朝
それはいつもと変わらない朝だった。
空の輝きも雲の流れも風の香りも、全てが彼女に当たり前を促してくれて、とても心地のいいものであった。
毎日の習慣で朝の用事が全て済んだあとに、ナオは外に出て家の周りの散歩を行っていた。
賑やかな街から少し離れたところに住む彼女の家の周りはとても自然が豊かで、絶え間なく生える草原や花の香りなどが彼女のちょっとした自慢だ。
「ふわぁ〜……今日もいい天気だな。心地よすぎてまた眠くなってきちゃうよ」
誰かに聞かれているわけでもないので、こういった独り言も呟き放題。いざ聞かれた時は恥ずかしいものだが、それはそれとしてひとつの楽しみ方でもあった。
軽く鼻歌を歌いながら足の向くままに散歩を続けると、いつしかナオは街の中心街に着いていた。
街は朝からとても賑やかで、街中を駆け巡る電線の先にあるスピーカーからは時刻を知らせるアナウンスが聞こえた。機械みたいな声のアナウンスの後ろで、軽やかな音楽が流れてきたり、それを聞きながら街の人はそれぞれ挨拶をしたりと、活気に溢れた朝である。
「みんな今日も元気だなぁ。いい事だけどね?」
こっそり呟いてから、そろそろ帰ろうと街に背を向けると、後ろから聞き慣れた声がした。
「ナーオー!」
「なーにー? って、ユアだ、おはよー」
「おっはよー!」
名前を呼んだ時には遠くにいたはずなのに、余程全力で走ってきたのか、挨拶をした時にはすぐ目の前まで来ていて、声をかけ終わったと同時にナオの胸に飛び込んできた。
「うわっ!」
声とともにナオはその場に倒れ込み、
「相変わらず元気だね〜…?」
と苦笑いで応対した。
「うん! ナオも元気そうだね!」
「ユアには敵わないよ〜、僕に少し分けて欲しいくらいだ。」
「私と過ごせばきっと元気も伝染するよ!」
「元気って伝染するんだ…」
突然飛び込んできた幼なじみのユアである。
彼女と他愛のない話をしていると、ユアは「あっ!そうだ!」と何かを思い出したかのように声を張った。
「どうかしたの?」
「あのねあのね、私これからイブキくんに会いに行こうと思ってるの。
この時間だと何処にいるのか分からなくて、ナオなら分かるかなって思って今からナオを呼びに行こうとしてたんだ!」
そうだったぁー……、と一人で頷いているユアをすみに、ナオは
「イブキねぇ、何処だろう?」
と彼の居所を考えて始めた。
イブキという男はナオたちのもう一人の幼なじみで、普段は塔で仕事をしている技術士のことだ。
朝っぱらのこの時間以外は一日の殆どを塔で過ごすという忙しい生活を送っているが、たまに暇になるとナオやユアと一緒に遊んだりしてくれることがある。
「んー、多分だけどいつもの店でご飯でもしてるのかな? お腹空かせてそうだし。」
「あっ、あそこかな! ねぇ〜ナオも一緒に行こうよ〜?」
「ぼ、僕は……暇だし、いいかな…? 」
「やったあ! ナオ大好き!」
ユアの唐突な願いを断る理由が浮かばず、本日二度目のハグを受け取りながら
「じゃあ…行こうか?」
とユアを促した。
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