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最終話「ロリババア、還らず。」


 しつたちが消えると、先ほどまで騒々しかった食卓が一気に静かになり、外の鳥のさえずりも聞こえてくる。


「さて、片づけて洗濯でもしましょうか。お前たちも手伝ってくれ。今日は夕方に雨が降るそうですから早めに干してしまいましょう」

 一人になったいつきは、何事も無かったように食器を持って片づけ始める。その周りを、部屋の外で待機していた箒と雑巾がちょこちょこと付いていく。台所では泡をまとったスポンジが踊りながら洗い物を待ちかまえている。


「……」

 そして、壁に刺さったままの逆さ吊りになっている月光をちらりと見る。月光は少女の形になっていて、病的に白い足の片方が壁に埋まったままになっている。重力に従って漆黒のワンピースと漆黒の髪が垂れ下がっており、堂々と日の光に曝されている漆黒のパンツにはリボンの代わりに三日月のワンポイントが付いている。ブラはつけていないし、そもそも垂れ下がるようなものも付いていない。異世界とこちらは月の周期が違うようで、今は三日月の状態になっている。


「月光さん。女の子がはしたないですよ」

 服と髪が垂れ下がって新種の生物のようになっている月光にいつきは声をかける。

「あとでその壁の穴と障子の穴、塞いでおいてくださいね」

「これは、瑟のせい……。月光は、悪くない……」

 上体を起こして壁に刺さった白い足を引き抜こうと奮闘する月光に、いつきは先ほどより声を落として静かに言う。

「月光さん」

 その声に薄ら寒いものを感じた月光ははたと思い出す。


               ~・~・~


 ――以前、悪霊を退治するために田舎の古民家へ出向いた時の話である。そこで深夜に古民家の庭に現れた悪霊と戦うしつは、同行しているいつきの注意を無視して突っ込んで傷を負ったことがある。怪我自体は大したことがなかったのだが、無茶をした瑟に、仕事着の八藤丸文紫(よこいと)白の袴を穿いたいつきは静かな笑みを浮かべながら近づく。


「瑟さん」

「ふふん、どうじゃお前様。やはり儂が突っ込んで正解じゃったろう」

「瑟さん」

「お前様? 笑顔で目が笑っておらんのは怖いぞ?」

「瑟さん。ちょっとこちらへ」

 ここで瑟は斎が怒っていることをようやく理解し、一歩後退する。


「――よ、良いではないか。こうして悪霊もちゃんと祓えたのだし、儂は丈夫じゃから……こ、こっちに来るな!」

 ひきつった笑顔で後退りを始める瑟の首から伸びる鎖を斎が掴み、ちょっと力を込めると、瑟の脳天に夜空から雷が落ち、彼女は体を痙攣させながら「のじゃじゃじゃじゃ!」とか言って黒こげになったことがある。もっとも、黒こげ(褐色肌)なのは元からだが。


 雷を受けて崩れ落ちた瑟は、地面にうつ伏せになって尻が上がっているという情けない格好になっている。

「まったく、無茶をするんですから。肝を冷やしましたよ。瑟さんに何かあったら僕は首を吊ってしまいます」

 ピクピクと痙攣を続ける瑟を眺めながら斎は眼鏡の位置を指で直す。

「お、お前様、の電、撃で今、し、死にそう、なんじゃ、が、儂……」

「瑟さんは丈夫ですから平気でしょう。ほら、いつまでも地面に懐いていないで立ってください。依頼者の方に報告して帰りますよ」

「この、き、鬼畜、眼鏡め……」


 力なく罵る瑟をつまみ上げて車へと戻る斎の後ろを桜花と月光がヒソヒソと話ながら歩いてくる。

「……なぁ、月光よぉ。ありゃあ、逆らったらやばいな。あねごより恐ろしいぜ」

「……うん」


               ~・~・~


 ――そう、この男には逆らってはいけないのだ。月光には封印の鎖が無いから瑟のようにはならないだろうが、それでも何かしらのキツいお仕置きが待っているのは確実である。自分より遙かに強い瑟ですら敵わないのだから、多少の不満があってもここは大人しくするべきだ。


「障子と壁の穴、塞いでおいてくださいね?」

「わ、わかった……」

「道具は倉庫にありますから」

「……はい」

「お願いしますね」

 笑顔のまま食器を流し台に置くと、いつきは思い出したように手を叩く。


「ああ、そうだ。学校に電話をしないといけませんね。お前たちは先に掃除を始めててくれ」

 スポンジが踊りながら皿を洗い始め、箒と雑巾がうなずいて散開すると、いつきは廊下にある古ぼけた黒電話のところへ行き、受話器を取ってダイヤルを回す。コール音はすぐに途切れ、受話器から応答の声がする。


「あ、もしもし。お早うございます。私、二年三組の倉稲うかのはふりの父のいつきです。はい。はい、いつもお世話になっております……」


【最強妖狐の儂が異世界召喚されてしまったのじゃが?】完。

 読了、お疲れさまでした。そして、最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。m(_ _)m

 さて、約二週間という短い連載となった「最強妖狐の儂が異世界召喚されてしまったのじゃが?」はいかがだったでしょうか。未熟な所も多い作品ではございますが、少しでも面白いと感じて頂けたのなら、書き上げた作者として至上の喜びでございます。


 なお、本作は元々読み切りのつもりで書いていたので続きはありません。ここで終わりです。ですが、()があれば、再び倉稲瑟は皆様にお会いできるでしょう。


 最後に、皆様が良い小説と巡り会えるよう、また良い小説を書き上げられるようお祈りしております。

 それでは、素晴らしい小説ライフを。(`・ω・´)ゞ

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