第43話:『オウサロ洞窟スライム殲滅作戦』
「飽きた」
ロマリアは通行費が高いということで、通行費が安い代わりに依頼の数が少ないガオバーロのギルド案内所にて『オウサロ洞窟スライム殲滅作戦』(Aランク)を獲得。ギルド案内所が用意した転移魔方陣で到達したオウサロ洞窟を歩いている時にルナティが放った一言である。
別に依頼に行ってモンスターを【テイム】することや、動物園経営云々の日々に飽きたわけではない。
「え゛っ?!もう飽きたんですか?!!それを着てからの初依頼ですよ?!!」
「だって、この恰好はあまりにも聖職者っぽすぎるでしょ。ルナティちゃん、もっとかわいい衣装がいいなあ」
『月虹装備』に飽きたのだ。
足先まで伸びた紺色のローブを揺らす。
「そういえば、ルナティさんはお洒落にこだわっていましたよね?服もシルク製の男性用上衣をピンク色に染めたものを着ていましたし」
「強い装備を身に着けたってかわいくなくちゃ意味ないでしょ?やっぱりかわいさ最優先だよ!!」
「うーん。そうかな?」
虎模様のさらしに腰巻きという、パーティの中でもファッションセンスが絶望的な少女が異論を唱える。
「ボクはやっぱり実用性がある装備が一番好きかな。どんなに格好いい鎧や服でも、そこに実用性が伴わなければ意味がないよ」
「えーっ!タイちゃん折角かわいい顔しているのに、着飾らないなんて勿体ないよう!ルナティちゃんが持っている服を何着か貸してあげよう!」
「君とボクとでは体格の差がありすぎるからね。もらったところでサイズが合わないよ」
じーっと細められた視線が向かう先は大きな二つの膨らみを有した上半身。思わず自身の胸元に手を宛ててしまう。
「服装ですか。考えたことがありませんでしたね」
カミサマパワーでも宿っているのか、毎日着ているはずなのにほとんど汚れていない純白のトーガに身を包んだ、タイガと同じくらいファッションに無頓着な少女が関心を示す。
「神様って基本的に服装に関する記載とかが神話にされていませんし、服装云々で神様同士で喧嘩になった、なんていう事例もわたしが知る限りでは起こっていませんしねえ。服装について記載がある神様なんて、ルーくらいじゃないでしょうか?」
ルーとはケルト神話に登場する太陽神の名前だ。
どんなものでも貫くことができる槍・ブリューナクを所持し、「クアルンゲの牛捕り」(アルスター神話群を構成する逸話の一つ)では、白銀のブローチが付いたマント・白い肌・純金に赤い刺繍が施された膝まで届く絹のチュニック・白黄銅の硬い丸鋲突起のある黒い盾を装着した姿だとされている。
「だったらどう?この機会に服装にこだわってみる気はない?ルナティちゃんと一緒にかわいい服を着ようよ!!」
「それも面白そうですが、天界にいる時からずっと着ているこのトーガには思い入れがありましてね。できることなら着続けていたいんですよ」
「そんなこと言って、実は一張羅だからだよね?」
「それも理由としては大きいですね!」
「ありえないっ!ファッション第一のルナティちゃんにはありえないよ!!」
頭を抱えてうんうんと唸ると、ずびし、とファッション意識ゼロの三人組へと向ける。
「この依頼が終わったら四人で服を買いに出掛けるよ!ルナティちゃんが貯め込んだお金を散財してやるのだあ!!」
「そんなっ!申し訳ないよ」
「心配しないでエリポン!単騎で活動していた時に集めていたお金がたくさんあって、ちょうど使い道に困っていたんだ!それに、」
マイクスタンドを構えながら闇が広がる洞窟の向こう側を見る。
「命短し恋せよ乙女。女の子が女の子でいられる時間は短いんだから、かわいい服が似合う間にかわいい服を着ないと勿体ないよ!ファッションを楽しまなくちゃ!!」
べちょっ!
粘質で質量を持った何かが落ちる音が洞窟を木霊した。
この先は水晶が氷柱のように生える大きな空間だ。そして、そこには10匹程度のスライムが群生しているという。
「さあ行くよ!さっさと終わらせて服を買いに行くんだから!!」
獣人の少女が空間に言葉を反響させた直後、どろどろとした見た目をしたスライムが出現した。
☆★☆★☆
「珍しいな。お前がこっちに来るなんて」
『「ついにオレの料理を認めたか」なんて勘違いはするなよ?』
「ちっ。違ぇのかよ。違ったとしてもそうやっておべっかを使っておけば、もっとかわいげがあるもんだがな」
『我は善悪二元論における完全なる悪だぞ?悪性の権化とも言える我に、そんな態度を取れというのが無理な願いよ』
絵理華たちが移動して少しの時間が経った後、動物園の宮殿に引き籠って出てこないザッハークが珍しく『アルミラージの集会所』に顔を出した。
「だったら何をしに来たんだよ?長居するだけってんなら邪魔だから帰ってくれねぇかな?」
『なんだ、貴様はまだ気を感じぬのか。ペルシアの大英雄を聞き及んでいたのに残念なものだな。……ところで、トール・ロキ・ヘイムダルは何処に行った?』
「トールとロキは素性は分かんねぇが出稼ぎに、ヘイムダルはシュナウトの所に向かわせて、仕入れる品数を増やすように交渉しに行ってもらってるよ」
『出払っていていないというわけか。だとしたら少々危険かもな』
「あん?さっきから何の話を――」
言い掛けてガルシャは気づく。
一人は圧倒的な光のオーラを持つ人間。
一人は大地の力をその身に蓄えた人間。
一人は負と闇のオーラに包まれた龍人。
一人は赦しと調和に満ち溢れたエルフ。
違う魂の色を持った四つの存在が、少しずつこちらへと向かってくる。
「……なるほどな。お前はこいつらの気を感じ取っていたわけか。確かに、こいつは危ないかもしれねぇな」
『殺れそうか?』
「血生臭いのは家畜の屠殺だけにしてほしいもんだな。どうしてオレよりも早く感じ取れた?」
『単純なことだ』
鷹揚と構えながら扉の方を見る。
『彼奴らから闇のオーラを感じる。恨みや復讐に取り憑かれた、どす黒いものをな』




