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第88話:聖剣と行商人

「お待たせ。『飛客屋(ひきゃくや)』を使わずに足で運ぶとなると、どうしても日数が掛かっちゃうねえ」

「よく平気な顔して来られたものだな」


 店に仕入れる荷物を卸して宿に入って来た商人の男をレオルスは睨みながら迎え入れる。


「どうやってやったのかは分かんないけど、カロルの指示で『ジルジの天秤』が傾かないように一芝居売って、貴様が聖剣を持ち出したということだよな?名芝居だったぜ?あんた」

「……さすが勇者様。このまま隠し通すのは無理か。あ、でも、リライトを修理したというのは本当だよ?よかったら確認してみてよ」


 手渡された剣を鞘から抜いて確認してみると、刃毀れした部分が修復されていた。【砥ぎ師】に修復させたのは本当だったようだ。


「差し詰め、アラキラに聖剣を持ち出すように命令されて持ち去ったんだろ?アラキラに弱みを握られてやるしかなかったのか、それとも自分の意志でやったのか。どちらか選べ」


 抜いた聖剣の切っ先を向けながら、レオルスの背後に後光のように『ジルジの天秤』が出現する。


『真』なら水平。

『偽』なら何も載っていない天秤が不自然に傾く。


 正誤善悪を見通す力を持った審判の女神・ジルジの持つ天秤の前では嘘を通すことは(あた)わない。


「自分の意志でやったんだよ。……厳密に言うのならば、多額の報奨金をゴロド王様から直々に積まれたから受け入れたのさ」


 物憂げにビールを注文して沈黙。受け取ってジョッキから一口呷る。


「僕は『アルミラージの集会所』に頻繁に出入りしているからね。どういう情報網を使ったかは分からないけど、そこをゴロド王に目を付けられたんだ。そして、多額の報奨金と引き換えに僕はここの情報を逐一王様に報告していたんだよ。だから、いつ勇者が来たか、どういうモンスターがドウブツエンに加わったのかも全部筒抜けだったというわけさ」

「なるほど。よく分かった。つまりお前は金欲しさに仲間を売ったということか」

「仕方がないだろう?君たちとは違って僕は恵まれなかったんだから」


 天を掴むように頭上に手を伸ばすと指輪に加工された魔証石(ましょうせき)が光る。


「僕ももう少し若かった頃はいろんなダンジョンを冒険してね、いろんな出逢いと別れを経験したものさ。でもね、僕に与えられた攻撃系スキルはAランクの【爆炎の剣技】だけ。スキルが全てのこの世界ではできることよりもできないことの方が多くて、ある日それが嫌になってしまったのさ」


 遠い過去を懐かしむように頬を緩めながら男の話は続く。


「それで、逃げるように商売を始めたものの、これもまた上手くいかなくてね。冒険者としてのセンスもなければ商売人としてのセンスもないのか、やっとお得意様になれたのはガルシャ君の店だけ。毎日糊口(ここう)を凌ぐのも苦労しているのさ。……そんなある日、「多額の報奨金と引き換えに潜入調査しろ」って命令が国王様から直々に下されたんだよ?この釣り針に食いつかない手が何処にあるっていうのさ?」


 剣を向けられているというのにシュナウトの態度はいつもと変わらない。

 いや、酒の力を借りて常日頃のように振る舞わないと舌が上手く回らないのかもしれない。


「勇者様も言っていたじゃないですか?「商人は金に貪欲なくらいの方がいい」って。僕は毎日を一生懸命生きるために貪欲に生きていただけさ。何をするにも困らない勇者様と違ってね」


 中空に浮かぶ天界の天秤を一瞥する。

 ここまで一度も傾いていないということは、ここまでの内容は全て『真』。毎週何事もないかのように振る舞いながら荷物を卸していたが、その血の滲むような苦悩・努力・葛藤を一切表面に出さずに今日日(きょうび)まで仕事をしていたということか。


「僕が話せることは以上だよ?満足していただけたかな?」

「ああ、十分理解した。だが、どんな理由であろうが金で仲間を売ったっていうのが気に食わねえ」


 切っ先を天に向けて縦に構える。


 袈裟状に一閃して裏切り者の首を落とすために。


「……覚悟はできているな?」

「どの道ゴロド王の所に戻ったって結果は同じさ。どうせ死ぬんだったら、ガルシャ君が経営するこの店で死にたかったんだよね」

「おいおい。宿主の意見も聞かねえで勝手に進めてくれるなよ?まずはその物騒な剣を降ろせ!」


 少ないと言えども今日は客を入れているため、剣を見て恐怖で逃げ出そうとする者・喧嘩が始まるのかと賭け事をしようとする者・静かに見守る者など様々な目線が集まる。

 渋々鞘に刀身を収めると、とことこと板葺きの床に足音を響かせながらガルシャがこちらへと歩いて来る。


「ここはオレの店だ。だったら、ここでシュナウトが死ぬかどうかもオレが決めてもいいよな?」

「まさか、この裏切り者を見逃してやろう、なんていう生温(なまぬる)いことを考えているんじゃないだろうな?」

()()()()()()()()()()()


 筋肉質の腕を組みながら首を傾げる。


「確かにコイツは仲間を金で売った最低最悪の男かもしれねえ。でもよ、あんたの大事な聖剣は返ってきたし、誰も傷つかなかったし、誰一人欠けることはなかった。大団円で解決したならそれでいいんじゃねぇか?」

「……思っていた以上に柔和なやつだな。何処かの国では大英雄と呼ばれた猛者だと聞き及んでいたが?」

「エリカが住んでいた世界にはな、「罪を憎んで人を憎まず」なんていう言葉があるらしくてな、オレもそれを参考にしてみたまでよ。それに、」


 少し恥ずかしそうに顔を背ける。


アジ=ダハーカ(アイツ)の監視のためにずっとこの場にいたから、ドリード村以外は(ろく)に行ったことがなくてな。シュナウトくらいしか商人の知り合いがいねえんだよ」

「…………は?」


 数々のモンスターを斃すために世界中を回っていた英雄(ゴロド王国出身)の開いた口が塞がらない。


「じゃあ、今までどうやって生活してきたんだよ?!この世界に来たのだって昨日の今日じゃないんだろ?!!」

「狩猟採集農耕まで全部自給自足だ!んで、この森で宿を構えて少し経った時、行き倒れそうになっていたシュナウトを助けて仲良くなったってことだ!!」

「いくら何でも逞しすぎるだろ…………」


 手先が器用なのは知っていたが、何年(神様や伝説上の英雄に年齢という概念があるかどうか分からないため、下手したら数百年)もの間、完全に自給自足を完成させて生活していたとは。男気が強いというか根性が凄まじいというか。


「なるほど……。つまり、ここで僕が死んじゃうとガルシャ君は商品の仕入れが上手くできなくて困ってしまうと。どうする?勇者様?」

「お前は一応裁かれる側なんだから、もう少し下手(したで)に出ろよな」

「それじゃあ一つだけ条件を出そう!これだけは飲んでもらうぜシュナウト!!」


 左手の小指を一本立てる。主に中東で用いられる「1」のジェスチャーだ。


「そのゴロド王から貰ったっていう報奨金、ドウブツエンと宿の経営資金に使わせてもらう!いいな?!!」

「……断ったらどうなるんだい?」

「あまり図に乗らないことだな。おれはあいつと違って世界を渡り歩いていた身だからな。お前の替えになりそうな商人を何人か知っている。ここでお前を斬り捨てて乗り換えるだけだ。拒否はできないと思え」

「このまま断ったら財産じゃなくて遺産になっちゃうってわけか。分配するような家族もいないしそれは困るな」


 空になったジョッキを見ながらアルコールの混じった重苦しい息を吐いた。

「なろう」にていいねが一件、ブックマークが三件増えました!いいね&ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!



 さていよいよお待ちかね!みんなのアイドル・ルナティの裏トークです!!


 感想コメント欄にも少し書きましたが、ルナティは元々藤井の著作・「Sランクギルドを追放された俺のスキルが、実は全てのステータスが1000000000000066600000000000001になるチートスキルだったので、ざまあすることにしました。」に登場する予定だったキャラクターです。


 この作品では「理想の彼氏を探そうとダンジョンに潜っていたら、いつの間にかLSランクになっていた」、「ドジっ子ムードメイカー」、「LSランクであるにもかかわらずソロで活躍している」という設定はそのままで、音声拡声魔法・『マイク』を使った巧みなトークセンスを評価されて、大陸最大の王国で行われる式典の司会進行役を任されるなど、公私共に誰もが認める実力を持ち、さらにはその声を求めてファンクラブが密かに結成されているなど、知名度・人気の非常に高い名司会者!でした。しかも少しのシーンしか登場しないモブです。


 しかし、ここまで完璧なキャラクターにしてしまうと主人公と絡ませた時に面白味がないのと、モブとして登場予定だったルナティが魔法使い設定で、これが思いっきり絵理華のポジションと被るため、ヒーラーとしての属性を付与。名司会者キャラを残すべくマイクを使って音で戦うキャラクターとなりました。【爆炎の才・神】を持っているのは魔法使い設定の名残です。


 名前の由来は「常軌を逸している」という意味を持つ英単語「Lunatic」(ルナティック)から取ってルナティ。

 公私共に実力を認められているキャラクターで、理想の異性を求めているうちにソロでLSランクになるポテンシャルを持っている。いい意味で「常軌を逸して」いますね!


 後は「月」=「Luna」=「兎」という連想から、最初の二文字は絶対「ルナ」にしようと決めていた所も命名の由来となっております。



 今回の話と関係があるかは分かりませんが、平安時代頃の日本では月には不思議な魔力があって、見た者の生気を吸い取ると言われていたそうです。


 月のことを「Luna」と言いますが、「常軌を逸しているくらいに異常」の意味を持つ「Lunatic」と頭四文字が同じなのは、西洋の人たちも「月」=「超常的で神秘的な物」と考えていたのでしょうか?

 同じくらいの時代に別の地域の別々の言語体系の人たちが、同じ空を見ながら同じことを考えていたと思うと、少しロマンチックですよね!!



 ではまた!これからもよろしくお願いします!!

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