街並
「ったく、この世界はせっかちな人間・・が・・・お〜〜〜すげーーー!」
門を抜け、顔を上げるとそこは情緒溢れる活気づいた世界が広がっていた。
石畳の道路、レンガ造りの建造物、世界遺産に登録されていても納得する程、欧州に似た街並。
通行人からも笑い声が多く、活気に満ち溢れていると言う事が伺えた。
まさに中世ヨーロッパという雰囲気に相違ない。
田舎から都会に出てきたお上りさんの如く、周りに眼をやっていると、腹の虫が鳴った。
(――流石に腹が減ったな。デルバート曰く、宿屋を取ってくれてるらしいからまずはそこに行ってみるか)
教えてもらった場所を元に道なりに真っ直ぐ歩いていると、ベッドのマークをした看板が眼に入った。
「ここか?」
分かりやすい目印を見つけ、そのまま建物の中に入る。
「いらっしゃい! 素泊まりなら銅貨二枚、朝食、夕食込みなら銅貨二枚と鉄貨五枚だよっ!!」
そう入るやいなや中々通る声量で声を掛けてきたのは恰幅の良い黒人のおばさんだった。
見た感じで命名するならボブママだ。
近所の世話焼きおばさんといった雰囲気で、白い歯をきらびやかに見せていた。
「デルバートさんの紹介で来たんだけど・・・」
「あ〜アンタがコタニさんかい? デルから話は聞いてるよ! お代は貰ってるから、こっちの名簿に名前を書いとくれ!」
体格の割にはテキパキと準備を進める。
中々に仕事が出来るおばさんの様だ。
「・・・うん・・・読めん」
哲哉は渡された羊皮紙に名前を書こうとするが、何が書いてあるか全く読めなかった。
どうしたもんかとペンを止めているとボブママが、なんだい字書けないのかい?それならそうと早くいいなっとペンを奪い取ると、代筆してくれた。
――流石ボブママ、出来る女は違うね、オバハンだけど。
「よしっ! じゃあこれが部屋の鍵ね。二階の上がって右奥の部屋さ、エールのマークがあるからそこがアンタの部屋だよ。夕食は午後の鐘が鳴る頃だから、また下に降りといで!」
チャリッとカウンターに鉄製の鍵が置かれる。
「分かった。ありがとう」
そう言って鍵を手に取り、そのまま二階へと上がる。
言われた通り、順番に扉のマークを確認していくと、右奥のジョッキマークの扉があった。
貰った鍵を鍵穴に差込み周して開くと、八畳程の部屋がそこにはあった。
シングル用のベッドと小テーブル、一人掛けの椅子、素朴な洋服ダンスがあり、ベッドの反対側には窓があるだけで、とても簡易的だったが中々綺麗な部屋だった。
「無料でこれはいいね」
呟きながら鍵をテーブルへ置くと、持ってきた小バッグの中身を適当にテーブルへと出していく。
そして窓を開放してやると、ずっと我慢していた煙草を取り出し、ライターで火を着け一服した。
「・・・ふぅ〜・・あっこれも作れるか分からんけど、記録保存しておこ」
ニコチン切れると作業効率三割減と訳の分からない事を呟きながら、先程、手に入れたギルドカードを手に取り、考えていた。
(色々とバタバタしてて後回しにしてたけど、ここが異世界なのは間違いないよな。血を垂らしただけでこんなカードが出てくるし、これも魔法なんだろう。昔読んでた異世界物の小説にはまず帰る方法を探すってのがお約束であるけど・・・)
哲哉は感じていた。
こんな刺激的な世界を満喫出来るまたと無い好機だと。
確かに一度は死にかけたが、今は生きる術も有り、心理的余裕もある。
勢いで面白そうだから決めたが、冒険者をやりながら各地を巡り、有るかどうかまだ分からない、ダンジョン攻略をしたり、珍しい生き物の探索、人工遺物収集も有りだなと。
そのついでに帰る方法を探す、さらについでに同郷のよしみで逃げた人を保護しても良い。
(・・・悪いくない)
一人で納得しながら、今後の目的を定めたので、一旦スーツを脱ごうと左腕に搭載されている小型ディスプレイに視線を向けると、新たな文字が浮かんでいた。
>> 未知のエネルギー源が計測されました。
>> 可視化のため、システムをアップデートしますか? Y/N
ボブママって・・・いやイメージね?
――――――――――――
テツヤ=コタニ 27歳 男
職業:冒険者
階級︰G
適正:銃剣術
技能:演算処理
称号:黒鎧の騎士