剣鬼
「貴殿が、フィンの言っていた恩人か?」
そう来るや否や話しかけて来たのは、身長二メートルはあろうかと言う大男で、筋骨隆々、髪は茶髪のスポーツ刈り、左頬に十字の切り傷があり、歴戦の猛者と言った感じの雰囲気を漂わせていた。
「どういう風に伝えられてるか分かりませんが、一緒に来たテツヤ=コタニです。それで貴方は?」
「これは失礼した。俺はデルバート、一応ここの騎士団の面倒を見ている」
すると、まだ居たのか、ブライモンが驚愕の表情で口を開き、会話に入ってきた。
「デルバート様!? あの王国騎士団長を勤めてる剣鬼デルバート様ですか?! 二年前、問題となっていた獣人盗賊団百人を相手にたった一人で壊滅させたあの!」
説明有り難うよと思いつつも、この人はいつまで居るのだろうと考えていた時、フィンが口を開く。
「えーっと色々とする事もありますし、まずは兵舎の中で話しませんか?」
哲哉はそれもそうだなとフィンの意見に同意し、小門の方へと案内された。
王都は城壁の高さ二十メートル、壁の中央には縦八メートル×横六メートルの大門が有り、その右隣に兵士用なのか一人通れるぐらいの小サイズの小門が有った。
大門の方は商人の団体や荷馬車用なのだろう。
列を成して並んでいる商人たちは全てこちらの大門へ並んでいた。
小門を潜ろうとした時、何故かまだブライモンが付いて来ようとしていたので、フィンに止められていた。
軽く哲哉を見た後、残念そうな顔をしてトボトボと大門の列へ歩いて行った。
―― 一体何がしたいのだろう。
そして無事に小門へ入ると、十畳ぐらいの部屋へ通された。
中央には小さなテーブルが一つと腰掛けの椅子が二つ対面で並べられ、壁側にはぐるっと囲むように鎧や剣が並べられていた。
デルバートはテーブルの椅子へ腰掛け、哲哉を対面に座る様に促す。
哲哉も対面に座る形で椅子に腰掛けると、フィンが紅茶を運んできた。
この世界にも紅茶があるんだなと感じつつ、紅茶を手に取ろうとした時、デルバートが口を開いた。
「まずは改めて礼がしたい・・・フィンを救ってくれた事、感謝する」
そう言うとデルバートは深々と頭を下げた。
「いえ、困った時はお互い様と言うか、女性は助けろと祖父からの遺言もありますし」
「そうか・・・」
そう呟いて、デルバート頭を上げた。
「それで心苦しいのだが、二、三質問したい。宜しいか?」
「はい、答えられる事であれば・・・」
そうしてデルバートは自分達の事情を加味しつつ、その時の状況の説明を求めた。
実はフィン以外、魔物に殺されていた兵士達だが、それぞれ貴族の三男や四男坊で、つい最近フィリアーナ騎士団へ所属になったようだ。
何故、騎士団へ貴族が入団するかと言えば、フィリアーナ騎士団は元々王族専用の近衛隊だったらしく、それが大きくなり今の騎士団へと形付いた。
その為、王侯貴族とフィリアーナ騎士団との間には多くのコネが存在する。
そのコネを使って王侯貴族が箔をつけるために、自分家の嫡子以外の息子を騎士団へ入団させ、少しの手柄で一気に昇級させて家に戻し、嫡子の補佐に就け、補佐数を競うという所謂見栄の張り合いが日常化していた。
勿論、そんな下らない見栄合戦を無視して、入団拒否等が出来れば良いのだが、騎士団は貴族から多く援助金を出して貰っている為、表立って文句も言えず、頭を抱えていたそうだ。
そして、今回の事件である。
魔物に殺された五人は、各々が日常の訓練について行けず、嫌気が指しており、騎士団を抜けたがっていた。
しかし、手柄を立て昇級しなければ、騎士団からは抜けられない。
だが、昨日、日中帯にも関わらず、夜の様に暗くなり、そしてドラゴンが落ちたという情報入った。
明日には調査団を編成して調査に向かうという話し合いがなされたが、手柄を焦っていた五人は調査団を無視して、勝手に向かってしまった。
この時点で五人の中では調査はもう成功したも同然で、騎士団を抜けるのは確定になっていた。
そこで、これまで五人共、気になっていたフィンに眼を付け、どうせ退団するなら何しても良いと寝ているフィンに更に睡眠魔法を掛け、連れ出し、森の中で輪まそうとしていたらしい。
――それで殺されるとは何ともお粗末な話である。
一通りの事情を聞いた哲哉は呆れた表情で、デルバートを見ると、デルバートもバツが悪そうな表情をしていて、申し訳ないと再度頭を下げたのだった。
長々と話しして、王都には入ったけど、まだ街に入れない!!
解せぬ。
ってかブライモンって何?