表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

20話「図書館棟のルールー②」


床に落ちた本と、その挿絵に描かれた竜。

私とナナセは言葉を失い、身動きひとつ取れずに立ち尽くしていた。

そんな私たちの代わりに、

すっと動いたのはルールーさんだった。


彼女は屈み、床に落ちた本を拾い上げる。

その動作は落ち着いていて、まるで感情の揺れを一切見せない。


「……わたしは昨日、別の仕事があって、学園には来ていなかったんだ。だから直接は見ていないんだが……」


本を手にしたまま、ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。


「けれど――どうやら、随分と大きな事件が起こったらしいね。君たちは、それを間近で目撃したんだろう?」


そして、本をパタンと閉じ、机の上に置いた。

その音が、やけに大きく聞こえた。


「……は、はい」


恐る恐る、ナナセが口を開く。


「その……ルールーさんは、正直なところ、どう思ってますか?」


一瞬、沈黙。

ルールーさんは、閉じられた本をじっと見つめていた。


「どうだろうね」


少し困ったように笑い、肩をすくめる。


「わたしは直接見ていないし、話を聞いただけだから判断は難しい。でも――」


そこで言葉を切り、再び視線を落とす。


「本当に噂通り『冥界の竜神』だとしたら、それは一大事だろうね」


空気が、ひやりと冷えた気がした。


「伝承の域を出ていなかった存在が顕現するだけでも異常だ。それも、『五大英雄』ですら手懐けることが出来なかったと伝えられる程の竜、それを召喚し、命令を出せる……正直、とても信じられない」


「……そ、そうですよねきっと……見間違いですよね。はは……」


ナナセが、どこか縋るように笑う。


「――しかし」


その言葉を、ルールーさんは静かに遮った。


「すべてを否定してしまえば、真実の芽を自ら摘み取る可能性もある」


「……それってつまり、分からない、ってことですか?」


私は、思わず口を挟んでいた。


ルールーさんは一瞬だけ視線を逸らし、

そして困ったように笑って誤魔化す。


「残念ながら、そういうことさ」


彼女は椅子にもたれ、少しだけ声の調子を落とす。


「召喚した本人に聞くのが一番なんだろうけど……君たちの担任は精霊魔道士なんだろう?精霊魔道士は機密情報も多い職だ。おそらく、詳しい話は聞かせてもらえないだろうね」


それきり、言葉が途切れる。


重く、粘つくような沈黙が、部屋を満たした。

――その時。

沈黙を切り裂くように、

ジリリリ……

と乾いた音が響いた。


部屋の隅、重厚な木製デスクの上に置かれた電話機。

黒光りするアンティーク調の筐体に、金色の装飾。

魔力供給用の結晶が側面に埋め込まれた、高級なダイヤル式電話だ。


「おっと」


ルールーさんが立ち上がる。


「電話のようだね。失礼するよ」


受話器を取り、低い声で応対を始める。

その間、私はナナセに小声で囁いた。


「……やっぱり、分からないんだって」


「まぁ……実物を見た私たちですら、未だに信じられないもんね」


でも――


私の胸の奥には、別の違和感が残っていた。

事件のあと、すぐに学園長と副校長が現れ、

“無用な混乱を避けるため”という理由で箝口令を敷いたこと。


……本当に、それだけ?


そんなことを考えていると、電話をしていたはずのルールーさんが、こちらを見て言った。


「シリカくん、ナナセくん。君たち、リディくんが今どこにいるか知ってるかい?」


「え?」


急に名前を出され、私とナナセは顔を見合わせる。


「えっと……リディちゃんなら、今日はもう帰宅しましたよ?」


少し間を置いて、ナナセが答える。


「そうか……」


ルールーさんは再び受話器に向き直る。


「ええ、そうです。はい、はい……それでは」


通話を終え、静かに電話を置いた。


「あの……リディちゃんが、どうしたんですか?」


「電話の相手は生徒会長でね」


ルールーさんは、淡々と説明する。


「今日は生徒会役員の日なのに、リディくんが来ていないらしい。こちらに来ていないか、とのことだ」


「君たち、彼女と仲が良いだろう? だから聞いたんだよ。 でもまさか委員会を忘れていたとはね。ほら、彼女はしっかり者だろう?珍しいね」


ーーと少し首を傾げるルールーさん


「え?」


ナナセが戸惑った声を上げる。


「だって、リディちゃん……今日は休みになったって……だよね? シリカちゃん」


「…………」


言葉が、出なかった。


――あのお固くて、真面目で、責任感の塊みたいなリディが。

嘘をついてまで、委員会を休む?


嫌なドロっとした波紋の様な感覚が、胸の奥でじわじわと広がる。

さっきまで『冥界の竜神』の話をしていたせいで心が不安定になってるのだろうか?


それとも――別の私自身の直感が警鐘を鳴らしているのか。 それは 分からない。


でも、身体はもう答えを出していた。


「ごめん!」


私は唐突に言った。


「あたし、その……急に頭痛が痛くなってきたから、今日は帰るね!」


その言葉が届くや否や、私は駆け出していた。


「あ!? ちょっと、シリカちゃん!?」


背後でナナセの声が響くが、振り返らない。


「ふーむ……」


ルールーさんの、どこか楽しそうな声が聞こえた。


「『頭痛が痛い』なんて二重表現をするくらい、よほど辛かったんだねぇ」


「え!? そ、そうなります!?」


ナナセの慌てた声を最後に、

私は図書館を飛び出した。


胸の奥で、不安が強く脈打っていた。


あの時、話しかけた時のリディの反応ーーそして手に持っていた自称『ラブレター』


何故だろう――嫌な予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ