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第46話:世界創成の序章

『厄介だな』


 誰にも聞き取れないくらいに小さな声で右の頭が呟く。


 天気は雨。

 しかもただの雨ではなく、【女神の祝福】によって回復効果が付与された雨だ。この雨が降り続ける限りは『煌々(こうこう)たる裁きの剣』の四人は永久に体力と魔力を回復し続けることができるため、短期決戦か天候を打ち消す必要がある。どちらの方が難易度が低いかと言えば、言わずもがな後者だ。


(よこしま)な力によって歪められた自然の力を――』


 フィールド効果をリセットする『クリアフィールド』を唱えるべく魔法を詠唱すると、


「させるわけがないだろう?」


『ワープ』による綿密な座標移動によって聖剣を握ったレオルスが死角に出現。避けることに集中せざるを得なくなるため詠唱を中断させる。


『卑怯な手を使うのだな?』

「卑怯?パーティがダメージを受けないようにDD(ダメージディーラー)の詠唱を中断させるのは基本中の基本だろうが?そのためにサブディーラーのトルーニがいるというのに、その射程まで逃れて悠々と飛んでいる君の方が、よっぽど卑怯だとおれは思うけどな」


 目下(もっか)にいる羽根飾りの少女を見ると、弦に矢を(つが)えてはいるものの、アジ=ダハーカが射程外にいるというのは理解しているようだ。目元に涙を浮かべながら呑気に欠伸(あくび)をしている。


『自分たちが優位に立つためにフィールドをリセットする魔法を唱えさせないことが卑怯ではない、と』

「作戦と言ってくれよ?ウォーターリーパーがゴブリンと戦うためにわざわざ地上に這い出るか?違うだろう?口から水を噴射して目を潰し、水の中に落ちたところを仕留めるじゃないか?自分が不利になるようなことをする、させる必要なんて何処にもないのさ」


 伊達にも勇者を名乗っていない。

 百戦錬磨の猛者だけが纏うことを許される覇気を含んだオーラが四人から立ち昇った気がした。


「さてどうするドラゴンさんよ?こうして呑気に話している間にも、おれとお前の体力の差は離れていくんだぜ?決定打を与えたいのならお空を飛んでないで降りて来いよ」


 無論、こんな安っぽい挑発になど乗らない。

 空を飛びながら攻撃の機会を窺っていると、


「(おいトカゲ野郎、聞こえるか)」


 地上にいるガルシャが勇者一行を睨んだままカミサマパワーを使ってテレパシーで話し掛けてくる。


「(仕方がねぇからオレがガキの気を引き付けてやる。てめえはデカい魔法を一発ぶち込みやがれ)」

『相手は勇者を名乗る地上最強の剣士だぞ?貴様に持ち堪えられるのか?』

「(オレを誰だと思っていやがる?)」


 カミサマパワーに対して声で返したアジ=ダハーカの方を一度だけ振り向くと、


「オレの名前はガルシャースプ。ペルシアでは知らないやつはいないくらいの大英雄だぜ?」


 戦棍(メイス)を構えながら疾駆した。


 狙いは勇者。

 少しでも多く時間を稼ぎ、悪龍が放つ必殺の一撃に身を委ねるために。


『ふんっ!あいつに助けられるのは癪だが仕方がない!ならば、この世界を消し去るほどの一撃を下賤な人間共に放ってやろうではないか!!』


 剣と戦棍(メイス)が何度も打ち合う音を聞きながら、アジ=ダハーカは魔法の準備に入る。


『神界より(たま)いし太初の精力よ。物質の形を奪取せよ!』


 元来、それぞれの属性の魔法は対応するスキルを持たなければ使えないのだが、アジ=ダハーカのような神獣たちは、この世界の生態系から逸脱しているからか、将又、神に近しい存在だからか、準備魔法さえ唱えれば、その属性の魔法は使えるようだ。火属性の準備魔法を唱えると、身体の周りを赤い精霊サラマンダーが舞う。


『決して掴むことを能わない万化の趨勢(すうせい)よ。その形を定めて牙を剥け!』

『万物を生みし母の(たい)よ。新たなる生を芽吹かせよ!』


 そして、アジ=ダハーカが持つ頭の数は三つ。属性の数は全てで六つであるため、一つの頭が二種類の準備魔法を唱えれば全ての魔法が使えるようになる。水属性と土属性の準備魔法を唱えたため、サラマンダーに加えてウンディーネとノームも舞い、周囲はお祭り騒ぎのような様相を呈す。


(あまね)く世界に満ちる見えない力よ。我に力を貸せ!』

煌然(こうぜん)と佇む神域の天秤よ。我に正誤善悪を示せ!」

「生死を隔てる(くろがね)の監獄よ。その門扉を開放せよ!」


 最後に風属性・光属性・闇属性の準備魔法の詠唱が終了。シルフ・アロアの(ともしび)・ウィル・オー・ウィスプも集合し、全ての属性の精霊たちが黒い龍の周りに集結する。


 これで全ての属性の魔法が使えるようになった。

 1,000種類を超える魔法の研究を行っていた男の本領発揮である。


『神が創造せしあらゆるモノを消し去り、新たな世界を創造せよ!ニューワールド=イントロダクション!』


『モノクローム=アンドゥレーション』という魔法がある。

 光属性と闇属性を合わせた魔法で、全ての物体を正の最低値と負の最高値の中心点であるゼロへと圧縮させることで、対象を消滅させる魔法だ。ヴィーザルと戦った時に放った光と闇のブレスがこれに近い。


 三つの口から放たれる『ニューワールド=イントロダクション』は、それよりも遥か上を行く威力の魔法だ。

 火・水・土・風・光・闇の六つの属性の魔法を均等の威力で混ぜ合わせて一本の極太の光線へと変換し、対象へと射出する。


 その威力は『モノクローム=アンドゥレーション』とは比べ物にならず、この世界に存在するあらゆる創造物を破壊し、消し去る。


 神々が(けが)れた世界を大洪水で沈めて新たな世界を創り出す(いしずえ)とするように。

 神々と巨人族による大戦争を勃発させて、巨人が放つ炎で一面を焼け野原にするように。


 新しい世界を創造するための序章(イントロダクション)とも言える滅亡の光が勇者一行に向けて天空から一直線に伸びる。


「うおおっ!!」

「ちょっ!ちょまっ!おっ!ええっ!!オレも巻き込む気かあ!!」


 ……何やら口うるさい英雄の叫びも聞こえた気がしたが、これくらいの威力を持つ魔法を使わない限り、あの化け物とも言える四人を倒せるとは思えない。女児向けアニメの戦闘シーンにでも出てきそうな見た目をした虹色の光線だが、その実全てを消し去る滅亡の光が空から斜めに差し込み、勇者たちを容赦なく飲み込む。


『ふう…………。ふう…………』


 思えば、世界の平和を守るために世界を破滅させる力を持った魔法を使うとは、何とも皮肉なものだ。光線が直撃したことによって、その余波で半円状になったシャボン玉のような見た目をした、極彩色の薄膜を見てみると、


「たいそうな魔法を使ってきたものだね…………。魔王軍の中で最も魔法に長けていた魔術王カロルでも、ここまでの威力の魔法は使ってこなかったよ」

『っ?!!』


 空からの光を跳ね返して極彩色に輝く薄膜の中。

 首筋に汗を浮かべながら、勇者は手袋に包まれた両手を構えて立っていた。


「初めて見る魔法だけど、『モノクローム=アンドゥレーション』のように複数の属性の魔法を過不足なく合わせることで威力を発揮する魔法なんだろう?だったら突破するのは簡単なことさ」


 勇者の右手の周囲にはアロアの灯・左手の周囲にはシルフ、そして、耳の尖った聖職者の周囲にはウンディーネが漂う。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『煌々たる裁きの剣』には、LS(レジェンドエス)ランクの光・風・水属性の魔法スキルを持つモノがいるんだからね。これぐらいの芸当はできてしまうのさ」


 勇者が添えていた手を離すと、シャボン玉が弾けるようにドーム状の薄膜が割れて消える。


『そんな……、ことが…………っ!!』

「他のドラゴンよりも格段に魔法について詳しいみたいだけど、ここまでの魔法を使ってきたということは、そろそろ打つ手がないと解釈してもいいのかな?」


 雨はまだ降り続いている。

 どれだけ威力の高い魔法を使おうが、少し時間が経つだけですぐに魔力は回復してしまう。


「これで分かったでしょ?おれたちには勝てないってことがさ」


 言葉を言い終わると同時に勇者の姿が一瞬にして消える。


 何処に『ワープ』したというのだ。

 死角ができないように三つの首で周囲を見渡した直後。


『ぐああっ!!』


 左翼から肉が裂けるような音と激痛。

 首を向けた時には聖剣は振り下ろされており、割けた翼の根元から鮮血の代わりに黒い蛇や虫が噴き出していた。

 本作品は「ノベプラ」にて現在選考中の「HJ文庫・HJノベルス編集部 PICK UPテーマ長編コンテスト」の「異世界×女主人公×動物ファンタジー」部門に絶賛エントリー中の作品なのですが、今年の11月中旬頃に選考結果が出るようです。


 選考に落ちるとモチベーションがダダ下がりして書けなくなってしまうので、11月中旬頃には何とか着地させて完結させようと思っていますので、どうかそこまでお付き合いのほどをよろしくお願いします。

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