第75話:聖剣の行方
「聖剣リライトを持ってきたよ」
「ご苦労さん」
シュナウトから差し出された聖剣を受け取ったのは【砥ぎ師】――ではなく妖術王妃アラキラだ。胸の部分をさらしで覆っただけの、露出度が高い人間の上半身が聖なる剣を両手で受け取る。
「カロルが言っていたことは本当だったんだねえ。『ジルジの天秤』の前で嘘を吐けないのであれば、事実を捻じ曲げてしまえばいいって」
脇を一瞥する。
そこには恐怖を顔に浮かべたままロープに縛られて床に転がる【砥ぎ師】の姿があった。
『『ジルジの天秤』は話した内容が『真』か『偽』かを見破る魔法だからな。ならば簡単。あの行商人の男が言ったことが全て真実になるように、こちらが整えてしまえばいいだけのことよ』
こちらは魔王軍の残党。しかも一度戦ったこともあるし敗れた身であるため、相手の持っているスキルや手の内は熟知している。勿論レオルスが『ジルジの天秤』を使うことだって織り込み済みだ。
シュナウトが突然「聖剣をくれ」なんて言ったら怪しまれるに決まっているので、シュナウトが言っていることが『偽』だと判断されない口実を作って聖剣を預けるシチュエーションを作らなければならない。それならばゴロド王の人望と権力を使って本当に【砥ぎ師】を用意し、「【砥ぎ師】の元に持っていく」という発言が『偽』にならないようにすればいいのだ。
『それにしても、貴様の持つ唾液は恐ろしいな。あの聖剣の刃すらも溶かしてしまうのだからな』
「アタシの【アシディティ=ユーモア】は魔法じゃなくてスキルだからね。何度モンスターの骨肉を斬って血を吸った聖剣だって溶かしてしまうのさ。……うん。エウロが上手くやってくれたみたいだね」
刃の欠けた部分を撫でる。
「この聖剣さえ無ければアタシの【ウロボロス】を突破する手段はないはずだからね。こちらは勝ったも同然だよ」
『……いや、憂い事が一つあると言えばある』
「何だい?」
言葉を話す骸骨の前で蛇型獣人の女性は首を傾げる。
『ゼロスト教のテルル。神が創った理に背いた者を粛正するために天から降りるとされている女神の名前だ』
「ぜろすと教?てるる?この世界では結構永く生きてるけど、聞いたことがない名前だねえ?ヴィルリアの配下の神にそんな名前のやつはいないし、天使にもいた記憶はないけど?…まあいいや。それって結局、いつ来るか分からないってことでしょ?」
鞘に収めて聖剣を床に捨てると、
「それじゃ、アタシも勇者を討伐しに向かうとするよ。あの憎き聖剣さえなければ勝ったも同然だからね」
太い下半身をずるずると引き摺りながら『探究の古城』を跡にした。
☆★☆★☆
「残る依頼は一つですね絵理華さん!さあ何にしましょう!?」
「そんな「何握りましょう?」みたいな感覚で言われても、すぐには決められないよ?!」
都市への通行料が高いという話はしたが、それなりの儲けがあれば困るような金額ではない。すっかり入り浸ってしまったロマリアのギルド案内所で今日もSSランクの依頼を探す。
「『ソーリア平原人参畑奪還作戦』がまだ残ってるじゃん!?報酬に人参5ダース貰えるみたいだし、ここはルナティちゃんがやるべきかっ?!!」
「Aランクでしたよね?やるなら一人でやってくださいねー」
「人参を5ダースも貰っても困るから残ってるんじゃないかな……?」
「ルナティちゃんは困らないけどなっ!!」
「『ゴロド王国主催ガオバーロチーズ転がし祭り参加者募集中』。優勝者にはペコリーノチーズ220ポンド(約100kg)……。これは出場するしかないわね……」
「それに至ってはもはや依頼書ではないであります!?見る場所を間違えているでありますよ?!!」
いつの間にか隣のイベント掲示板へと目が移っていた金髪の吸血鬼をハロイラが呼び戻す。
ペコリーノチーズとは紀元前からイタリアで食べられていたチーズで、羊の乳を使って作るチーズである。
雌の羊のことをイタリア語で「ペコーラ」ということに由来し、ローマとその周辺でよく食べられていたことから「ペコリ-ノ=ロマーノ」が本来の名前なのだが、この世界にはローマは存在しないため、単純にペコリーノチーズと呼ばれている。
ちなみに、イングランドで毎年春に行われるチーズ転がし祭りで使用されるチーズはダブルグロスターチーズという品種なのだが、このチーズが生まれたのは近世初期。大会で転がすチーズには同じハードチーズの分類に属しているペコリーノチーズが使用されるようだ。
「あっ!これなんてどう?!『ウェルタナ森林地帯フワワ抹殺作戦』。フワワなんていうかわいらしい名前をしているんだから、きっとモフモフでかわいいモンスターに違いないよ!これにしよう!!」
「難易度はSSランク……。しかも作戦名が『抹殺』ということは、対象となるモンスターは一匹でありますか……。先日戦ったネメアの獅子に相当するモンスターとの戦いってことでありますよね?」
「フワワですか……」
「フワワね」
「フワワ」
六人で想像力を膨らませてみるが、白くて丸っこいモフモフした小動物しか思い浮かばない。
「ほら、私が最初に【テイム】したルミ子だって、本来は動物を襲って食べちゃうような狂暴なモンスターらしいじゃん?私たちが知らないだけでそういうモンスターがいるのかもしれないよ?」
「でも難易度はSSランク。容易に【テイム】できないのを覚悟の上での戦いになるけど、エリカはそれでも大丈夫なのかい?」
「大丈夫大丈夫!今までもこうやって六人で【テイム】してきたんだからさ、今回だって余裕でしょ!ささ、この依頼にしようよ!!」
鋲で留めてあった紙をびりりと破り取って受付のお姉さんへと提示する。
――「フワワ」という名前だけで判断したことを後悔するとは知らずに。
「なろう」にていいねが一件、ブックマークが一件増えました!いいね&ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
最近空き家が深刻化しているという話をネットニュースで聞きました。
藤井は運動不足解消云々も兼ねて、毎日30分~1時間程度近所を散歩するのですが、近くの団地を歩いていると明らかに空き家が増えているのが分かります。
「明らかに人が住んでいないだろうなー」ということが分かる家や、「売り物件」の看板が貼られたまま施錠された家、更には取り壊されて更地になった家も(場所はバラバラですが)三件くらい目撃しました。想像以上に深刻な問題となっているそうです。
少し調べてみたら、空き家を解体するのに莫大な費用が掛かるうえに、更地にしたところで使い道がない、そもそも空き家の所有者が分からないため作業が行えない、などの問題点があるそうです。早く法整備が進むといいですね。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




