エピローグ 校長挨拶
九月。
まだ残暑が残る秋空の下、グレイムの街を見下ろす小高い丘のふもとには、壮麗な石造りの校舎が連なっている。
ここ、『グレイム勇技総合大学校』では、今年も入学式が始まろうとしていた。
中庭には、期待と緊張に胸を膨らませた四百人の新入生たちが顔を揃えていた。
「――それでは、校長のマルク三世からの挨拶です」
司会の声に導かれ、一人の老戦士が壇上へと足を進めた。刻まれた深い皺は、彼が歩んできた数多の激戦の証であり、その背筋は鋼のように真っ直ぐに伸びている。彼は年齢を感じさせない、凛とした声で語り始めた。
「本校は、奇しくも今年で創立百周年を迎える。本校の開校以降、近隣の若手冒険者の生存率が劇的に改善したことは、諸君らも聞き及んでいることと思う」
老校長は、かつて小さな学び舎が建っていた丘の上を、慈しむような眼差しで見上げた。
「いまや辺境随一と称される本校も、その始まりはこの丘の上で産声を上げた、小さな訓練校に過ぎなかった。そして――」
彼は、入学したての若者たち一人一人の顔を見渡すように言葉を継いだ。
「本校を設立したのは、王でも貴族でもギルドでもない。諸君らと同じ、たった四人の冒険者の手によってであった。彼らは私財を投げ打ち、自らの人生のすべてを費やして、この丘の校舎に魂を吹き込んだのだ」
「ひとりは、本校の初代校長であり、アレクス勇技総合大学校のノウハウをこの地に根付かせた、マルク・ヴァン・グレイロード」
「ひとりは、巨大な物流網を築き上げたグレイム=オルフェ商会の創設者、オルフェ・ルミナ・エトワール」
「ひとりは、安価で高品質な魔法薬を普及させ、ベアトリス製薬の礎を築いた、セドリック・ガイル・ベルモンド」
「ひとりは、冒険者への融資制度を確立したどんぐり銀行の初代頭取、アルテ・フィリス・ラグーン」
学生たちは、歴史の教科書に名を連ねる英雄たちの名を聞き、居住まいを正した。
「かつてパーティメンバーであった彼らは、互いを信じ、それぞれの強みを活かし、力を合わせてこの場所を創り上げた。諸君らも、かの創設者たちを見習いなさい。仲間を信じ、仲間と共に歩むこと。それが冒険者として生き残るための、唯一にして最大の秘訣だ」
会場から地鳴りのような拍手が巻き起こる。それを手で制した老校長は、ふと柔和な、一人の冒険者としての顔を見せた。
「さて、歴史の勉強はこれくらいにして、本題に入ろうか」
「……これは、俺がまだ、駆け出しの冒険者だった頃の話だ」




