第9話 いざ! 海釣りへ!!
嘘をついたことに嫌悪感はない。
これはこの社会が定めた生存戦略に他ならないからだ。
魔力は選ぶ。
人を。
魔力はえり好みする。
形を。
魔力は決める。
人生を。
じいちゃんはそう教えてくれた。
火は人々を暖める。
水は人々を潤した。
大地となる土は人々を立たせる。
雷は人々を鼓舞し、風は人々に新たな力を吹き込む。
皆を照らすは光。
皆を貶めるは闇。
これが7大魔力変換の原則たる説だ。
人々は生まれながらに決まる。
火に燃え、水に流れ、土に立ち、雷のようにほとばしり、風のように吹き抜け光のように照らす。
それら6大元素たる魔力の変換できる事象に光が全てを凌駕する思想たる光の神がいるのだから。
闇は疎まれる。
悪魔の力であると。
今でこそ人としての権利を得てはいるものの未だ蔓延る闇への強い憎悪と言うのは消えない。
でも……光の魔力をそのままに体現するじいちゃんは言った。
『人は……きっと魔力を色では見ない方が幸せなんだ。正義と悪の裏側には本当は大差なんてないんだ』って。
正直、疎まれようが何されようが知ったこっちゃないんだけれども、さすがに自分から目立つ行為は避けたいのでちゃんと嘘をつく。
でもなぁ、闇魔法って結構便利なんだよなぁ。
闇の根本は物質を引き寄せる力にある。
光をもねじ伏せて、すべての事象をゆがめる魔術。
そこを使って毒やら何やらを細かく除去できることに気づけた。
いやぁ、目に見えない毒物をクリアにするのに本当に時間をかけて苦しんだから助かる。
一回息できなくて死にかけたもんなぁ。
おかげで闇の魔力で本当に良かったってすごい思う。
おかげで未知なる食材を探求できるし他人から罵られたり悪態をつかれたりするなんておまけだよ、おまけ。
気にするほどの事じゃない。
そんな、こんなと皆の自己紹介を空腹の傍ら流れで聞いて講義に対する事前説明も終わり晴れの舞台である入学式は幕を閉じた。
本日の学院は解散となり築かれていくコミュニティーを横目に荷物をまとめて俺は足早に廊下へと出る。
しかし、その時だった。
「ノエル……さん」
早く、この部屋出たにもかかわらず俺の名前を呼ぶ声に見当しかつかない。
「はぁ……」
思わず溜息が出てしまった。
「どなたでしょう?」
一応初対面を装うべく昨日とは違う丁寧な物言いをして振り向く。
すると思ったとおり、そこにいたのは昨日、出会ったネィルだった。
まあネィルと言う名前は偽名だって、さっきの自己紹介で分かったんだけどね。
おかげで関わり合いにはなりたくない度が上がった。
この王国、第四王女様とか恐れ多くて気が引ける。
気がする。
けれど、呼び止められてしまったからには向かわざるを得ない。
なぜなら、この国の頂点に並ばれるお方なのだから……
こういう社交の場で、どういう態度を取っていいのかわからないがちゃんとした作法はじいちゃんから習っているからきっと安心だ。
「これは、これは……ご機嫌麗しゅうございます。ネリエル王女様。して……私めに何か御用にございますでしょうか?」
すると何故かさっきまで向けていた眼差しは、どこか火が消えたかのように彼女はうつむいたのだった。
非礼……だっただろうか?
今ここで面倒を起こされると今後の計画に支障が出る……
そんな思考を他所にネリエルはどこか寂しそうな表情をなぜか浮かべた。
「急に……呼び止めてしまいすみません。昨日の件で少しだけ……お話をしたくて、呼び止めてしまいました」
「お話……ですか?」
「はい……」
「あの時は矢無負えない状況だったかと存じます」
今更ながら周囲の目が痛い。
さっきまで王女様はちゃんと注目の的で挨拶の行列ができていたほどなのだから仕方がないのだけれども……
とりあえずは波風立てずにやわらかにと。
「もし……何か、お心を煩わせてしまっているようでしたら、失礼しました。私はさしずめ田舎者……あなたとは住んでいる世界が違っています故……では!!」
「あ、あの!!」
俺はそそくさと歩き去る。
よし!! きっとやんわりと社交辞令風に断る事に成功した。
これは不測の事態だが、相手にお気遣い結構という遠巻きに……しかも自尊心を傷つけずに関わらないでくださいお願いします!! と言う戦法は効果抜群だろう。
せっかく呼び止めてまで話そうとしているところ悪いんだけど……この後、俺はどうしても行かなくてはならないのだ。
海に!!
広がる白い砂浜。
青い空!
白い雲!
さざめく海が穏やかな波を作り照り付ける日差しが体を焼く。
潮の香りが俺の経験にない体験をもたらすのだからわくわくしてしょうがない。
山にひきこもってた頃ならいざ知らず、こうして目の前まで来てしまえばなんと、まあ興味の尽きない場所なのだろうか。
昨日は王都の街並み見学でとどめていたが今日は違う。
午後という空いた時間はとても貴重だ。
俺は道具をさっと取って寮を出てひたすらに歩いた。
そしてとうとう砂浜へ着いて持ってきた道具の品々を広げ準備を始める。
竿に糸を通す。
針を括り付け近くのさびれた釣り具屋で買ったエサをコネコネと、こねくりつけて出来上がり!
「今日は……釣るぞ! 海の幸を!」
このために我慢した。
屋台に並ぶ海鮮の数々を。
今まで味わってきたものと言えばじいちゃんが王都へ行って買ってきてくれた魚だった。
まあ美味しくないのなんのって……
しかし、じいちゃん言った。
『海の魚は釣りたてが一番美味いんだよ』と!!
話半分に「ほーん……」って聞き流していたけれど、あの話は本当なのかここで確かめずにはいられない。
「さて……スポットはここで良いかな」
川釣りでも、そうだけど結構魚のいる位置を探りながら釣るのが難しい。
本を読んで魚の種類は知れても釣り方までは教えてくれないのだからむず痒くてしょうがない。
何度、時間と体力を浪費して失敗したことか……
それである日、川釣りに来てた謎のおっちゃんによく教わったっけなぁ。
グリップを握り右へと針を流してから思いっきり竿を振る。
するとちゃんとシュっと行ってストンっと水面へと餌付きの針は着水してくれた。
「おお。さすがは都会の竿……性能良いなぁ」
田舎で売られている竿はだいたいが糸と針さえくっついてればどうにでもなるスタイルの物だったから拍子抜けする。
それからは岸壁に腰をかけて波にぷかぷかと浮かぶ浮きを見つつ左手で竿の振動を確かめながらひたすらに待った。
どのくらい経っただろうか。
でも釣る物と言えばなんでもいいから特に魚に合わせた方法を選んでる訳じゃないからなぁ……
時間もかかるだろう。
遠目に見える魚船らしき船が右にプカプカ、左にプカプカと行ったり来たりを繰り返した頃……腹が鳴った。
「あー、釣れねぇ……」
「釣れないですね?」
「まったく川釣りだとそこそこ釣れてたんだけど、やっぱり土俵が変わるとこうも違うものなんだろうか」
「川釣りもしていたのですか?」
「そりゃ山に籠ってたか……ら。え?」
あれ?
俺は今……誰と?
「ん? どうしましたか?」
ゆっくりと横を向くと風で淡い金色の髪を海風に揺らしながら俺を見つめているネリエルの姿があったのだった。




