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ワールド・ガイア  作者: 水野青色
56/281

56~side:ジェヌ その1~

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、森を抜けた集落の長、ジェヌの話です。


俺の名前はジェヌ。

昔は冒険者をしていた。

依頼の途中で大けがをし、何とか森を抜け、今住んでいる集落までたどり着いた途端、意識を失ったようだ。

それを介抱してくれたのが、ここの集落の長の娘だった。

その娘と恋をし、冒険者をやめて、この集落の跡継ぎになった。

だがしばらくして、冒険者でなくなった俺に愛想をつかし、妻はほかの男とこの集落を出ていった。

仕方ないことだと思う。

あいつはいつも、ここから連れ出してくれる人を探していたようだから。


ここの生活は単調だった。

だが、ずっと魔物の脅威にさらされていた冒険者生活と比べると、快適だった。

集落の若い人間がどんどんこの集落から離れていき、帰ってこなくても、それなりに平和な日々が続いてた。

とうとう、老人以外ほぼいなくなってしまい、空き家も増えてしまったが、それでもここの集落で暮らしていくには十分だと思った。

年寄連中を守り、いつの日か見送るのが俺の役目だと思う。


ある時、集落の老人の一人が、病気にかかった。

この前までいた冒険者から罹患したのだろう。

何の病気なのかはわからなかった。


老人たちの身内に手紙を送っても、いい返事もなく、無駄に時が過ぎていく日々を送った。

時々来ていた冒険者たちも、この集落に病気が蔓延していると知ると、だれも寄らなくなった。

確かに、門番街から二日ほどの場所だ。無理による必要もない。

人の足が途絶え、それでもなんとか、門番街に行き、手紙を出したりしたが、老人たちの家族は帰ってくることもなく、俺の嫁だった女性も、行方はわからなかった。


動けなくなる住人が増え、それでも、乏しい食料を与えながら、解決策もないまま、しばらくたった。

俺もここ二日ほどは食べてない。

だが、病気の住人のほうの体力のほうが大事だった。


そんな無為な日々に、一筋の光と呼べるものが来た。

門とも呼べない場所に、馬車が停まったのだ。

身なりのよさそうな御者が、降りてきて、あいさつしてきた。

こんな場所に来るなんて、ここの話を誰も聞いていないのだろう。


馬車からは、冒険者の少女と青年、メイド服の女性が下りてきた。


これが、アイリーン・プラム・シュガーとその連れとの出会いだった。


「身分証を」


一応どんな人間だろうと、確かめねばならないのが、門番としての役目だ。

身分証を見て、俺は目を見張った。

プレイヤー・・・

姿はほぼ見たことのない、伝説を作っていく、プレイヤー国の人間。

何か気に入らないことがあると、町一つを壊すのは余裕だと聞いたことがある。

俺はこの集落を守る義務があるんだ。


「中で暴れてくれるなよ?」


本気で頼むよ。

老人たちしかいないし、今は病気で体力も減っているんだ。


「王都には観光に来ただけ」


何もなさそうだな、という顔でこの辺りを見回している。

宿もないというと、広場で過ごすという。

一泊かそこらでいなくなるのだろう。


長の許可が必要だといったらどこだと聞かれたので、自分だと答えておいた。

どのみち、中に招き入れた時点で、好きに過ごしてくれればいいと思っている。


しかし、美人メイドさんだな。

もしよければ、と思ってしまったが、あいにく、御者をしていた男性の妻だという。

残念だ。


しばらくして、アイリーン一行は食事の用意をしだした。

外から来たんだから、何か持っているんだろうな。

うまそうだ。

俺の腹の虫もなる。

だが、それよりもだ。


「飯をくれ!」


頭を下げた。

病気の住民たちも、ろくに食事をしていない。

集落の住民に食べさせてほしい、と。

ここには、俺を含め21人しかいないんだ。


料金がかかるならと申し出たら、金は要らないという。

しかも、翌日の昼くらいまでの分は、面倒見てくれるという。

なんていい奴なんだ。

俺の名前を憶えてないこと以外はな。


俺はジャムじゃない。


メイドさんに何か言づけて、食事の用意をし始めてくれるようだ。

俺はまだ動ける者たちを呼びに行った。


病気に罹患していない老人たちも、全員が動けるわけじゃない。アイリーンのいる広場には、数人も集まらなかった。

それを見て、体にやさしいものをと、メイドさんに指示を出している。


「ジャムさんちょっと」


ジャムじゃないって言っているだろう。もうジャムでいいが。


「あんた一人元気なんだから、これを届けてきて」


本物のポーションだという。

こんな高級なものを・・・初めて会った俺たちに・・・

病気やけがは治るらしい。

体力は知らないといっていたが、だから何だというんだ。

俺はすぐに各家庭に回りに行った。

全員に一本ずつ飲ませる。

顔色がよくなる住人に、一安心だ。


回りきって、広場に戻ると、来ていた住人もポーションを飲ませてもらったようだった。

食事も終え始めている。

俺もテーブルにつき、食事をいただいた。


うまい!

なんだこれ。

こんなうまいものは、久しぶりに食べた。

王都中央の高級な食事処よりもうまいんじゃないか?

更が見る間に空になるが、それでも俺の勢いが止まらない。

久しぶりにまともな飯だ。

さらに肉の塊も出てきた。

かぶりつく。

この肉は、ちょっと癖があるがうまい。

食いつくすと、ひとごこちついた。

これでまたしばらくは持つと思う。


話の中で、あのポーションが中級ポーションだと知った。

しかもただでくれるという。

なんだこの子、神が使わしてくれたのか?


「集落の在り方を考えるべきだわ」


痛いことを言われた。

確かにそうだ。

この後も、ここを維持していかなければならない。

だがもう無理だろう。

ここは未来がない。

本気で考えていかなければならないだろう。


夜中になり、そろそろ寝入ろうとしたとき、アイリーンが訪ねてきた。

獣人を連れている。


「ジェムさんに紹介したかったのよ。ジューノさん、門番街の雑貨屋さん」


知っているぞ。

門番街で一番の雑貨屋の主人じゃないか。

話を聞くと、この獣人は、アイリーンに命を助けられたのだという。

しかも今回こんな夜中に来たのは、アイリーンに頼まれて、この集落の支援だという。

主らくの在り方を考えてくれたのだろう。

ありがたい。

しかも白金貨5枚という大金。

その夜はジューノさんといろいろ話し合った。


そして朝には、ジューノさんは帰っていき、昼頃に起きてきたアイリーンも、少しして発った。


これから集落には、少しずつ物資が来るし、生きていけるだろう。

本気でアイリーンは神の使いなのだと思う。

また会うことがあれば、きちんと礼を言いたいものだ。


お読みいただきありがとうございました。毎週水曜日更新しております。次回もジェヌの話です。

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