天命執行③
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アレクとクリスがギルドハウスを後にし数分後。
「すみません。お待たせしましたって……って、あれ?」
二つの湯気が立ち昇るカップ。
それがのせられたおぼん。
それを手に、クレアは戻ってきた。
ちいさく首を傾げーー
「うーんと。どこに行っちゃったのかな?」
呟き。
クレアは姿の見えないアレクとクリスを探す。
そんなクレアの眼前。
そこで繰り広げられていたもの。
それはパンドラとサーシャの可愛いもつれ合いだった。
「なーにが鑑定士よ。そんなにちっちゃい身体して!! どうせその軍服も特注サイズなんでしょ!?」
「うッ、うるさいな!! そういう貴女だって充分にちっちゃい!!」
もみっ
「!? やッ、やったわね!!」
もみっ
「ひぃ!?」
互いに胸を揉み、赤面する二人。
そしてそのまま転がり、じたばたともがきあうパンドラとサーシャ。
その幼い暴走。
クレアは当然のようにそれを宥めようとした。
「お、落ち着いてください。パンドラさんにえーっと。お、お名前はなんでしたっけ?」
主導権。
それをパンドラに握られーー
もみっもみっ
「ひぎっ」
クレアの問い。
それに答える余裕さえないサーシャ。
「ど、どうわかった? 同じちっちゃい同士でもここまで差があるってことが」
「わッ、わからない!! この鑑定士〈サーシャ〉と差があるのは強くて美しいクリス様だけだ!!」
「ぐぬぬぬ。中々、引き下がらないわね」
もみっ
「ひ、引きさがってなるものか」
もみっ
幼いプライド。
それは決して、互いに折れることはない。
そんな二人のプライドの応酬。
それをクレアは、優しい声音で止める。
「パンドラさんとサーシャさん。これでも飲んで落ち着いてください。丁度、二人分ありますので」
微笑み、テーブルに淹れたばかりのホットココアを置くクレア。
そのホットココアの甘く香ばしい匂い。
それに、パンドラとサーシャはいとも簡単に牙を収める。
そして。
「し、仕方ないわね。今回はクレアのホットココアに免じてわたしが引きさがってあげるわ」
「し、仕方ない。今回のところはクレアさんのご好意に引き換え。わたしが引き下がる」
そんな声を響かせ、二人は椅子へと腰を下ろす。
そして、「「ふぅふぅ」」と仲良くホットココアに舌鼓を打つのであった。
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アレクとクリス。
その二人は、街から少し離れた岩場にやってきていた。
周囲には大小様々な岩が乱雑に転がり、勿論人影はアレクとクリス以外にはない。
吹き抜ける乾燥した風。
それにマントを揺らしながらーー
「レベル9999。反芻すればするほどとてつもない数字ではないか。よもやこの世界の上限。それを超える者が現れるとは思いもしなかった」
アレクを見据え、クリスは微笑む。
「勇者を倒したのも。ギルド本部の長をやったのも。高レベルクエストを三つ短期間のうちにこなしたのも。全て、お前がやったことだろ?」
問いかけ、クリスは己の力を発露。
瞬間。
クリスの足元。
そこから円形に広がるは絶対零度の浸食。
それは全てを白銀に染めあげ、永久凍土という名の銀世界に空間を変えていく。
そのクリスの力。
だが、アレクは動じない。
「流石に目をつけられるとは思ってました。でも、よかった。貴女みたいな人に目をつけられて」
「よかった。だと?」
アレクの言葉。
それに含み笑いをもって返す、クリス。
「わたしもよかったよ。清々しいほどに強いお前のような存在に出会えてな」
声と共に、クリスは手のひらをかざす。
そしてーー
「でははじめようか、圧倒的強者〈アレク〉。傷のひとつでもつけさせてもらうぞ」
「どこからでもかかってこい、絶対零度〈クリス〉。真正面から受けて立ってやる」
二人は互いに声を響かせ、戦いの火蓋を切って落としたのであった。




