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第73話:緑装束の訪問者

「なあラウン」

「どうした?」

「おれたちって魔王ロザスを斃した勇者様一行だよな?」

「そうだ」

「じゃあさ、どうしてこんな犯罪者みたいな生活しているんだろうな?」


 勇者一行が謎の少女が率いるモンスター軍団に負けたとなれば世界が混乱するため、その事実を報告しに行くことができない。

 しかし、一国を救った勇者様一行というだけあって世界中の人が姿や見た目を知っているため、悪目立ちをするわけにもいかない。


 という複雑な立ち位置で板挟みになっている勇者はお椀に入った野菜スープを飲む。


 場所は動物園を囲む森林を少し進んだ場所にある開けた土地。

 妙に器用なガルシャの指導の元に木材を組み上げて小さな小屋を完成させ、現在はそこを活動拠点としている。


「決まっているだろう?私たちの存在を隠すためだ」

「でもさ、エリカ=ヤマシロはドウブツエンを建ててそれを繁盛させたいんだろう?だったら、おれたち勇者様の知名度を利用すれば、集客なんて容易いものじゃないか?」

「言っただろう?存在を隠すためだと。おれたちがドウブツエンで働いていることが世界中に知られたら、勿論ゴロド王のお耳にも入る。そうなると、私たちは再びゴロド王様の元に戻ってエリカの抹殺やその他の雑務をしなければならなくなるから、再びあの異教の神たちと白刃を交えることになるぞ?」

「うげ……。それだけは避けたいな。正直魔王と戦った時よりもきつかったぜ」

「魔王に対しては辛勝だったが、神々に対しては惨敗だったからな。結果が違えば印象も違う」


 リルは動物たちの健康診断、トルーニは厨房スタッフとして働いているため、現在この小屋には男二人だけだ。

 リルとロルーニは変装などはすることはなく、ごく平然と働いているのだが、二人が勇者様パーティの一員であるということは誰も気づかないらしい。国を問わず中世では平民が王の顔を知らない、なんていうことはよくあったため、別段不思議ではなく、戦国時代に豊臣秀吉に敗れて落武者となった明智光秀が盗賊と間違えられて農民に竹槍で刺し殺されてしまったのがいい例か。


「実は『煌々(こうこう)たる裁きの剣』はおれが思っている以上に有名じゃなくて、普通に働いても気づかれなかったりしてな」

「私はさておきレオルスは『勇者』と言われるような男だぞ?メイアやハロイラと初対面の時でもあっさり気づかれたわけだし、さすがに無理だろう」

「でもさ、こんな所でこそこそ生活するのが勇者の仕事かって言ったら違うだろうが。ちやほやされる云々はさておき、太陽の下を堂々と歩きたいものだな。貧民街(シャンティタウン)に住んでいる盗賊みたいじゃないか」


 スラム街が都市部の外周部にある貧民街なのに対し、シャンティタウンは荒家(あばらや)などによる仮屋によって集団占拠された違法建築の集合住宅地のことであり、地名ではない。ちなみに、『スラム街』という言葉が生まれたのは高度成長期に突入した近世のロンドンだ。


「ではレオルスは王の手駒として義賊を殺したり、モンスターたちとの生命のやり取りをする生活に戻りたいというのか?」

「そういうわけではないさ。そういうわけではないが、世界を救った勇者様が何をやっているんだろうな、と思ってさ」

「何をしていたっていいじゃないか。勇者だって一人の人間なのだから、何をして何を考えようが自由だろ?」

「何をしてもいい、ね。じゃあおれも朝からビールでも飲もうかな?」


 真面目なラウンのことだ。「いつでも戦闘準備できるように酒は飲むな!」と怒鳴りそうなものだが、


「それもいいのではないか?私は飲まないがな」


 パンを千切って食べながらそう答える。


「……随分と丸くなったものだな。以前のラウンなら怒りそうなものだが?」

「私たちは冒険者として一線を退き、後任に託すべきだと思うんだ。魔法やスキルに関する教育や訓練をして後任を育成したり、モンスターの弱点や生態に関する知識を纏めた書物を編んだり、自叙伝を作ったり。人に命令されて何かをするより、自分たちであれこれ考えて物事を進める。『煌々たる裁きの剣』を二人で立ち上げた時がそうだったように、私たちも私たちがやりたいことやしなければならないことをもう少し考えて生活した方がいいのではないかと思うんだよ。だから、もっと自由に生きてもいいのではないのかな?」

「……ふん。真面目なラウンらしいじゃないか。おれはてっきり闇属性の魔法を使って誰かが入れ替わっているのかと思ったぞ?」

「ならば『ジルジの天秤』を使ってみるか?使ったところで何も変わらんがな」

「違いない。自身満々に『ジルジの天秤』を使え、なんて言う偽物はいないからな」


 二人で笑っていると、


「よお英雄さんたち。今ちょっといいか?」


 ノックの音がした後に小屋の中へとガルシャが入ってくる。


「お前たちに会いたいっていう人がいてな。相手をしてやってくれねぇか?」

「おれたちに会いたい?一体誰が?」

「オレにもよく分かんねぇけど、男のエルフみたいだぜ?どうも『煌々たる裁きの剣』のメンバー全員に用があるんだとさ。今エントランスにいるから早く来てくれよ」


 レオルスやラウンだけというならともかく、ギルドメンバー全員に用があるというのはどういうことなのか。


 動物園の中を通って途中でリルを拾い、三人で『アルミラージの集会所』へと向かうと、


「お久しぶりですね。レオルス様。ラウン様」


 席には緑色のローブを纏った男がいた。頭を覆った頭巾部分から尖った耳が飛び出しているところを見ると、ガルシャの事前の説明通りエルフであることは間違いないようだ。

 いや、それどころか、レオルスもラウンもこの人物を知っている。


「エウロ…………?」


 その人物の名を最初に呼んだのは、同じ種族であり同じ出身地・そして、同じ場所を旅してきた一人の女性だった。


「エウロ!!」


 我慢できなくなったのか、その顔を見るや否や駆け出して男へと抱き着く。


「生きていたんですね……っ!それにしても、どうやって生き永らえたのですか?」

「僕にもよく分からない。でも見てくれ。僕はアンデッドでもないし、幻覚なんかでもない。この肌の温もりが何よりの証拠だろう?」

「ええ、感じるわ。あなたの心臓の鼓動。あなたの息遣い。全部全部、あなたのものに違いはないわ」


 魔法使いエウロ。

 かつてレオルスたちと一緒に冒険していた魔法使いだったが、禁じられた魔法の一つ・『沸騰する血の呪法』を使用され、リルの回復魔法によって息絶えた人物である。


「おい、ちょっと待て。死んだと思っていた者が「実は生きてました」とか言いながら突然現れたのを手放しで喜べるわけがないだろうが。いくつか質問に答えてもらおうじゃないか」


 近くに術者がいて闇属性の魔法を使っているかもしれないし、何者かが変装しているかもしれないし、ここにいる異教の神たちのように知らない宗教の知らない神様が知らない力を使っているかもしれない。


 聖剣を抜いて魔法を詠唱すると、空中に『ジルジの天秤』を出現させる。


「お前の名前は?」

「エウロ」

「持っているスキルは?」

「【爆炎の才・神】と【料理人・神】。僕は君たちが笑顔で料理を食べてくれるだけで幸せだよ」

「ポジションは?」

「サブディーラー。レオルスがDD(ダメージディーラー)でラウンがタンク。リルがヒーラーだったよね?僕が『ウォール=フレア』で防御したり、『ファイヤー=ミサイル』で相手の動きを阻害して、レオルスがとどめを刺す。そうだよね?」

「出身は?」

「ウィルミナートの森。リルと同じさ」

「持っている武器の名前は?」

悠久杖(ゆうきゅうじょう)イチイ。エルフ長の許可を取ってウィルミナートの森にあるイチイの樹を一本切り倒して、それを加工して作ったんだよね」

「リルとの関係は?」

「将来を誓い合った仲さ。……こんなことまで聞くのかい?人前で答えるのは少し恥ずかしいね」

「…………」


 どのような質問をしようが『ジルジの天秤』が傾くことはないし、レオルスたちしか知らないような質問にも詰まることなく答える。


「もういいだろう?僕は僕。虚像なんかじゃないさ」

「……分かった。最後にもう一つ質問させてもらおう」


 遠目でこちらの様子を見ていたトルーニの手を引き、エウロの前に出す。


「この少女の名前は?」


『煌々たる裁きの剣』に加わった順番として、


・レオルスとラウンが同時期に加入。

・リルとエウロが同時期に加入。

・エウロ死亡。

・レクドーア加入。|(第59話に名前のみ登場。圧倒的な防御力によるタンクと【天啓の導き】による卓越した補助を同時に熟すことができることから『城塞都市』の二つ名を持つ女騎士)

・レクドーアが負傷により脱退。

・トルーニ加入。


 となっている。


 つまり、もし本物のエウロが最近生き返ったばかりであるならば、レクドーアとトルーニが『煌々たる裁きの剣』に加盟して一緒に冒険していたことは知らないはずである。


「…………」


 その意味を察したのか、ラウンも口を噤んで静かに見守る。


「この娘の名前…………?」


 こちらの情報を掴んで潜入しているスパイなのか。

 それとも本当にエウロなのか。


 当の少女は何故呼ばれたのかも分からず、「ん?あたし?あたしがどうしたってんだ?」と話の意図を全く汲み取れていない中、


「……分からないな。彼女も『煌々たる裁きの剣』のギルドメンバーなのかい?」


 緑色のローブを着た男は首を傾げる。



 一連のやり取りがされている間も、『ジルジの天秤』は『真』を表現したまま動かなかった。

「なろう」にていいねが一件増えました!いいねしてくださった方ありがとうございます!!



 藤井は結構な反り腰なのですが、何とか治したいなーと思ってネットで調べていたら、「レックレイズがおすすめ!!」と書いてあったので、夜にしっかり丁寧にレックレイズをやってみました。


 するとビックリ!!



 月曜日は激しい腰痛に襲われました……。

 普段リングフィットでやってるのに何で?!藤井の筋肉ってこの程度だったの?!!と少しショックでした。


 本日は腰痛のためリングフィットはお休みです。ですが、新作投稿は覚えていましたよ!偉い!!


 皆さんも慣れない運動をする時は気を付けましょう☆。



 ではまた!これからもよろしくお願いします!!

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