29~もうすぐ中央部だけど、その前がこんな場所だなんて~
更新しました。
寝坊助女主人公は寝てません。
新しい集落に来てます。
ここしばらくの食生活。
そう。
肉ばかりだ。
猪と熊と牛の肉がいっぱい。
野菜があまりない。
拠点であるおうちの野菜も、水不足が原因で枯れかかってた。
仕方ないので、錬金術でスプリンクラーを作り、水のスライム核石を突っ込んでおいた。
常に水が出るようになってる。
プラント母さんがその前を陣取っていたようだけど、頼むから庭の野菜にまいてほしい。
とうとう、王都中央部近くにも、乾季がやってきた。
肌がピリピリしてくる。
水が足りない。
見えている景色も、心なしか枯れている。
このまま雨が夏に入ってすぐにでも降らなければ、この乾季のせいで、日照り状態だろうな。
「暑いわね」
「夏が近いからな。天候だけは、どうにかしようとはできないな」
「神様なのに?」
「そういう仕組みを組み込んで作った星だからな。自然の流れというものだ」
神様でもなんともできないようにしたのか。
ファンタジーな世界って、精霊が天候を決めるのだと思ってた。
「仕組みが決めている。各々星を作るときにした会議で決めたのだ。ほかのところもそうだぞ」
「つながっているワールドはみんなそうだったの?」
「そうだ」
神様同士で星づくりの会議なんてしているのか…
それじゃ、ほかのところも乾季のところがあるんだろうな。
「水魔法が使えるって、とても貴重なのはこのせいなのよね?」
「そうだな。だが本来なら、ここまで乾きもしないし、乾季にも雨が降るはずだったぞ」
「それじゃなんで?」
「水魔法使いが少ないからだな」
運営さんが言うには、魔法が使える資質というものがあるそうだ。
その資質のある者、人間でも獣人でも、魔獣でも、それらの存在のバランスが、星の天候のバランスをとっているのだという。
しかし、人間だろうが、獣人だろうが、魔獣だろうが、水魔法の使い手が少なくなってしまい、乾季に雨が一滴も降ることがなくなり、こうして肌がかさつくほどに乾ききっているのだという。
しかも、これはこの中央に続く王都ではなく、郊外のほうがひどいのだ。
水魔法が使えるものが、王都のほうが仕事があると、郊外から姿を消すからだそうだ。
魔獣なら森などにいるが、水魔法が使える資質を持つ魔獣は、水のそばにしかいないため、水場から離れている場所ほど枯れかかるのだそうだ。
「結構深刻だよね。そういえば、あの子も水魔法が使えるから、中央に行きたいって言ってたんだっけ」
「あの宿屋の娘か。あの程度なら中央にたくさん集まっているだろうから、あそこにいたほうが仕事がある気がするがな」
「そうだよね。貴重な水魔法の使い手なんだしね」
私がそんなこと思ってても、あの子はあの子の生きる道があるのだから、何とも言えない。
「しかし、肌が痛いなぁ。加湿器ほしい」
「かしつきとはなんだ?」
「蒸気が出て、少し部屋をしっとりさせる機械かな。あまり乾燥していると、病気になるわよ」
「そんなものはこの世界にはないな」
「病気はあるのにね。作ったところで、古代の魔道具扱いになりそうね」
魔石と言われるものがあっても、そんな安くないんだったな、この世界。
そうしたら、加湿器はぜいたく品だよなぁ。
私が使うだけならいいけど、少しはこの世界に何かしてみたいのもあるし。
スライム核石がもう少し普及していればいいのになぁ。
<それも古代技術となってしまったからな>
そうか。
古代魔術と同じなんだ。
どれだけ古いの、私たちプレイヤーの魔法。
でも魔法陣とか略されてなさそうだしなぁ。
「このせかいのまほうってどうなっているの?」
「どうとは?
「魔法陣が縮小されたとか、魔法が無詠唱でできるとか」
「そんなものはプレイヤーの管轄だ。大体、プレイヤーの魔法が高度技術すぎて、古代魔法術と呼ばれているだけで、まだそんなに進んでいないんだ」
知らなかった。
「魔道具も、プレイヤーがこちらに来て残したものが多い」
「そうなんだ?じゃ、私が勝手に作っておいていってもいいの?」
「ん?別にいいぞ。何か作りたいのか」
「まだ考えておく」
スライム核石をもう少し浸透させたいのがあるなぁ。
何でなくなったのかな。
あんな便利なもの。
「錬金術の技術がないからだ」
「そうだった・・・」
錬成のための魔法陣とかそんなに出回ってないようだし。
仕方ないのかな。
「そろそろ次の集落ですよ。その次が中央に行きます」
声がかかる。
もう夕方だし、今日はその集落どまりかな。
集落の入り口には、やはり守衛さんがいる。
「・・・ここに入るには・・・わかっているな?」
明らかに袖の下要求ですね。
そういえば、中央に行くほど、お金を取られるって誰か言ってたな。
最低な役人だー。
でも問題を起こしたくないから、金貨を一枚握らせた。
「いい日を過ごせよ」
身分証とかも見ないで通す木っ端役人だ。
腐ってるわね。
ま、こちらとしてはどうでもいいわ。
朝にはさっさと出ましょう。
集落の雰囲気はよくない。
馬車からのぞくと、あちらこちらにぼろ布をまとった人が寝ている。
「なにここ・・・」
「中央に近いところでこれではな・・・」
どこもお店が閉まっている。
夕方だから?
でもおかしいわよね。
宿は、見かけが豪華だ。
どこも同じようだから、とりあえず入る。
一泊の値段が、びっくりするような設定だった。
一人分が一泊銀貨50枚。
どういうことなの。
「払えないなら出てっておくれ」
カウンターの女性が、ちらりとこちらを見て言う。
「どこもこんななの?」
「うちは安いほうさ」
「これで?」
「泊まれないやつらは、広場にでも行って馬車で寝泊まりさ」
そうなんだ?
・・・それもいいかもなぁ。
この前のとこの集落といい、なんだかとても愛想が悪すぎるし。
「おじゃましました」
「ふん、貧乏人が」
むっかー。
払うお金はあるけど、泊まりたくないだけよ。
見かけだけで、いい宿じゃなさそうだし。
馬車を引いて、広場と言われる場所へ。
ものすごい馬車の数だ。
広場にも守衛さんがいた。
「ここで宿泊か。場所代はこれだ」
紙を出してくる。
読めないわけじゃない。
言語はきちんと理解できるから。
「ほかのところの宿と同じくらいか」
これなら払うか。
後、何かあった時用に、守衛さんにも握らせておく。
もう夕方も遅く、暗くなる。
疲れたわ。
指定された場所に馬車を停め、シツジローくんがウーマの世話。
メイちゃんがご飯の支度を始める。
ああ、そういえば、野菜が足りないわ。
買えなかったなぁ。
外での食事の支度を眺めている。
今日は牛だわ。
ミートカウ。
まだたくさんあるものね。
ちらりとお隣の馬車を見ると、あちらは野菜ばかりだった。
ご家族だろう。
夫婦と子供が二人。
どこに行くのかな。
…それよりも、子供がよだれを出しそうな目で、こちらの料理している姿を見ているわ。
「あー・・・えっと、お隣さん?よければ野菜と肉交換しません?」
奥さんに話しかけてみる。
こちらは野菜がないし、あちらは肉が食べたいだろうし。
「ああ、すみません。そんなつもりじゃないです。うちのコが失礼しました」
あやまるお隣の奥さんに、事情を説明。
こちらは野菜が欲しいのだ。
「すみません。ここに泊まる分だけで、お肉買うお金が無くなってしまいまして」
確かに高いよね。
入るときにお金とるし、宿は見せかけで高級だし、馬車どまりなのにほかのところの宿みたいな値段だし。
「メイちゃん、いっぱい焼いてあげて」
「かしこまりました」
少し減らしたいからちょうどいいわね。
ご主人らしき人も、腰が低い。
できたそばから、子供たちががっつく。
どれだけおなかすいているのよ。
成長期だもんねぇ。
「すこしわけてあげて」
「かしこまりました」
10キロほどの塊肉。
すぐには食べきれないだろうけど、さて、どうやって渡すかな。
「時間経過なしの収納袋とか、持ってませんか?」
マジックバッグくらいあるといいんだけどね。
ちなみに、私はいっぱいある、
作れるから。
「そんなものありませんよ。時間経過なしなんて、それこそ、荷物かご一つ分の収納力だけでも、いくらすると思っているんですか」
「知りません。じゃ、これに入れておきます」
ショルダーバッグ型にしてある、行商馬車一台分の荷物が入る、時間経過なしのマジックバッグだ。
重さも感じないし、いいと思う。
「野菜くれたお礼です。いっぱいあるし」
「いやいやいや。お礼って、そんなに高級なものいただけません」
「気にしないでください。使わないものだし、持ち腐れるより、あげます。・・・お子さんたちも、いつか大きくなったときに、どこか行くとき便利ですよ」
子供たちにもあげる。
こちらは収納力は行商馬車の半分だが、時間経過なしだ。
子供は訳が分かっていないのか、ショルダーバッグに喜んでる。
「メイちゃん、何かお菓子とか入れておいてあげて」
「かしこまりました」
残っていた小麦粉で、揚げドーナツだ。
味付けははちみつだ。
それを、紙に包んで、子供たちのバッグに入れてあげる。
なんてメイちゃんはいい子なんでしょ。
「おねえちゃん、ありがとう」
「いいのよー、どういたしまして」
いい子じゃないか。子供たち。
「・・・すみません。ありがとうございます」
ご夫婦に頭を下げられた。
「どれより、どこに行くのです?ご家族そろって」
「・・・いろいろと厳しくて、中央では暮らしていけそうもないので、どこかほかのところにと・・・」
どうやら、税金などが厳しすぎて、中央近くでは払えなくなってきたらしい。
ここだって高いしね。
財産といっても、この馬車くらいなのだそうだ。
よく見ると、馬も老いている。
老いはどうにもならないけど、こっそりと馬に元気になるようにと、ポーションでも飲ませておこう。
「実はですね、いいところがあるんですよ。まだちょっと遠いのですが、老人しかいなくて、働き手を欲している集落です。そこにいきませんか?」
「仕事があるのでしょうか?」
「農業だけですけどね。そこでよければ、一筆書きます。そこの集落の長さんに、手紙渡せば大丈夫です」
「ほんとですか!」
「行く気があるならですが」
「行きます。こちらでは暮らせないので…」
うらぶれた旦那さんだな。
まぁいいや。
「シツジローくん、お願い」
「はい。お嬢さまの名前で一筆書いておきました」
「ありがとう。あとはこの人たちに、集落の場所を教えてあげて」
「かしこまりました」
食事がすんで、お茶を飲みながら、シツジローくんが旦那さんに説明しているのを見る。
かかわった人で、貸したい人にだけ手を貸そうと、私は決めたから。
「おくさん、ちょっと」
手招きする。
子供はメイちゃんがまだおやつを作っては、袋に入れているのを、嬉しそうにみてる。
小麦のお菓子でいいなんて、安上がりな。
「これ、少しですけど」
金貨を五枚。奥さんの手に握らせる。
微々たるものだが、少しは足しになるだろう。
「こ・・・こんな、いただけません!」
「しーっ!声が大きい。私があなたたちご家族に上げたいのだから、いいのよ。まだ先は長いんだし、食料だって買わないとでしょう」
「でも・・・」
「いいのよ。きっとここを出るときも、お金とられるだろうから、私たちと出ましょうね。後、奥さん、水魔法が使えるでしょう?」
視てしまった。
病気とかないかを確認するために。
だからこそ、馬にだけポーション与えたのだけど。
「なぜそれを!」
「まあ、いろいろあります。旦那さんにも秘密にするように言われているんでしょ。先ほど紹介した場所はね、水魔法の使い手が老人しかいないのよ。あなたはそこで手伝ってあげてほしいな」
「・・・わかりました。ありがとうございます」
奥さんに頭を下げられた。
でもそんなことされてもうれしくない。
なぜかというと、あの場所も過酷ではあるから。
老人しかいない。
滅びゆくだろう集落。
どうなるかわからないから。
私はそろそろ眠い。
寝て起きて、明日は朝から頑張って出発だ。
片付けも終わり、話も終わったようだし。
私は馬車に戻る。
「みんなにかかわることはできないのだぞ」
「私はかかわりたい人にだけ手を貸すの、その時だけね」
「そうか。それでもいい」
「運営さん、ありがとう」
彼はうなずくだけだったけどわかっているようだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
夜は、盗賊のようなものが来たらしいけど、メイちゃんとシツジローくんが片付けた。
翌日に守衛さん方がいなくなったという騒ぎは、今の私は知らない。
およみいただきありがとうございます。いつもより少し長めです。まだ続きます。




