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「……ここは?」
アステルが目覚めるとサフィアとアステル用の仮設テントのベッドの上だった。
だんだんと意識がハッキリしてくるのと同時に肩の痛みも増してきた。
見ると治療がされた後らしく、服の下の左肩に包帯が巻かれていた。
おそらく酷い打ち身だろう。
これが本当の剣だったらと思うとゾッとする。
じっとしているとあまり痛みは無いが、動かすと痛い。
傍らには、ずっと付き添っていたのか椅子に座ってベッドに突っ伏して眠ってしまっているサフィアがいた。
辺りはもう暗くなっていた。
テントの中の明かりもランプがちらほらあるぐらいで薄暗い。
アステルはサフィアのホワイトブロンドの髪を優しく撫でた。
アステルが倒れてから一時も離れなかったのだろう。
服も髪も合同訓練の時のままだった。
「こんな所で寝たら風邪引くよ」
そっと呼びかけると、サフィアがモゾモゾと動き出す。
そして、はっ!っと起きたサフィアがすばやく顔を上げてアステルを見た。
「……アステル!」
サフィアが飛びつくようにアステルに抱きついた。
「いたっ!」
「あ、ごめんなさい」
抱きつかれた衝撃で肩が痛んだアステルに、シュンとしたサフィアが謝った。
そして大人しく椅子に戻る。
「……無事で良かった……」
サフィアが大きな青い瞳を潤ませてアステルを見つめた。
「……うん」
アステルが痛めていない方の腕を伸ばしてサフィアの頬に手を添えた。
サフィアは嬉しそうに自分の両手をアステルの手の上に重ねる。
「この手で守ってくれたんだね。ありがとう」
サフィアが目を細めて柔らかく笑う。
すると瞳に溜まっていた涙がポロポロと頬を伝った。
アステルの手も濡らしていく。
あの日見た、清らかで神秘的な涙と一緒だ。
「失礼します」
その時、従者がテントに入ってきた。
アステルは思わずサフィアを抱きしめて自分の胸の中に閉じ込めた。
サフィアはビックリして身をこわばらせたが抱きしめられたことが分かるとアステルの背中に手をそっと回した。
「も、申し訳ございません!」
2人の姿を見た従者がお取り込み中と勘違いし、慌てて退室した。
「……どうしたの?」
サフィアがアステルの胸の中から見上げている。
「何となく」
アステルは照れてサフィアから視線をそらして言った。
「??」
サフィアは不思議そうにしていたが、まぁいいかと言うようにアステルに抱きつく力を少しだけ強め、顔を埋めた。
本当はサフィアのあの綺麗な涙を誰にも見せたく無かったなんて、アステルは恥ずかしくて言えなかった。
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その日の夜、アステルは夢を見た。
幼いころ、サフィアと初めて会った時の記憶の夢を。
鏡越しでは無いサフィアの涙を見たから思い出したのかもしれない……
王宮の園庭にあるあのガゼボの近く。
周りの景色はぼやけている。
そのかわり泣いているサフィアをハッキリ思い出していた。
6歳のアステルが12歳のサフィアに向かって一生懸命何かを語りかけていた。
サフィアが泣き出したあと、幼い子供なりに必死に励ましている場面だ。
それを聞いたサフィアがにっこりと笑い泣きをする。
瞳からはとめどなく涙が溢れている。
「私の王子様は年下だったんだね。てっきり年上だと思ってた。見つけられてよかった」
そう言って幼いアステルは抱きしめられた。
この時からずっと、サフィアは俺を愛してくれてたんだ。
ずっとずっと待っててくれてたんだ。
大切な2人の出来事を思い出すことで改めて実感した。
サフィアの想いを。愛情を。
サフィアを……
大切な人を護れて本当に良かった。




