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第47話:新たな形の終末

『ぐううっ!!』


 聖剣と謳われる剣なだけある。

 その一振りで左翼が根元からばっさりと両断され、無数の虫や蛇を噴出させながら地面へと落ちていく。


 勿論、翼を使って飛んでいたアジ=ダハーカとて他人事ではない。遅れるようにしてバランスを失うと、左半身を下に向けながら地面へと墜落する。


「おいっ!しっかりしやがれトカゲ野郎」

「動くんじゃねぇぞ?」


 鋭く射止めるような声を聴いて首だけを動かすと、羽根飾りの付いた帽子にチロルジャケット・丈の短いスカートを履いた弓矢使い(アーチャー)が矢を(つが)えたままこちらを見ていた。


「敵陣の真ん中にいるということを忘れるなよおっさん。あのドラゴンを助けに行ったら、あんたの頭を撃ち抜いちまうぜ?」

「くっ!」


 結果的に勇者に助けられ、敵陣の先頭で立ち往生していた状態だ。そんな状態で背中を向けて黒い龍の所へ向かおうとしたらどうなるかなど容易に想像できる。


「さて、このまま勝負を終わらせようか」


 地面へと落下した衝撃で土煙が立ち込める中、太陽のように煌然(こうぜん)と輝く聖剣を握りながら英雄は歩く。


「この刀身には悪しきモノを滅する力があるからね。傷口には尋常ではない痛みが走っているんじゃないかな?」


 こんな時、首が三つもあるのは幸か不幸か。

 何故なら、感じる恐怖も三倍になってしまうのだから。


「止めろ――」


 ペルシアで大英雄と呼ばれていたのが不甲斐ないくらいだ。


「止めろおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっ!!!!!!」


 ありったけの力を込めて腹から叫ぶ。

 と、


「おいおい。オレ様を差し置いてこんなに面白そうなことをするなんて、てめぇら覚悟はできてるんだろうな?」


 あるいは、金色の髪を持つ青年が羽織ったマントを靡かせながら。


「えっ?!トールくんの本領発揮が間近で観られるってこと?!嬉しいな!!」


 あるいは、全身を黒い衣装で包んだ男が何処かお道化たように嬉々としながら。


「なかなか帰ってくるのが遅いと思ったら苦戦していたということか。ならば、この軍神テュールが加われば勝利は間違いないですな!」


 あるいは、薄汚れたトーガを着た隻腕の男が左肩の調子を確かめながら。


「……こんなに大きな戦いになるのだったら遠慮なく呼んで欲しかった。……吾輩は武勲が欲しいのでな」


 あるいは、鎧に覆われて表情が窺い知れない男が不満を漏らしながら。


「これは面白い。僕もギャラルホルンの吹き甲斐があるね」


 あるいは、白い衣装に身を包んだ長身の男が角笛の調子を確かめながら。


『誰かと思えばオーディンよりも小物ではないか?一撃で嚙み砕いてくれよう!』


 あるいは、賢狼とも言われる銀色の毛並みを持つ狼が赤い瞳を怒りで爛々と輝かせながら。


『ならば我は絞め殺してやろう。どちらが多く倒せるか賭けてみるか?兄者よ?』


 あるいは、本来は地球を丸ごと絞めて破砕できてしまうほどの図体を持った毒蛇が先の割れた下を覗かせながら。


「こんなに遠慮なく暴れられるのは久しぶりだな。仕事から解放されたストレスを発散させてもらうか」


 あるいは、がさつな筋骨隆々の成人男性の姿になったベヒモスが頭をぽりぽりと掻きながら。


「あんまり派手に暴れてはいけませんよ。死亡者数に狂いが出ると天界に怒られてしまいますからね」


 あるいは、容姿端麗な女性の姿になったレヴィアタンが美しく長い髪を揺らしながら。


「ひゅー!かわいい女の子がいるじゃないか!ねえ、あの娘もらってもいいかな?!」


 あるいは、軟派な若い男性の姿になったジズが鼻の下をだらしなく伸ばしながら。


「ケェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」


 あるいは、上半身は猛禽類・下半身は獅子の姿をしたモンスターが自身の威厳を誇示しながら。


 集結する。

 見た目も種族も、そして出自とする宗教すらも違う11体の()()たちが戦場へと集結する。


「……尋常じゃねぇぞこいつら。一人一人が魔王に匹敵するかそれ以上じゃねぇか」

「そんなことは言われなくても分かっている」


 矢を番えたまま後ろで呟くトルーニを少し鬱陶しく思いつつも、新たな刺客が現れた以上はそちらを見ざるを得ない。聖剣を構えたまま雷を纏う男に目線を移す。


「ご機嫌よう。オレ様の仲間に随分と手荒な真似をしてくれたようだな?」

「……貴様も【テイム】で飼われているモンスターか?」

「あ゛?オレ様は歴とした神だ!冷血なてめえらとは違ってエリカの言葉に心を動かされた、血の通った崇高な神様だよ!!」

「神だと……?」

「ああそうさ。てめえらが知りもしない宗教のな!」


 バチバチッ!!!


 トールを包む電気が空気を焼き、その輝きを増す。


「じゃ、そういうことで、勇者様たちにはちょーーっと痛い目に合ってもらおうか!大丈夫、すぐ終わるから安心しろ!!」

「勇者であるこのおれを倒すとは、よく言ったものだ。その勇姿を子々孫々に語り継ぐがいい」

「ねえトール君。折角だからギャラルホルンを鳴らしてもいいかな?この方が恰好が付くでしょ?」

「おっ!(とき)としては十分だな?……おいみんな」


 正面の勇者を睨んだままトールは言葉を続ける。


「こいつらをぶっ倒すぞ!!いいか?くれぐれも殺すなよ?!」


「天界の荒くれ者」と謳われた軍神が「殺すな」と命じるとは、自分も随分と変わったものだ。


「……それじゃあいくぜ!!」


 群の先頭に立って白装束の貴族が角笛を咥えると、腹の底まで響き渡るような低く、そしてよく届く音色を吹き鳴らした。


 ゾロアスター教と北欧神話と十字教。そして、西洋では紀元前から紋章として使用されていた無宗派のモンスター。

 絶対に交わることのない三つの宗教に登場する神とモンスターが結託し、全く新たな形のラグナロクが開幕する。


 世界を終わらせるためではなく、世界に平和を(もたら)すために。

 いや、相容れない思想を持つ勇者を駆逐し、一人の女性が思い描く世界の実現を目指すために。

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