もう一人の幼なじみ
「ナオ? イブキくん…いた?」
中腰になり、店の中を窓から覗くユアから聞かれた。
「おっかしいなぁ…いないのかな?」
「えぇ〜…本当にいつもここにいるの?」
疑心の目を向けて、それでもいるかもしれないとくまなく店の中を探すユアに
「いつもはいるんだけど……今日はいないなぁ…?」
と、同じく隣で窓を覗くも半場諦めたようにナオはボヤいていた。
「う〜、いつも黒い服きてるからわかりやすいと思ったんだけどなぁ…見当違いかな?」
「確かにねー…この街じゃ黒服は珍しいし、もはや彼はまっくろくろすけ……」
言葉を言い終わらないうちに、ナオは「げ」と声を上げた。
「ど、どうしたの? 居たの? …って、あ!」
何事かと振り返るユアと、彼から注がれる怒りの視線に苦笑いを浮かべるナオは揃って目的の人物を発見することが出来た。
黒服に身を包み、まっくろくろすけと言われた男は「……ったく」と重く毒づくと、いつにも増して低い声で二人に呼びかけた。
「朝から店の前で不審な行動をとったり、探している人物をまっくろくろすけ呼ばわりか……なんなんだお前らは…?」
「や、やあイブキ。今日もいい服のチョイスだ…ね?」
軽い怒りを感じ取り、怖気つきながらもナオはイブキに挨拶を返す。
服については何も返すことが出来ず、改めてまじまじと自分の服を見てからイブキは苦く目を光らせる。
「悪かったな私服がほとんど黒でよ。
それと、わざわざその話題を持ち上げなくてもいいだろ?」
「もしかしたら怒ってるかなぁ…って思って…その…ごめんね?」
「……まあ、いい」
朝から散々だなと悪態をついてから、
「ところで、俺に何か用か?」
と、ナオとユアに要件を聞いた。
「あ、そうそう! 私イブキくんに渡したい物があるの!」
「渡したいもの?」
「うん! …えーっとね」
ユアはゴソゴソと、肩からかけたカバンに手を突っ込んでプレゼントたるものを探しはじめた。
「……あぁぁ〜…おうちに置いてきちゃったぁ〜…!」
「あーあ…それはどんまいだね」
半べそ状態のユアをナオは軽く宥めた。
イブキは初めは「…そうか」と呆れ返るも、腕時計を見てからユアに一つ提案をした。
「ユア、お前の家までここからどれくらいかかるんだ?」
「えーっと…大体20分…かな? 少し入り組んでるところにあるからさ〜!」
「………成程な」
考え込むように沈黙した後、イブキは言葉を続けた。
「俺今から塔で仕事が入っている。渡すものがあるなら直接塔に来てくれるのが有難いんだが…」
塔というのは、街の中心にそびえ立つ『調和の塔』と呼ばれる施設のことだ。
この発展都市である街を支える重要機関で、高階層部では街を豊かにするため、様々な研究が毎日行われている。
イブキが属する研究チームは、街全体を覆うネットワークを構築するプログラムを制作するもので、不備がないかを調整したり、また新たなプログラムを生産することで街をより過ごしやすいものにしていく。
ユアはイブキの問に対して即座に
「わかった! じゃあ急いで持っていくね!」
と、ニコニコしながら街の中を駆けていった。
「ユアってば、慌ただしいな〜。賑やかで楽しいんだけどね」
「騒がしい、の間違いだろ」
「そう言ってやるなって〜」
肘でつつくナオを隅に、イブキは時間を確認した。
「…さて、俺もそろそろ行かせてもらう」
「あー…仕事だったね。 頑張って!」
「おう、じゃあな」
振り返って真っ直ぐに道を歩いていくイブキをナオは見送った。
賑やかな街の中でとくに仲の良かった二人が去ったあと、ナオは今後何をしようかと検討していた。
「んー、みんな帰っちゃったし…僕も買い物済ませて帰ろうかな?」
今日で貯蓄のパンが切れちゃったはずだから、何切れか買って……あと、ミルクも買っておかないと。
自分の生活について、必要なものをいくつか考えながらナオは街の南部に広がる商業地区へと向かった。




