第40話 帰るための道は見えた。でも今の俺は、もう一人ではそこへ行かない
監理塔を出た時、夜風がやけに軽かった。
ついこの前まで、帰り道なんてあるかどうかすら分からなかった。
今は違う。
北隔離立坑第三保守門。
そこに何があるのかまではまだ見えないが、少なくとも“次に行く場所”ははっきりした。
「で、どうするの?」
エルフィーが聞く。
俺は少しだけ空を見た。
地球の夜空とは違う。
でも、最近はこの空の下で守りたいものの方も増えてしまった。
「行く」
それは当然だ。
「でも、一人では行かない」
言ってみると、自分でも少し驚いた。
前の俺なら、帰れる可能性が見えた時点で、たぶんもっと焦っていただろう。誰より先に触りたくなったと思う。
でも今は違う。
エルフィーがいて、セラがいて、クロハがいる。
深路標っていう名前までついた。
ここまで一緒に来たのに、最後だけ一人で抜けるのは違う。
「まあ、リーダーがようやくそこまで言えるようになったなら上出来ね」
エルフィーが少し笑う。
「最初からそう言ってましたよ、たぶん」
セラは優しい嘘をついた。
「いや、半分くらいは最近だと思う」
クロハが現実的に刺してくる。
その軽さが、今日はちょうどいい。
監理塔の下で、俺たちは次の段取りだけ決めた。
北隔離立坑へ向かう準備。
副支部長への報告ライン。
リシェル監察官との最低限の共有。
帰路環の保管手順。
やることは多い。
でも、進む先が見えているだけで全然違う。
帰るための道は見えた。
クロハの兄貴分も、その先で待っているかもしれない。
そしてたぶん、北隔離立坑の奥には、俺みたいに帰れなかった人たちの記録も残っている。
なら、次は取りこぼさないように行く。
一人ではなく、深路標として。
俺は監理塔を振り返り、まだ薄く光る帰路環の残光を見た。
地球へ帰る道は、もう夢じゃない。
でも今の俺にとって大事なのは、帰ることそのものより、その道を誰とどう渡るかの方になり始めていた。




