第25話 四層昇格前の俺たち、まずは大人しく正規の実績を積むことにする
四層へ行くには、正規の実績が必要だった。
当たり前だ。
変異蜘蛛を倒したからって、いきなり深層寄りの管理設備へどうぞとはならない。
「なので、まずは地味に働きます」
俺がそう言うと、エルフィーが妙に満足そうな顔をした。
「ようやくリーダーらしい判断をしたわね」
「最初からしてるつもりなんだけど」
「危ないものを見るとわりとすぐ前に出るから」
否定しづらい。
受けたのは、三層外周の調査員護衛任務だった。
成人済みの地質調査員三名を古い採掘跡まで送り届け、異常霧の発生源を確認する仕事。報酬は普通だが、四層昇格査定に使われる。
「まっとうな依頼って逆に緊張しますね」
セラが小さく言う。
「分かる」
俺も分かる。
最近、普通に潜ろうとすると大抵何か起きる。
そして案の定、半分は普通で終わらなかった。
発生源近くで地盤が落ち、調査員の一人が崩れた足場の向こうへ取り残されたのだ。
「ユウト!」
エルフィーの声と同時に、俺の視界へ反応が走る。
【危機察知が発動しました】
【左側の補強柱は三十秒以内に再崩落します】
三十秒。
短い。
俺は即座に叫ぶ。
「セラ、落下側の視界確保! エルフィー、俺と行く! クロハは足場の逃げ道を!」
「了解!」
今のクロハは正式メンバーじゃない。
でも、こういう時の動きはもう完全にパーティのそれだ。
俺とエルフィーで崩落帯へ飛び込み、取り残された調査員を引っ張り上げる。足場は悪い。だが荷重歩法と危機察知がある今の俺には、前よりずっと読める。
戻り切った直後、さっきまでいた柱がまとめて落ちた。
調査員は顔面蒼白で震えていたが、それでも礼だけは言った。
「助かりました……」
「まだ終わってません」
異常霧の発生源はその奥にある。
行ってみると、原因は魔物じゃなかった。古い換気孔が半壊して、地下の呪気が上がってきているだけだった。
「完全に保守案件ね」
エルフィーが呆れる。
「つまり四層の設備と繋がってる可能性が高い」
俺が言うと、クロハがにやっとした。
「ちゃんと正規依頼からでも、帰路の匂いに寄ってくるんだ」
それは全然嬉しくないけど、否定もしきれない。
依頼自体は無事完了した。
そしてその夕方、ギルドから《深路標》へ四層暫定入域許可が出た。
地味に働いた結果、ちゃんと次の扉が開くのは、なんだか少しだけ健全だった。




