56~side:ジェヌ その1~
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は、森を抜けた集落の長、ジェヌの話です。
俺の名前はジェヌ。
昔は冒険者をしていた。
依頼の途中で大けがをし、何とか森を抜け、今住んでいる集落までたどり着いた途端、意識を失ったようだ。
それを介抱してくれたのが、ここの集落の長の娘だった。
その娘と恋をし、冒険者をやめて、この集落の跡継ぎになった。
だがしばらくして、冒険者でなくなった俺に愛想をつかし、妻はほかの男とこの集落を出ていった。
仕方ないことだと思う。
あいつはいつも、ここから連れ出してくれる人を探していたようだから。
ここの生活は単調だった。
だが、ずっと魔物の脅威にさらされていた冒険者生活と比べると、快適だった。
集落の若い人間がどんどんこの集落から離れていき、帰ってこなくても、それなりに平和な日々が続いてた。
とうとう、老人以外ほぼいなくなってしまい、空き家も増えてしまったが、それでもここの集落で暮らしていくには十分だと思った。
年寄連中を守り、いつの日か見送るのが俺の役目だと思う。
ある時、集落の老人の一人が、病気にかかった。
この前までいた冒険者から罹患したのだろう。
何の病気なのかはわからなかった。
老人たちの身内に手紙を送っても、いい返事もなく、無駄に時が過ぎていく日々を送った。
時々来ていた冒険者たちも、この集落に病気が蔓延していると知ると、だれも寄らなくなった。
確かに、門番街から二日ほどの場所だ。無理による必要もない。
人の足が途絶え、それでもなんとか、門番街に行き、手紙を出したりしたが、老人たちの家族は帰ってくることもなく、俺の嫁だった女性も、行方はわからなかった。
動けなくなる住人が増え、それでも、乏しい食料を与えながら、解決策もないまま、しばらくたった。
俺もここ二日ほどは食べてない。
だが、病気の住人のほうの体力のほうが大事だった。
そんな無為な日々に、一筋の光と呼べるものが来た。
門とも呼べない場所に、馬車が停まったのだ。
身なりのよさそうな御者が、降りてきて、あいさつしてきた。
こんな場所に来るなんて、ここの話を誰も聞いていないのだろう。
馬車からは、冒険者の少女と青年、メイド服の女性が下りてきた。
これが、アイリーン・プラム・シュガーとその連れとの出会いだった。
「身分証を」
一応どんな人間だろうと、確かめねばならないのが、門番としての役目だ。
身分証を見て、俺は目を見張った。
プレイヤー・・・
姿はほぼ見たことのない、伝説を作っていく、プレイヤー国の人間。
何か気に入らないことがあると、町一つを壊すのは余裕だと聞いたことがある。
俺はこの集落を守る義務があるんだ。
「中で暴れてくれるなよ?」
本気で頼むよ。
老人たちしかいないし、今は病気で体力も減っているんだ。
「王都には観光に来ただけ」
何もなさそうだな、という顔でこの辺りを見回している。
宿もないというと、広場で過ごすという。
一泊かそこらでいなくなるのだろう。
長の許可が必要だといったらどこだと聞かれたので、自分だと答えておいた。
どのみち、中に招き入れた時点で、好きに過ごしてくれればいいと思っている。
しかし、美人メイドさんだな。
もしよければ、と思ってしまったが、あいにく、御者をしていた男性の妻だという。
残念だ。
しばらくして、アイリーン一行は食事の用意をしだした。
外から来たんだから、何か持っているんだろうな。
うまそうだ。
俺の腹の虫もなる。
だが、それよりもだ。
「飯をくれ!」
頭を下げた。
病気の住民たちも、ろくに食事をしていない。
集落の住民に食べさせてほしい、と。
ここには、俺を含め21人しかいないんだ。
料金がかかるならと申し出たら、金は要らないという。
しかも、翌日の昼くらいまでの分は、面倒見てくれるという。
なんていい奴なんだ。
俺の名前を憶えてないこと以外はな。
俺はジャムじゃない。
メイドさんに何か言づけて、食事の用意をし始めてくれるようだ。
俺はまだ動ける者たちを呼びに行った。
病気に罹患していない老人たちも、全員が動けるわけじゃない。アイリーンのいる広場には、数人も集まらなかった。
それを見て、体にやさしいものをと、メイドさんに指示を出している。
「ジャムさんちょっと」
ジャムじゃないって言っているだろう。もうジャムでいいが。
「あんた一人元気なんだから、これを届けてきて」
本物のポーションだという。
こんな高級なものを・・・初めて会った俺たちに・・・
病気やけがは治るらしい。
体力は知らないといっていたが、だから何だというんだ。
俺はすぐに各家庭に回りに行った。
全員に一本ずつ飲ませる。
顔色がよくなる住人に、一安心だ。
回りきって、広場に戻ると、来ていた住人もポーションを飲ませてもらったようだった。
食事も終え始めている。
俺もテーブルにつき、食事をいただいた。
うまい!
なんだこれ。
こんなうまいものは、久しぶりに食べた。
王都中央の高級な食事処よりもうまいんじゃないか?
更が見る間に空になるが、それでも俺の勢いが止まらない。
久しぶりにまともな飯だ。
さらに肉の塊も出てきた。
かぶりつく。
この肉は、ちょっと癖があるがうまい。
食いつくすと、ひとごこちついた。
これでまたしばらくは持つと思う。
話の中で、あのポーションが中級ポーションだと知った。
しかもただでくれるという。
なんだこの子、神が使わしてくれたのか?
「集落の在り方を考えるべきだわ」
痛いことを言われた。
確かにそうだ。
この後も、ここを維持していかなければならない。
だがもう無理だろう。
ここは未来がない。
本気で考えていかなければならないだろう。
夜中になり、そろそろ寝入ろうとしたとき、アイリーンが訪ねてきた。
獣人を連れている。
「ジェムさんに紹介したかったのよ。ジューノさん、門番街の雑貨屋さん」
知っているぞ。
門番街で一番の雑貨屋の主人じゃないか。
話を聞くと、この獣人は、アイリーンに命を助けられたのだという。
しかも今回こんな夜中に来たのは、アイリーンに頼まれて、この集落の支援だという。
主らくの在り方を考えてくれたのだろう。
ありがたい。
しかも白金貨5枚という大金。
その夜はジューノさんといろいろ話し合った。
そして朝には、ジューノさんは帰っていき、昼頃に起きてきたアイリーンも、少しして発った。
これから集落には、少しずつ物資が来るし、生きていけるだろう。
本気でアイリーンは神の使いなのだと思う。
また会うことがあれば、きちんと礼を言いたいものだ。
お読みいただきありがとうございました。毎週水曜日更新しております。次回もジェヌの話です。




