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第26話 パソコン部に突撃!

 柚木さんが不安げに俺を見上げる。


「山科先輩は、部室で待っててと言ってました。それなのに、勝手に動くのはよくないですよっ」


「じゃあ、このまま何もしないで待ってろと言うのか!? どこのだれだか知らないやつに、うちのパソコンを勝手に操作されて、そのうえ、お金まで要求されているのに、俺たちは何もわからないから屈するしかないなんて、そんなのあんまりじゃないかっ!」


 胸の内側から激情が溢れる。


 身体を流れる血液の流れが速くなって、有り余っているエネルギーが頭に大量に注入されていた。


 柚木さんは手を離した。きょとんとして、


「先輩。怒ってるんですか」


「ああ、怒ってるよ。うちの大事なパソコンに、勝手なことをされたんだ。怒らないはずがないじゃんか」


「ですけど、先輩が先生や山科先輩の許可なく動いたら、きっと怒られちゃいますよ」


「怒られてもいいよ。そのときにちょっと嫌な思いをするだけだから。柚木さんは部室で待ってるんだ」


「あ、待ってください!」


 廊下を駆けると柚木さんが追ってきた。


「きみは部室で待ってるんだ! 俺の勝手な行動の巻き添えを――」


「先輩が行くなら、わたしも行きます! 先輩がその気なら、わたしだって怒られてもいいですっ」


 きみは、どうしていっしょに犠牲になろうとするんだ。


 この子は、一度言い出すと聞かない子だ。俺がいくら止めても、聞いてくれないだろうな。


「わかったよ。じゃあ、いっしょに行こう」


「はい!」


 柚木さんの思い切りのいい笑顔がまぶしかった。


「本音を言えば、ひとりでパソコン部に行くのは心細かったんだ。柚木さんがいっしょに来てくれたら助かるよ」


「ふふっ。それなら、そうと言ってくださいよ。先輩がいきなり怒り出したから、びっくりしちゃいましたっ」


「ああ、それはごめんね」


 階段を上がって三階の廊下をひた歩く。


「先輩、コンピュータ室がありましたっ」


 柚木さんが「コンピュータ室」と書かれているクラス札を指す。


 俺は生唾を呑んだ。


「じゃあ、行こうか」


「はいっ」


 パソコン部の扉を押し開ける。


 ふたつの教室をつなげられたコンピュータ室に、デスクトップのパソコンが四台ずつ並べられている。


 すべて白の筐体きょうたいで、整然と並べられている様子は、軍の秘密基地さながらだ。


 パソコンの近くには、印刷した紙が山積している。


 空調の利いた室内は、冷蔵庫のように寒い。窓が群青色のカーテンで隠されていた。


 分厚いレンズの眼鏡をかけた部員たちは、機械のようにパソコンと向き合っていた。


 俺が部室に入ると一斉に顔を上げて、俺と柚木さんをいぶかしげに見つめてくる。


 だけど、すぐに興味を失って、かたかたとキーボードを打っていた。


「せ、先輩っ」


 柚木さんが右手の袖をつかむ。


「だいじょうぶだよ。さあ、行こう」


 扉を閉めて教壇の傍へ向かった。


「すみません。文研の副部長を務めております、二年の宗形と言います。部長か、副部長はいらっしゃいますか」


 高鳴っていく鼓動を感じながら挨拶したが、一切の反応がない。


「すみませんっ。二年の宗形と言います。部長か、副部長はいらっしゃいますかっ」


 さっきよりも声を張り上げてみたけど、パソコン部の部員たちはディスプレイに夢中で、顔すら上げてくれない。


 俺の声が聞こえているはずなのに、無視する気なんだな。


 だったら、お前らが腰を抜かすような声を出してやるっ。


「すみません! 文研から来ましたっ、宗形と言います! 部長か、副部長は――」


「そんな声を出さなくても聞こえてるよ、文研のリア充さん」


 部室の後ろから皮肉る声が聞こえた。篭っている声なのか、男子の声でもかなり低い声だ。


 怯える柚木さんの手をとって、部室のど真ん中を闊歩する。部員たちの敵視を容赦なく受けながら。


 パソコン部の最後尾の席。四つの席の窓際の席だけにパソコンが置かれている。


 ディスプレイが二つ並べられていて、さらにUSB端子からゲームコントローラが接続されている。


 パソコンの周りには、モデムみたいな機械がちかちかとブルーライトを発している。


 そのとなりには、外付けのハードディスクっぽいものまで置かれていた。


 パソコン部の他の部員が使っているパソコンよりも、明らかにオーバースペックのパソコンだ。


「さっきからうるさいけど、お前だれ? 気が散るんだけど」


 部長らしき人は、腹の出ている中年のサラリーマンのような体型だった。


 癖のある髪は耳を隠して、脂の光っている頬や鼻には、にきびや白いうみがたくさんついている。


 パソコンのまわりには、菓子袋やビニールのゴミが散らかっている。パソコンに埃もたくさん付着していた。


「突然に押しかけて、申し訳ありません。俺は、文研の副部長を務めておりま――」


「自己紹介はいいから、用件を早く言えよ。彼女が待ってるんだろ?」


 彼は煎餅せんべいの入った袋をかったるそうに漁る。


 塩味っぽい煎餅を、俺の前でぼりぼりと食べはじめた。


 この人は泰山のような強敵だ。冴えない風貌から、とてつもないオーラが発せられている気がする。


 だけど逆に思う。この人はきっとパソコンにすごく詳しい人だ。


 異常なオーラを発するこの人ならば、うちのパソコンに仕掛けられたウィルスを突き止めてくれるかもしれない。


 どんな手をつかってもかまわない。


 なんとしてもこの人を説得して、うちのパソコンを治してもらうんだ。


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