12、人攫い撲滅作戦5
「この辺かな……」
人身売買の会場の近くのはずだが、火事の影響か、崩れている建物があり、それ以上は危なくて前へ進めない。
熱気もあり、四方八方炎に囲まれているため、恐らくここが近付ける限界だろう。
オーレリアは炎の踊る建物を見上げた。
ガイがどこにいるのかは分からない。無事なのかも。
今オーレリアに出来ることは一刻も早くこの炎を消すことだった。
(ガイ、無事でいろ)
オーレリアは自身の体内を巡る魔力に意識を集中させた。膨大で手に負えず、時折荒れ狂ってオーレリアを害する厄介な魔力だ。
だが今はそんなことを言ってはいられなかった。なんとしてもこの火を消すのだ。
(水……この火の規模に足りない……もっと一瞬で消せる威力――)
目を閉じてイメージを固め、魔力を練る。
無尽蔵のそれが今はむしろ有難い。どれだけ使っても足りなくなることはないだろう。
オーレリアの集中力は怖い程研ぎ澄まされ、身体の中の魔力の流れが手に取るように感じられた。同時に、感覚を広げるようにして炎を捉える。
暗闇に赤々と燃える炎は見えやすく、好都合だった。
オーレリアを中心に炎に包まれた辺り一帯に結界が広がる。
紅い焔がこれ以上広がらないように。
オーレリアを抱きかかえていたコリンは、オーレリアの身体が熱を持っていることに気付き息を飲んだ。
「コリン、そのまま殿下を下ろしてください……ゆっくりと」
エリスはオーレリアが魔術を行おうとしていることに気付いて彼女のやりたいようにやらせることにした。
エリスに促されてそっと地面に王女を下ろす。ゆっくりとフードが外れてオーレリアにかけられていた幻惑の術がいつの間にか解けていたことが露わになる。彼女の強い魔力が自身にかけられていた魔術を消してしまったのだ。
目を開けたオーレリアは両手を広げ、天を仰いだ。
エリスはオーレリアから凄まじい魔力が放出されるのを感じた。漆黒の美しい焔。
直後、燃え盛っていた建物の上に黒い焔が喰らい付き、ジュっと音を立てて赤い炎が消えた。黒い焔は雷光の如き速さで屋根を走り、炎を喰らう。あたかも黒竜が焔竜を飲み込むように。
焔はオーレリアの張った結界内を縦横無尽に駆け巡る。
それは町全体を同時に、そして一瞬にして行われた。辺り一帯が一気に闇に包まれた。
ふっと空気が揺れて、コリンはオーレリアの小さな身体が倒れることを悟った。素早く近付いて地面に落ちる前に抱き上げる。
オーレリアは外灯の松明の炎まで消してしまっていたため、辺りは真っ暗だった。明るい焔に眩んだ眼には余計に闇が濃い。
エリスが魔術で柔らかな光を作り、近くに控えていた、護衛の為にオーレリアの後にしっかりと付き従って来た騎士たちを誘導し、彼らと共に屋敷へと引き返した。
屋敷へ戻り、エリスとコリンはオーレリアを居間へと運び込んだ。
素早く室内に灯りを点し、オーレリアを長椅子にそっと横たえる。
「「!!?」」
二人は目を瞠った。
オーレリアの髪が蒼く煌めいていたのだ。
「姫さま」
コリンは意識を失っているオーレリアの頬を軽く撫でてびくりと身を震わせた。冷たい。
「リア、起きてください」
エリスはオーレリアの首筋に手を触れて、彼女が魔力切れを起こしていることを悟った。額と額を合わせ、両手の指を絡めるようにして少女と手を繋ぎ自身の魔力を送り込む。少しして、オーレリアの長い睫毛が震えるように動いて瞼が上がった。
「「!!」」
エリスとコリンは再度目を見開いた。
オーレリアの瞳は漆黒に濡れていた。




