第52話:ぼなぺてぃーと!
無論自家製マヨネーズなど作ったことがなかったので、味が如何ほどなものかは分からない。だが、失敗したのであれば少しずつ改善していけばいいだけの話だ。
「えっと……、手作りマヨネーズは日持ちがしないため、その日のうちに使い切ってください、だって」
「どういう食べ物なのこれ?そのまま食べていいやつ?!」
味見担当ルナティが待ち切れない様子でぴょんぴょんと兎のように跳ねるので、
「ねえガルシャ。適当に切った人参ない?ルナティに食べさせてあげたいんだけど?」
「人参スープに使おうと思って仕込んでいたのがあるぜ?こいつでいいか?」
棒状に切られた人参を受け取り、先端にマヨネーズを一掬いして渡す。
「このまま食べてみて。ちゃんとできていれば美味しいはずだよ?」
「おいおいエリポン。ルナティちゃんは馬じゃあないんだぞ?生の人参は食べない主義さ」
やれやれと肩を竦めながら先っぽにマヨネーズが付着した人参を受け取ると、いい音を立てながら歯噛む。
こりこりと音を鳴らしながら吟味。静かに獣人少女の返答を待っていると、
「美味いっ!何これ美味しい!!いくら何でも美味しすぎるでしょ?!!」
齧った部分をマヨネーズにダイブ。掬っては齧るを永遠とループする。
「ちょっと!その食べ方をしたら他の人がマヨネーズを使えなくなっちゃうんだけど?!」
「ゴメンエリポン!美味しすぎて止まらないんだよう!!」
終いには小さな破片となった欠片をどっぷりとマヨネーズへと浸して指で抓んで咀嚼。名残惜しそうに指に付いた白い粘液質の物体を舐める。
「凄いものを作ってしまったねエリポン!これならサラダとかも美味しくいただけそうだよ!!」
「な、なあ、結局何を作ったんだ?そんなに美味しいものなのか?」
ボウルの中で無惨に荒らされた白濁液を見ながら疑問の声を上げる。
「ルナティが使ったやつでいいならここにあるけど舐める?」
やはり料理担当としての血が騒ぐらしい。淵の方にあった比較的無事そうなものを指で掬って舐める。
「今までに食べたことない味だな……。料理に掛ける香辛料とか調味料の一種と考えてもいいのか?」
「うん。マヨネーズっていって、料理に掛けたりするのに使うんだよ」
「どれどれ……。ん、いい味じゃねぇか。フライとか生野菜とかに使うと美味しそうだな。またオレの料理のレパートリーが増えちまうぜ」
「がんがん美味しい料理を作ってよー。ルナティちゃんが味見を担当しちゃうんだからね!」
二人で楽しそうに話しているが、このままでは料理に使う分の余裕はなさそうだ。マヨネーズでぎとぎとになったボウルを洗うために外に出て井戸水で洗っていると、
「何を洗っているのでしょうか?」
動物やモンスターの生態についての知識があるというので、モンスターたちの健康観察をしていたリルが遅れて戻ってくる。
「あ、リル。マヨネーズを作るのに使ったボウルを洗っているんだよ。これでもう一回マヨネーズを作ろうと思って」
「まよねいず?聞いたことがないですね。一体どのような食べ物なのでしょうか?」
「酢・塩・植物油・卵黄を使って作る調味料だよ」
「へえ……。見た感じだとリヨットで食べた魚料理に使われていたソースに似ていますね」
「リヨット?の魚料理??」
「あら?リヨットに行ったことがないんですか?」
腰まで届く長い髪の毛を揺らす。
「ミザーフ王国の首都で、大陸最大の港町というのもあって海産物がとても美味しいんですよ。そこで食べた魚料理に使われていた、卵・オリーブオイル・レモン果汁を混ぜたソースに似ている気がします」
「美味しそうだね。そのソースってどんな名前なの?」
「さあ。そこまでは。そのお店で手作りしたものだと店主が言っていた気がするので、もしかしたら明確な名前はないのかもしれませんね」
スペインにあるミノルカ島の地域の一つ・マオンでは、古くから卵・植物油・レモン果汁を混ぜ合わせたソースを肉に掛けて食べていたのだという。一説では、これを食べたフランスの軍人・リュシューがそのソースの味を絶賛し、フランスに持ち帰った際に『マオンズソース』から『マヨネーズソース』に転訛したのが、現在のマヨネーズの名前の由来とされている。
「そうなんだ。機会があったら一度食べてみたいなあ。あ、そうだ。ミルも良かったら一緒にマヨネーズ作る?」
「いいんですか?エリカさんが他の世界から持ち込んだ調味料となると、トルーニも大喜びしそうですね」
「料理のレパートリーが増えるって、ガルシャも興奮してたよ」
食中毒が怖いのでボウルに【女神の祝福】による殺菌魔法を掛けてもらい、二人で宿の中へと戻っていく。
☆★☆★☆
「先日は大丈夫でしたか?痛かったでしょう?」
『……』
時刻は少しだけ遡り、朝の掃除や餌やりが終わった時間帯。場所はアジ=ダハーカ宮殿の中。
10フィート(約3m)程度の大きさの龍になった龍の左翼をリルが優しく撫でる。
「ところで、この傷を治してあげたいと思っているのですが、回復魔法を掛けてもよろしいでしょうか?」
回復魔法を使ってもいいか否か。
人間で例えるならば、左腕に大量出血を伴う大怪我をした状態で「医療行為をしていいか」と聞いているに等しい。
風邪を引くだけで医療費に30万円も掛かるアメリカではないのだから、そんなものは誰かに許可を取らずとも勝手にすればいいものだが、アジ=ダハーカはすぐに質問の意図を汲み取る。
『面白い問い掛けをするな娘よ。まるで、回復魔法を掛けてはいけない状態にかつて遭遇したかのようだな』
「……さすがドラゴン様。何でもお見通しですね」
昔を懐かしむかのように目を細める。
「魔王が率いる四天王の中に、妨害系の魔法を得意とする妖術王妃アラキラというモンスターがいましてね。そのモンスターに回復魔法を使うと逆に対象がダメージを受ける禁じられた魔法を、仲間が掛けられたことがあったんです」
『『沸騰する血の呪法』か。人間たちは好き好んで使わない魔法だな』
「す、凄いです。レオルスも知らなかった魔法なのに」
『この世界で魔法を作ったのはドラゴンで、そのドラゴンたちが人間の魔法使いたちに教えたことで魔法が普及していったのだからな』
右の翼を動かすも、根元からなくなっている左の翼は動かない。
「……では、『沸騰する血の呪法』もあなたたちドラゴンが作ったというのですか?」
『お前がどのような目にあったのか我は分からぬが、恨む相手を間違えるなよ?』
エルフの女性から湧き出るどす黒い憎悪の念を感じたのか、三つの頭をこちらに向ける。
『大事に思っている人間が鍛冶屋の銘が刻まれた剣に殺されたとして、その剣を持っていたやつは恨んでも、その剣を生み出した鍛冶屋は恨まぬだろう?それと同じでドラゴンはあくまで魔法を作って人間へと教えただけ。その魔法をどう使うかは人間たち次第なのだ。我を恨んだとて何も変わらぬ』
「では、何故あのようなおぞましい魔法を作ったのですか?あんな魔法さえなければエウロは死ぬことはなかったんですよ?」
『ウロボロス』
その一言を聞いてリルは息を呑む。
「ウロボロス?ウロボロスってあの、絶対に死なないと言われている円環の龍輪のことですか?!」
ウロボロスとは、古代から用いられていた象徴の一つで、自身の尾を咥えたドラゴンの紋章のことである。
自分の尾を咥えて一つの輪を形成することから、その象徴は『永遠』・『不老不死』。グリフォンの紋章と同様に、歴史を辿ることができないほどに古くから用いられてきた紋章だ。
『誰もが一度は夢に見るだろう?生命の輪廻から逸脱した、あの絶対不死の龍を殺してみたいと。我らドラゴンとて例外ではなくてな、一部の熱心なドラゴン共に熱が入りすぎるあまり、生身の生き物に使うのには危険すぎる魔法もいくつか誕生したのだ。『沸騰する血の呪法』もその一つにすぎん』
「それでは……、他にも呪法はたくさんあると……?」
『我はいくつも知っているが、ここで我がわざわざ話す意味もないだろう。詳しくはあの龍人娘に聞けばいいではないか』
「トルーニはドラゴンをひどく憎んでいますからね。彼女の口からドラゴンについて語られることはありませんよ」
『ドラゴンを憎む龍人か。面白いな』
「……すっかり話が逸れてしまいましたね。回復魔法を掛けた方がいいのでしょうか?」
『我は善悪二元論における真性の悪であるからな。善の力を持つ回復魔法では治らぬのだ。……見よ』
そう言われて龍の全身を捉えると、根元から消えたはずの翼が少しだけ生えていた。
『貴様から流れ出た負の感情を吸い取って回復したようだな。こうやって、世界中に溢れる負の感情を吸収して回復するから、我には回復魔法など必要ない』
「恐ろしいですね……。そんなドラゴン聞いたことがありません。私は、こんな恐ろしいドラゴンを敵に回していたということですか?」
『絶望するなら絶望せよ。その絶望すらも我の糧となるのだからな』
そう話している間にも空気中に漂う闇の精霊ウィル=オー=ウィスプのように空気を流れる闇のオーラや負の霧が切断された翼へと集まり、元あった形へと収束していく。
「ノベプラ」の方でブックマークが一件増えました!ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
最近アニメ「シュタインズ・ゲート」を観始めたのですが、作品の舞台が秋葉原というのもあって、電気街口・今年閉店したとらのあな秋葉原店・柳森神社・飲食店「サンボ」・世界のラジオ会館・万世橋・秋葉原UDXなど、いろいろな場所が登場するので懐かしい気分になりました。
「シュタインズ・ゲート」シリーズそのものに初めて触れたのは10年くらい前に読んだライトノベルで、初めて秋葉原に行った時はインターネットでいろいろな場所を調べて聖地巡礼をしました。作中の未来ガジェット研究所がある「小桧山ビル」の場所をコンビニで聞いたら首を傾げられたのを今でも覚えています。
あれから10年。
旅行していたのが夏コミのシーズンとちょうど被っていたにもかかわらず、多くの観光客がひしめき合っていた秋葉原も、新型コロナの流行が影響して観光客が激減。いろいろな店が閉店し、空きテナントだらけになってしまったという情報を聞きました。
早くコロナが収束して、あの時の活気と熱気に満ち溢れた秋葉原に戻ってほしいです。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!
……最後に秋葉原に行ったのは約3.5年前。あの時もう少し楽しんで来ればよかったかも。まさか、コロナのせいでこんなことになるとは思いませんでした。




