22:合同訓練
合同訓練の日、晴れ渡る青空の中アステルたち一行は城を出発した。
馬に乗った騎士たちや荷物を乗せた馬車が連なって移動する。
騎士服を着たアステルとサフィアも各々が馬に乗り、横並びになって歩いていた。
安全を配慮してか第一騎士団の中央に2人はいた。
そしてその後ろに10数名の女性騎士。
本来サフィアが所持している騎士団はこの女性騎士たちらしい。
今回は第一騎士団として参加している。
「サフィア様、疲れたら馬車もありますよ」
1人だけサフィアの前を馬で歩く女性騎士が、後ろを振り向いて言う。
「気遣い感謝いたします。けれどまだまだ大丈夫ですわ。エルダ」
サフィアが少しだけ唇で弧を描く。
エルダと呼ばれた女性はサフィアの騎士団での補佐役らしい。
水色のストレートの髪を高い位置で一つにまとめており、目鼻立ちがくっきりした彼女によく似合っていた。
そして王女をとても慕っているようで、何かとサフィアに対して配慮してくれていた。
「アステルの乗馬姿、初めて見ましたわ」
サフィアが隣のアステルに声をかけた。
「侯爵家にいた時によく乗ってたんだ。兄さんたちと駆け回っていたよ」
アステルは曲がりなりにも侯爵家の三男だったので、ある程度の貴族としての教育は受けていた。
乗馬もその内の一つだった。
「アステルは基本的には何でも出来ていますから、潜在能力は高いのです」
サフィアが自分のことのように誇らしげに言う。
「ハハッ。ありがとう」
アステルは笑って答えた。
サフィアはいつでもアステルのことを出来ると信じて疑わなかった。
それが今思うといろいろなことをこなせてきた1番の動源力だったのかもしれない。
アステルは優しい眼差しでサフィアを見つめていた。
その日は移動だけで終了した。
目的地につくと、お世話係としてついてきてもらった従者たちが仮説テントやら食事やらを用意してくれた。
次の日にいよいよ合同訓練が始まる。
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次の日の朝、訓練の準備を整えている時に緊急招集がかかった。
アステルとサフィアは連れ立って司令部である真ん中の大きなテントに入った。
「サフィア様、アステル殿下」
珍しく困惑した表情のエミールがいた。
他にもウィリアム騎士団長やサフィアの弟君である第三王子などの主要メンバーが集まっていた。
その中にはサフィアの補佐であるエルダもおり、サフィアに気付いて近づいてくると
「ラフベルク王子から合同訓練への参加の要請が来ているようです」
と口早に伝えてきた。
エルダも戸惑っているようだった。
「ラフベルク王子から……」
サフィアが表情を変えずに呟く。
「たまたまここから近い国境付近に、あちらの騎士団を引き連れているそうです」
ウィリアムが神妙な顔つきをして言った。
「……こちらの動きを前から知られていたのかしら」
サフィアが少し眉をひそめる。
「……何か企まれてる?」
アステルも心配そうな表情でサフィアを見る。
「……」
サフィアはみんなを見渡してから口を開いた。
「……要請を受けましょう。万がいち拗れて本当の戦いにはしたくないわ。合同訓練だし大丈夫よ」
サフィアはみんなを安心させるように背筋を伸ばし前を向き、堂々とした態度でそう宣言した。
その後みんなが解散し、各自準備へ入った。
「サフィア……」
アステルは俯いて少し元気の無いサフィアに近づき、両手を握った。
「大丈夫?」
「……大丈夫。誰も傷付けさせない。王女の私が守るわ」
覚悟を決めたサフィアが顔をあげる。
その表情はとても気高く美しかった。
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間も無くすると、ラフベルク王子が率いる騎士団が合同訓練の場へぞろぞろ入ってきた。
「訓練参加への了承、感謝しよう」
馬に乗って1人だけ騎士団より前に出ているラフベルク王子が声高らかに言った。
「恐縮ですわ」
サフィアも少し遠くにいる相手に声を張って伝える。
ラフベルク王子の威圧感に負けないように相手をしっかり見据えていた。
それから、ラフベルク王子が率いる騎士団とサフィアたちが率いる騎士団との合同訓練が始まった。
緊張した空気が張り詰める中、予想に反してつつがなく訓練は終了した。
入り乱れていた騎士団が、訓練前のようにお互いの陣営近くに別れていく。
誰もがホッとしていると、ラフベルク王子がこちら側へ歩み寄ってきた。
そして合同訓練場の真ん中まで1人出てくると口を開いた。
「では〝キング戦〟を行おうではないか」
そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「キング戦?」
アステルは思わず隣に立っているサフィアに聞いた。
「……ラフベルク王子の国にある伝統文化よ。合同訓練のあとに、各々のトップ……総責任者同士が一騎打ちするの。ボードゲームの駒に例えられて〝キング戦〟って言われているわ」
サフィアはラフベルク王子の方を向いたまま説明してくれた。
「それって……」
アステルが青ざめる。
「これが狙いだったのか……」
近くにいたエミールが吐き捨てるように言った。
「サフィア様、向こうの国の伝統に無理に合わせる必要は無いと思います」
エルダがサフィアを行かせまいと、サフィアの前に立ちはだかる。
「……大丈夫ですわ。お互い訓練用の剣を使いますし、少し手合わせするだけです」
サフィアはエルダを落ち着かせるため、近づいて肩に手を置いた。
「……」
それ以上は強く出れないエルダはシュンとしてサフィアに道を譲った。
「受けてたちましょう」
サフィアはラフベルク王子に向けて言った。




