第72話:守ったモノと守れなかったモノ
『やあやあ驚いてくれたかな?』
突如空中に現れたのは事前に撮影された映像のようだ。映写機のような装置も内蔵されているのか、空中に浮かんだモニターには立派な髭を蓄えた三人の男性が映し出されている。
『モンスターとの模擬戦で使われていた装置を改造し、センサーで捉えたモンスターをコピーする機械を作ってみたんだよ。いやあ、僕の才能が恐ろしい』
『ローガンさんったら浮かれちゃって。まだ正常に作動するか分からないでしょ?』
「何ですのこのおっさんたち?私たちをからかっているのかしら?」
「父上殿……、グィズ殿……、ネグス殿……」
そういえばハロイラはドワーフの女性であるため背丈の低い少女の見た目をしているが、ドワーフの男=全員立派な髭を持ったおっさんだったか。ハロイラの湿っぽい声に難癖を付けるのを止めて耳を傾ける。
『だけど、この装置を見たらハロイラは驚くに違いないぞ?何せ、音だけではなく衝撃やダメージまで再現したんだからな。実際にそのモンスターと戦っているのと何ら変わりはしないさ』
『こいつは凄いぞ?「こんな装置を作るなんて、父上殿は素晴らしいであります!」と感激するに違いない』
『ローガンさんは本当に娘思いですね』
『はははっ。娘が「守られるばかりでは嫌だから、自分は冒険者になって誰かを守るんだ」って意気込んで出てったんだ。僕も頑張らないとね』
「はははははは」という場違いに明るい笑声に包まれると、映像は砂嵐になった。
「……ねえハロイラ。こんな状況で聞くのも無粋かもしれないけど、貴女はどうやって助かったの?」
「…………ロワッタ王国が魔王軍に襲撃された、という一報を受けて、当時のギルドメンバーたちと真っ先にドンガーラに向かったであります」
俯いて表情を隠したままハロイラの独白は続く。
まるで壊れた機械のように声が震えていた。
「しかし、街に現れたのはアラキラとマンティコア。四天王の一人と言われるモンスターとSSランク相当の強さを持つモンスターの前に、我々は為す術もなく敗北。ギルドメンバーたちはその場で殺され、私とその家族や仲間たちは捉えられて、先ほど説明した生物を分解する装置の中に詰め込まれたであります」
その小さな身体が経験した凄惨な過去の告白を誰も止めることはできなかった。
「父上殿と仲間たちがその場で細分化されて消えていく中、私は【朽ち褪せない騎士道】を発動。それの効果により死ななくなったため、隙を見て逃げ出したのであります。皮肉なものでありますよね。誰かを守るために手に入れたスキルのはずなのに、結局助けられたのは自分自身だけ。目の前で消えていく仲間も、一緒に戦ったギルドメンバーも、誰一人助けることができなかったであります」
「そんなことないよ」
固く握られた籠手の拳を一人の女性が握る。
「ネメアの獅子とマンティコア。『ライザーズ』に入ってから二回も私たちのことを守ってくれたじゃん?だから、何も守れないなんて言わないでよ」
「でも、目の前で消えていく仲間たちを誰一人救えなかったであります!誰一人っ!!」
「こほん。いいですこと?ハロイラ?」
大粒の涙で地面を濡らす少女に向けて、メイアが恥ずかしそうに口を開く。
「私たちは主神ヴィルリア様のような全知全能の神ではないわ。何かを救うこともあれば、何かを諦めなければいけないこともあるでしょう。無数の選択をしない限り、私たちは生きてはいけない矮小な生き物なのよ。何も諦めず、全てを救うことができる。……そんな人並外れた芸当ができる者のことを『勇者』と呼ぶのよ。私たちには真似ようとしても真似られないものだわ」
カツカツと氷を踏み締めながら歩く。
「そして貴女は『仲間を見捨ててでも生き延び、その死を背負う』という選択をした。その結果、私たちと出逢うことができた。……それでいいではありませんの?何が不満ですの?」
「確かに、皆さんに逢えたのは至極幸せなことであります。しかし、私が仲間たちを見殺しにして生き残ったのも事実。その罪をどうやって背負っていけばいいのでありますか?!!」
「赦しだよ」
虎模様のさらしと腰巻きを身に着けた少女が静かに見つめる。
「ボクは前世で自分を殺した者を赦した。それと同じで、死んでいった君の仲間たちは君のことを非難したりはしないと思うよ」
「そんなの詭弁であります!!死者が私のことを赦してくれるなどと、どうして分かるでありますか?!!」
「でも同時に、仲間たちが生き残った君を恨んでいるかどうかも分からない」
はっ、と息を呑む音が鎧に包まれた少女から聞こえる。
「ボクは相手と直接話すことができたからいいけど、君はそれができない。利己的でも自己中心的でもいいから、「自分は赦されている」と思うしか呪縛から解放される手段はないんじゃないかな?じゃないと苦しいだけだと思うよ?」
呪いが縛ると書いて呪縛。
自分でも知らないうちに自分に呪いをかけ、見えない鎖に縛られていたのかもしれない。
「……ありがとうであります。皆さん」
「あのう、しんみりとしたお話をしているところ大変恐縮なんですが……」
背後からとことこと歩きながらルナティが申し訳なさそうに口を開く。
「今回の『ドンガーラ市マンティコア抹殺作戦』、ギルド案内所にはどうやって報告すればいいのかなあ?ルナティちゃんたちは報酬が貰えるのかなあって」
「こんな時だっていうのにお金の心配かしら?やれやれ。これだから守銭奴万年発情駄兎は」
「ルナティちゃんの肩書きが長くなってる?!!」
「言われてみればそうですね。まさか、「マンティコアが立体映像でした」なんて言えませんし、マンティコアを倒したことを証明する手段もありませんね」
本来依頼達成の条件として必要になるのは、そのモンスターを倒したことを証明できる物を提出するか、【テイム】によって服従させたモンスターを連れて行き、暴走する危険性がないのを証明することである。例えばマンティコアであるならば尻尾や棘、爪などがそれに該当する。
ネメアの獅子のように一匹しか存在が確認されていないモンスターや、マンティコアのような存在が稀少なモンスターであれば、身体の一部を切断して持っていけば証明完了となるのだが、ウォーターリーパーのような個体数が多いモンスターやスライムなどの持ち帰る部分がないモンスターなどは、予め剥ぎ取ったパーツを持ち込んで偽造することができてしまうため、依頼達成報告を受けた後にギルド案内所側が実地に踏み入ってモンスターの状況を確認し、そこで初めて依頼達成となる。
「だったら、この妙ちきりんな装置を持って行って、マンティコアを再び召喚すればいいではないですの?それが最も簡単でしてよ」
「確認はしているでありますが、どうやらこの装置、壊れてしまったようでありますね。スイッチを押しても何も変化がないであります。それに、ロワッタ王国は高度な技術を持つ分、技術力の漏洩に対しても厳重な注意をしていて、こういう技術や装置を持ち出すことは国が禁止しているのであります」
弓を射て石を投げて戦っていた戦場に、いきなりマシンガンや銃・毒ガスが用いられて一方的に虐殺される。
そんなバランスの崩壊を防ぐために、ロワッタ王国は科学技術の輸出には細心の注意を払っていたようだ。
国が廃墟と化した今では技術の持ち出しや漏洩を取り締まるようなモノは消え、容易に持ち出せるようになっているみたいだが、ここはロワッタ王国で長く生きていたハロイラの意見を尊重したい。
「メイアさんが思いっきり突いてしまったからですねえ」
「…………ハロイラが「問題ない」って言ったんじゃない?だからやったのよ?」
「そっ!それは申し訳なかったであります!!」
「ふふふ。忘れてない?みんな?」
輪を作って会議している中、絵理華が口を開く。
「こういう時に『サイキック=エクスプレッション』を使えばいいんだよっ!マンティコアとの戦いを一部始終見ていた私の記憶を『サイキック=エクスプレッション』で画像か映像にでも出力すればいいんでしょ?」
「えっ!?絵理華さんが魔法を使った案を出した?!こちらに来た時から一緒にいたわたしとしては嬉゛し゛い゛限゛り゛で゛ご゛ざ゛゛い゛ま゛す゛う゛!!」
「言葉になってないよ。セレン。ほら、これで涙を拭いて」
タイガが爪先立ちをして金髪の女神の頭をそっと撫でる。
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「なるほど……。ドワーフたちが作り出した装置が何らかの形で誤作動し、結果勇者様たちが倒したはずのマンティコアが生まれた、と」
絵理華たちからの説明を受けた受付嬢が考えるような仕草をする。
「でもおかしいですね。そういう勘違いがないように、『スペシファイ』を使わせて生体反応を確認しているはずなのですが……」
『スペシファイ』とは、指定したモノの場所を探し出すことができる光属性の魔法で、ロマリアの街でタイガを探す時に使用したものだ。
人や生き物・モンスターの数や居場所を特定するのに使用されるのだが生体にしか反応しないことから、闇属性の魔法によって生み出された幻覚や今回の装置のような立体映像、アンデッドなどの既に死んでいるモンスターの数や居場所を把握するのには使用できないという汚点を持つ。
「勘違いってこともあるんじゃない?間近で戦ったルナティちゃんたちでさえ本物だと思っていたんだもん。あれほどのモンスターを遠目で見たら、「強いモンスターがいるに違いないっ!」って思いこんじゃうのも無理ないと思うよー?」
「確かに、『サイキック=エクスプレッション』を観る限りでは、本物にしか見えませんね。まさか、ロワッタ王国にこれほどまでの技術力があるとは……」
何やら手元の書類に文字を書き込むと丁寧な所作で深々と頭を下げる。
「本日はこちらの不手際で冒険者様たちに迷惑を掛けてしまって申し訳ありませんでした。今回の件は依頼達成ということで上層部と相談し、報酬を支払おうかと思っています。ご報告ありがとうございました」
後日ロマリアのギルド案内所に訪れると依頼達成の報酬を手渡しされた。
残る依頼はあと一つ。
『ライザーズ』がLSランクのギルドへと昇格するまでもう少しだ。
「なろう」にてブックマークといいねが一件ずつ増えました!ブックマーク&いいねしてくださった方ありがとうございます!!
本稿は「ノベルアップ+」で開催中の「PICK UPテーマ長編コンテスト」にエントリーしている作品なのですが、他のエントリー作品を覗いてみると、本稿は応援ポイント数・投げ銭数ともにエントリー作品の中では下から数えた方が早いくらいに少ない作品のようです。
その事実を知っていよいよ心が折れそうになり、ここ数日間くらいは執筆活動に手が付かなくなりそうだったのですが、昨日投稿した話のpv数を確認してみたら、投稿完了した16時の段階で132pvありました。
大丈夫。
藤井を必要としてくれている読者がいる。
藤井の作品を待ってくれている人が全国に130人近くもいるのだ!!
……と自分に発破をかけてムチを打たないと本当に心が折れそうです☆。
ああ、一発当たんねぇかな「PICK UPテーマ長編コンテスト」。
賞金の50,000円相当のアマゾンギフト券はさておき書籍化確約は大きいですよね。
ちなみに、「異世界×女主人公×動物ファンタジー」部門です。
「現代×大学生か社会人×イチャイチャラブコメ」部門で投げ銭貰ってる人はぶっちゃけ尊敬してしまいます……。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!




