プロローグ
ずっと書きたくて書きたくて書きたくてようやく形に出来た作品です。
最後までお付き合いして下さったら幸いです
どうしよう……。
どうしよう……。
どうしよう……どうしよう……どうしよう!
血が冷たくなる。
身体が震えて止まらない。
流れ込んでくる恐怖と絶望に涙が止まらない。
伸びた過ぎた黒い前髪の映る視界の前に映る光景……。
大きな池。
激しく揺れる水面。
崩れ落ちた桟橋。
遠くに離れていくゴムポール。
葉のように揺れる白い帽子。
周囲から飛び交う悲鳴と喧騒。
両手をバタつかせながら水の中に沈んでいく少女……。
「助けて……誰か……だれっ」
少女は、水を飲み込みながら必死に助けを求める。
しかし、泳げない彼女は手足をバタつかせながら遠くに、深く沈んでいこうとしている。
「け……警察は!?」
「今呼んだ!でも間に合う訳……」
「あんた早く助けに!」
「無茶言うなよ!こんなでっかい池!」
「桟橋も崩れて近づけない!」
「おいっなんとかならないのか!」
騒ぎと悲鳴が砂嵐のように荒れる。
しかし、ナツにそんな声は届かない。
目の前で溺れ、沈み、消えていこうとしている少女の声しか聞こえない。
「誰か……助けて……」
水の飲み込み、吐き出しながら少女は弱々しい声を上げる。
「誰か……パパ……ママ……」
少女の目から涙が溢れ水に溶け込む。
「ナ……ツ……」
ナツの目が大きく震える。
「……ちゃん……」
ナツは、弱しく足を踏み出す。
「……ちゃん……ちゃん……」
血が冷たい。
指が……足が悴む。
「……ちゃん……ちゃん……ちゃん」
空気が凍てつく。
白い煙のようなものが宙を漂い、煌めく粒を含み冷気へと変わる。
ナツが足を踏み締めるたびに草に霜が走り、地面が白く染まっていく。
「ひっ!」
ナツの異変に気づいた女性が悲鳴を上げる。
その声に気づいた周囲の人々もナツを見て連鎖的に悲鳴を上げる。
しかし、そんな反応になど気づきもせずナツは池に、溺れる少女に向かう。
「……ちゃん!……えちゃん!……えちゃん!」
地面が凍る。
草花が凍てつく。
人々が凍える。
「姉ちゃん!」
ナツの足が池に触れる。
刹那。
氷が走る。
ナツの足を中心に白く煌めく塵が池を幕となって埋め尽くし、池を鏡のように凍り付かせる。
「え……っ?」
何が起きたか分からず呆然とするナツ。
周囲の人々が絶句する。
ナツは、足を上げる。
靴の跡がくっきりと氷に残る。
視界に白いものが映る。
伸び過ぎた前髪が雪のように白くなってる。
「なんで……」
ナツは、消え去りそうな声で呟き、前髪に触れる。
「姉ちゃんは……?」
ナツは、姉が溺れていたはずの場所を見て……絶句する。
そこにあったの氷の彫像。
白く……細く、脆い……女の子の腕の形をした氷の彫像。
姉ちゃんの……手……。
「あああああああああっ!」
ナツは、絶叫し凍った池を走る。
走る度に氷の粒とが走り、足跡に氷柱の草が伸びる。
氷の彫像の前に座り込む。
白い氷の手。
凍りついた人間の手。
凍りついた……大好きな姉の手。
分厚い氷の下に恐怖に顔を引き攣らせた姉が凍りついていた。
「姉ちゃぁぁぁぁんっ!」
ナツは、叫び氷を叩く。
何度も何度も叩く。
しかし、氷は割れない。
ナツの小さな手が裂け、赤い血が弾けて凍りつく。
「誰か!」
ナツは、泣き叫びながら岸の向こうで傍観している人々に叫ぶ。
「誰か!姉ちゃんを助けて!誰かぁ!誰かぁ!」
しかし、ナツの声は彼らに届かない。
冷気に染まり、虚しく砕けていく。
そして彼らの表情もまた固まってる。
死相のように青ざめ凍てつく。
「氷結病……」
誰かが凍えた声で呟く。
ひょう……けつ……びょう?
「なんで氷結病患者がここに!?」
こきゅ……とす?
「うそ……この街にいるなんて聞いてない!」
「やべえぞ……凍らさせる……」
この人たちは何を言ってるの?
でも……そんなことより……。
「誰か……姉ちゃんを……」
ナツは、よろよろと立ち上がり、前に出ようとする、と。
「近づくな!」
ガツンッ!
誰かが投げた石がナツの額にぶつかる。
赤く凍った石が氷の上に落ちる。
額から流れた血が固まっていく。
「近づくな……化け物!」
ばけ……もの……?
ナツは、言葉の意味が分からず赤く凍った石を見る。
その横に映る自分の顔を見る。
雪のような髪に血色の瞳をした自分の顔を……。
悪魔のような自分の顔を。
ナツの悲鳴が凍った世界に響き渡った。




