋から火柱が立ち上り、建物が崩れた。子供たちは潜入していた隊が脱出させ保護した。火はすぐに消えたため被害はほとんどない。客と人身売買組織は全員気絶させて守備隊に引き渡してきた」
エリスは詰めていた息をそっと吐いた。大惨事になるところを寸前でオーレリアが阻止したのだと改めて認識する。
火の勢いは凄まじかった。あのまま燃え続けていたら何百人の命が失われたか分からない。
魔力の強い王族でも数人がかりで対処せねばならない規模だった。しかも王城は遠い。転移魔術を使えば直ぐに駆けつけられるがあれは魔力効率の悪い魔術だ。その分魔力を消費してしまい、消火のための魔力が減ってしまう。例えどれ程王族の力が強くてもすぐに駆けつけられない以上、被害は免れなかった。勿論オーレリアが離宮にいたとしたら間に合わなかった。
オーレリアが今ここにいたからこそ起こせた奇跡。
オーレリアはガイと出会わなければ火事を消そうなどと考えもしなかっただろう。
ガイとオーレリアが出会っていなければ、ガイはまだ魔力を発現していなかったかもしれない。その場合はこのような火事も起こらなかった可能性はある。それでもガイが双紅である以上、いつかは魔力を発現しただろう。だが恐らくそれは祝福すべき力として平穏に齎されるのではなく、ガイ、もしくはニーナの命を脅かす出来事を発端とする凶事としての可能性の方が高い。
ガイが魔力を発現出来たのはオーレリアを守りたいという強い想い故だ。それは自分自身を守るために振るわれる力よりも温かく尊い。
オーレリアもまた、ガイを守るため強大な魔力を制御しきった。
エリスはガイがオーレリアに拾われたことはどちらにとっても幸運だったと感じた。
「殿下は大丈夫なのですね?」
魔力についてどの家よりも詳しく、オーレリアに関しては忠誠以上の崇拝を捧げているアーネストが心配ないというのだから問題はないのだろうが、それでも念のためもう一度確認するとアーネストはオーレリアから目を逸らすことなくはっきりと頷いた。
「殿下の変化については他言無用だ」
エリスとコリンはそれについては異存はなかったので揃って頷いた。アーネストはそれきり沈黙してしまったのでエリスはこれ以上の情報収集は諦め、オーレリアのことは彼に任せることにした。




