実験
1ヵ月ぶりです、エクリールです。
宜しくお願いします。
時刻は夜に切り替わる丁度40分前であった。
調和の塔と呼ばれる街の中心にそびえ立つ塔の中では、今宵多くの研究者が歴史的瞬間を迎えるのだ。
高さは天に届きそうな程で、地上から見上げるのはとても困難である。
その最上階の236階にて、それぞれ研究テーマであった“魔法”と“技術”を使用した世界初の実験を試そうとしているのだ。
『魔法と技術の力を組み合わせ、新たな世界を開く』
統合による力の生産の成功こそ、この実験に意味を芽吹かせるのだ。
従来の方法では、全く異質の力を合わせることは不可能とされている。実験の後の代償があまりにも悲惨なもので、合わせることすら暗黙の禁忌になってしまった。
しかしこの街の王は自身の街の技術力がとても素晴らしいと考えていて、試みを成功させることでこの街の技術力が確かなものだと確信させようという思惑も秘めさせていた。
この王も馬鹿ではないが、傍から見たらいかにも狂った政策を打ち出そうとしてるのではと、人は考えたのだろうか。
街の人々はその瞬間を『世界が変わる時間だ』『この実験が成功したら、我々の生活もより素晴らしいものになるだろう』『これで我々は“理想郷”にたどり着けるのだ』などと賞賛し、文字通り皆がこの実験に賛同していた。
もちろんこの実験については、研究省の長たちから正式に発表されていて、前日には大規模なセレモニーが塔の下の商業区で開かれた。
実験関係者以外の立ち入りが禁じられてる中、その研究省の人達にとってその実験に向き合えることはとても光栄なことであった。
誰もがその瞬間を目の当たりにしたいと願うが、最終段階の微調整などには多くの技能が求められる為、その中でも特に優秀な人材しか選ばれなかった。
何日にも及ぶ選考の結果、魔法省と技術省の長達が二人、代々この街を統治してきた王様が一人、選考によって選ばれた十人の研究者のみが参加を定められた。
そして、その中には技術省プログラム科 最年少の男、イブキも参加をすることになっていた。
「…しかし、何で俺がこんな所に。 もっと年配の連中とかいたんじゃねえか?」
「そうボヤくなよ。オレの部下の中で一番出来がいいのはお前なんだからな!」
上部に続く階段を登りながらボヤく部下を諭すように、上司はニッと笑った。
なんて調子のいい話だ、と苦笑いを浮かべるが、さらに付け加えるように上司はにこやかに応対した。
「それに、今のうちにこういう経験しておけば、後に役に立つと思うぜ?」
「後にか……いつの話なんだろうな?」
「ははっ! そのうち分かるさ」
「…そうかよ」
談笑をしながらも彼らは上へ上へと進んでいき、ついに最上階の236階にたどり着いた。
「さて、着いたぞイブキ。 無礼のないようにな」
「えー…皆様お揃いですかな?」
部屋の奥に立ついかにも偉そうな男は、落ち着いた声でそう呼びかけた。
その場にそろう十数人の学者達は男に深く礼をして、全員がその場に出席していることを確認させた。
「うむ……揃っているようだね
それじゃあ、始めるとしようか」
部屋の中心にある大きなコンピューター、それを囲むように学者達は立っていた。
男はゆっくりとした足取りでコンピューターの前に立ち、改めて辺りを見回した。
「改めまして…今日までの研究、とても感謝していますよ。
皆様がこうして、我が街のために力を注いでくれたことを、王としてとても誇りに思います。
まずは、本当にありがとうございます」
あちこちで乾いた拍手の音が鳴り響く。
どの研究者の顔も、これからの出来事に胸を踊らせたような笑顔で拍手を送っている…訳ではなく、あくまでその気持ちは心に留め、表面では冷静さを装っていた。
「…こいつら、本当にこの王に仕える気あんのか?」
疑問を抱くイブキは、ボソッと悪態をつく。
それを拍手で誤魔化しながら、上司は微笑してこういった。
「まあ、ここはそういう人達が集まるところだ。
大人がはしゃいだりなんかしたら、みっともないと思うだろ?」
「……まあ、そうだが……」
小声で雑談をしているうちに、王は今回の企画についての説明を開始していた。
「今回のプロジェクト、概要については事前にプリントしたものを配布しました。
なので私はこのプロジェクトについてのプロセス…目標と言ったところですか、それについて説明を補足させていただきます。
……このプロジェクト、『理想郷化企画』は、我が街が誇る圧倒的な技術力に太古から伝わる魔法の力を足すことで、誰もが見た事のない全く新しい世界…すなわち理想郷を創造しようという企画になります。
理想郷をこの街に実現させることにより、人々の更なる生活の改善や、外部との争いの削減等の問題を解決させていきます。
今より快適な生活に平和が保証された世界…まさに我々は、理想郷への永住が許されるのです。
この世界には、魔法の力と技術の力を組み合わせてはならないという禁忌がありますが、
この実験を成功させることで、我々は世界で初めてこの禁忌を脱することが出来る。つまりこの街にはそれほどの力があると、世界に理解させることもできます。
この実験は、成功させることに意味がある。
皆様の日々の力を最大限に発揮させて、この街を理想郷へ変えてみせましょう」
再び拍手が響き渡った。
誰もがこの言葉を鵜呑みにしてしまい、誰も疑いを抱かない状況は不思議なものだった。
それほどまで王の言葉を、皆が信じているのだと感じることも出来た。
しかし、イブキはどこか不審に思っていた。
――本当にこの実験は成功するのだろうか。
――タブーを犯すことで、果たして何も代償を煩わずに済むのだろうか。
その疑いが晴れないまま、ポケットに隠した具現した気持ちをしまいこんで、窓の外に気をそらした。
闇に包まれた街かげを眺める青い眼光は、決して明るくはなかった。




