第79話:フワワの正体
残る光輝は二つ。この光輝を破壊すればフンババを弱らせることができるし、『ニ』の力を封じることができるのだが。
『この『エレクトロキュート=ジュエル』は広い範囲にいる全ての生物を焼き尽くす!!貴様ら全員大自然の糧となるのだ!!』
必殺の電気玉を生成しながらフンババが叫ぶ。
『さあ勝負だ女ども!!わたしの光輝を二枚割るのと『エレクトロキュート=ジュエル』の完成。どちらが早いかな?!!』
生み出された光はバチバチと不穏な産声を上げながら少しずつ大きくなっていく。
「どうする?メイア?」
「どうするも何も、さすがに全員を庇いながら攻撃を防ぐのは不可能よ。電気玉が完成する前に光輝を割って無力化してしまうしかないわね」
相手が魔法の詠唱に集中している状態であるため守りはガラ空きだ。
ならば、攻め切ってしまう方が早いという判断なのだろう。
「でもさ、さっきフンババが生み出した『パドルレイブ=フィールド』がまだあるじゃん?ということは、さっきみたいに足場を作らないとメイアの物理攻撃は厳しいかな?」
「確かにあの溶岩地帯は厄介ね。なら、空を飛べばいいだけの話よ」
「空を飛ぶ??」
何かの比喩なのだろうか。言葉の意味が分からずに首を傾けると、
「『フライ』よ『フライ』。貴女が私に『フライ』を掛けてくれれば問題なく接近することができるでしょ?」
「あ、そっか!!」
アジ=ダハーカの様子を見に行ったガルシャを追い駆けた時のことを思い出す。
『フライ』は空を飛ぶことができるようになる魔法で、あの時は一切カミサマパワーが使えなくなったセレンに向けて『フライ』を使ったのだった。
フンババは足を踏み鳴らしてマグマの飛沫で撃ち落とす、と脅していたが、魔法の詠唱で身動きが取れない今なら妨害される心配もないだろう。
「地に縫い留められた足を解き放て!フライ!」
『フライ』は補助系の魔法ではあるのだが、物体を浮遊させるのは風属性の性質であるため絵理華でも使用可能だ。メイアに向けて手を添えて唱えると、綺麗に磨かれた靴が地面から解放される。
「さあて、これでマグマを気にすることなく接近・攻撃できるわね」
金髪のお嬢様が残忍な笑みを浮かべるのとは対照的に、獅子の顔を持つ巨人の顔には恐怖が浮かび上がっていた。
「残るはあと二枚なのでしょう?攻撃することに集中しすぎて穴の空いたチーズのような身体にしてしまったらゴメンなさいね♡」
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
19世紀に生まれたアメリカ生まれのボクサーを比喩したこの表現が美しいほどにマッチした攻撃だった。
背中に羽根が生えたかのように自由に空を飛び、急所にのみ攻撃を集中させて連続で攻撃を叩き込む。
『ぐおおおおおぉぉぉおおおおおっっっっ!!!!』
苦痛に顔を歪める中、二回目のパキンという音が幽かに鳴る。フンババを包む光輝は完全に破壊されたようだ。
が、
『これさえ撃てばっ!これさえ撃てば終わるのだっ!!貴様ら全員仲良く死ねいっ!!!』
頭上で電気の球が完成。そのあまりの大音にメイアが耳を塞ぎながら叫ぶ。
「後は何をすればいいか分かるわねっ?!!『エレクトロキュート=ジュエル』を止めさせるのよっ!!」
範囲は絵理華の目で見ることができる範囲。
成功条件はそのモンスターと仲良くしたいかどうか。
『風にして空を焦がす死の太陽よ』
死へのカウントダウンを意味する詠唱が始まるよりも刹那、
「【テイム】!!」
絵理華の【テイム】が発動。
そして。
「『エレクトロキュート=ジュエル』を停止せよ!!」
フンババに向けて一言。
直後、奥歯が砕けるのではないかというくらいの力強い動きで獅子の口が閉ざされ、天高くで死を齎そうとしていた電気の太陽が霧散した。
『……貴様、何をした?』
「【テイム】しただけだよ。これでフンババは私たちを傷つけられない」
今回は多くの魔法と頭を使ったため安心と共に一気に疲れが出た。
力なくその場に座り込みながら溜息交じりに言葉を話す。
☆★☆★☆
『フワワを探しているだと?』
「私たちは『ウェルタナ森林地帯フワワ抹殺作戦』っていうのを受けてここまで来たんだ。フワワについて知らない?」
理由は分からないが、フンババは太陽神シャマシュの手によって生まれたはずなのに、シャマシュに援助されたギルガメシュとエンキドゥに殺される。
殺された理由も「ギルガメシュがレバノン杉(フンババはレバノンの森を守護するモンスターだ)を持ち帰るのを邪魔したから」、「光輝を一つしか持っていなくて殺すのにいい機会だったから」と曖昧なものが多く、決して何かの悪さをしていたがために殺されたわけではない。
つまり、本来フンババは純粋にレバノンにある森を守護する温厚なモンスターであり、無暗に人を襲うようなモンスターではないのだ。
状態異常を回復させる薬品でセレンを起こした後に状態異常を回復させる魔法を全員に使わせて少し休憩。ルナティだけが忙しく回復魔法を使う中フンババが答えを返す。
『フワワか。随分と稀有な呼び名を使うものだな』
「何か知ってるの?」
巨人は面白そうに喉をくつくつと鳴らした後、こんなことを言いやがる。
『知ってるも何も、フワワとはわたしのことなのだからな』
疲れているのか何なのか分からないが、何を言っているのか理解できなかった。この場にいる全員がシンクロして同じような表情を浮かべる中フンババの独白は続く。
『フワワという名前はわたしの名前をシュメール語読みしたものだ。自分で言うのも何だが、わたしの伝承はシュメール語版・バビロニア語版・ヒッタイト語版などの様々な言語で伝承が残っているのだが、そのうちのシュメール語での伝承でのみ、フワワという名前で呼ばれていたのだ』
「えっ……。こいつがフワワ…………?名前のかわいさでは勝っていても見た目のかわいさではルナティちゃんに断然劣るこのモンスターが……?」
『……文献には肉食か草食かの記載は遺されていないのだったな。今この場でどちらであるかを教えてやろうか?』
「でっ!できれば草食がいいなあ!!ほら、ルナティちゃんと一緒に人参食べよ?!ぴょんぴょーん!!」
こんな話をされるとふと思い出してしまうのはヒポグリフ四兄弟の名前だった。
同じ名前でも国や言語が違うと英語のウィリアムが、グリエルモ(イタリア語)・ヴィルヘルム(ドイツ語)・ギョーム(フランス語)と変化して原型がなくなってしまうのだ。フンババからフワワへの変換の方が、むしろ優しく見える。
『だから、ふわふわした兎みたいな生き物を探していたというのであれば見当違いだな』
「何か少し残念だね……」
「誰でしょうねそんなややこしい名前で登録した奴はっ!!最近のギルド案内所はどうなっているんですかね!!」
「SSランクやLSランクの冒険者なんて、そんなにたくさんいるものじゃないでありますからね。依頼される機会が少ない分、記入事項のチェックや見直しがされる機会も少ないのかもしれないであります」
「それにしても誰なんだろ?こんな依頼をギルド案内所に登録したのは?」
『聞いてみればいいではないか?そこにいる輩にな』
フンババは半径1,968,500フィート(約600km)内の音なら聞き分けることが可能だと言われている。
少し離れた場所にある木立を尖った爪で指すと、
「……ちっ。想像以上に厄介なモンスターだな」
黒いローブを身に纏った暗殺者の男と鎧を装着した男騎士・青いローブに袖を通した女魔法使いと純白の修道服に身を包んだ女神官が木陰の裏から姿を現した。
「何ですのこの安っぽい悪党みたいな奴らは?子供が読む絵本に出てくる盗賊の方が、もっと格好いい見た目をしていますわ」
知っている。
ゴミを見るような目でメイアが睨む四人組のことを絵理華は知っている。
「あーっ!えっと、誰だっけ?!!」
どうやらルナティも見覚えがあるようだが、名前が思い出せないらしい。
「あいつですよあいつ!ゾウキンみたいな名前だったあいつらですよ!!」
「あとはセロリみたいな名前のやつもいた気がする!!」
「……思い出せない」
「あーっ!もう!!何のための名乗り口上よっ!!」
痺れを切らした青いローブの魔法使いが噛み付くように叫ぶ。
「こいつがセロイでこいつがゾーゴンっ!!そしてあたしがミガル!!そこのウェアタイガーを捕まえる時に世話になった『荒涼』だよ!!」
「わ、私がヒーラーのエルキンですう……。私のことも忘れないでぇ」
泣きそうな顔になりながら白い装束の神官がぼそぼそと口を開く。
「なろう」にていいねが一件、ブックマークが二件増えました!いいね&ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
先日「PICKUPテーマ長編コンテスト」で優秀賞を取り、「ストーリーの作り方はまだまだ粗削りですが、世界観の練り込みはしっかりしています。今後の成長に期待できる作品です」と書評を書かれ、「やったよ!書籍化確約したよ!!」と後書きに報告する夢を見ました。
夢物語で終わるのか。
夢は夢で終われないのか。
輝く日のために動き始めているのか。
気になりすぎてヤバいですが落ち込む準備はいつでもできております!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!
……最優秀賞ではなく優秀賞なのが少しリアルですよね。