第42話:『月虹装備』お披露目会
「どう思う?」
「様子を見てないから分からないが、魔王軍の生き残りという可能性は低いんじゃないかな?」
ゴロド王国の集落の一つ・パゴ村。
ドリード村に匹敵するくらいの豊富な自然と田園風景を持つ村に建てられた一軒家の一室に、かつて魔王を弑逆した『勇者』と呼ばれるメンバーが集結する。
「だって四天王の面々を思い出してみろよ。無骨な剣士にアンデッド・半人半蛇の女・図体のオーガだぜ?仮にそいつらに番や子孫がいるなんて考えにくいだろ?」
「先入観で物事を考えてはいけませんよ?エルフである私だって、神官として皆さんのお役に立っているんですからね」
「済まなかったな。ちょっと言い過ぎたよ……」
羽根飾りのついた帽子を被った少女が閉口する。
弓矢使いトルーニ。
狙った獲物を逃がさない必中の射手であり、勇者一行の中では敵の妨害と補助を担当するサブディーラーだ。
男勝りな口調で享楽的な性格である反面、思ったことをついつい口にしてしまうので、何かと失言が多い。
「だが、魔王軍に関係がないというのであれば、一体誰がこのようなことを?」
重そうな鎧を着込んだ騎士が思料に耽る。
騎士ラウン。
その誠実さと生真面目な態度が評価され、ゴロド王国の王城警備兵の隊長をしていた男だ。
「それに、モンスターや動物を集めているにもかかわらず、行動に移そうとしないのも分かりません」
背の高い女性がラウンに相槌を打つ。
神官リル。
調和と統率を何よりも大切とするエルフの世界から単身で抜け出し、神の道へとその身を捧げる神官である。
「いずれにしても、これだけは言えることだろう?」
その一言で一同の視線を一斉に集めたのが、魔王を斃して世界に平和を齎した男であり、パーティのリーダー・勇者レオルスだ。
弱きを助け強きを挫き、誰よりも世界の平和を渇望している人間である。
何故なら。
「理由はどうであれ、モンスターを統率しているようなやつが、何も企んでいないわけがない。その芽が大きくなる前に摘み取ってやる!!」
幼少期に魔王軍が率いる軍勢に両親を殺されており、モンスターたちに対して深い憎しみの感情を抱いているからである。
「早速ドリード村に向かうぞ!準備を整えておけ!」
勇者が扉を開けて外へと出ると、他の三人も追従するかのように後に続く。
ギルド『煌々たる裁きの剣』。
ゴロド王国のパゴ村を出身とするレオルスが率いるパーティで、魔王ロザスを討滅したことにより一躍有名になったギルドである。
☆★☆★☆
『旧約聖書』の三匹の神獣のいざこざがあったその日の朝。
モンスターたちの餌やりをし終わったと思った矢先、ルナティが足早に部屋へと消えた。
「あのルナティさんが朝食を摂らないなんて珍しいですね」
いつも朝の餌やりを終えてから全員で朝食を摂ることになっているため、机を囲んで三人で食事中。お椀に入った人参スープが寂しそうに湯気を立てる。
「帰ってくるなりドカドカと階段を踏みながら部屋に行ったみたいだぜ?他の客もいるんだから、もうちょっと配慮しろよな」
宿泊者の名簿が記載された台帳を見ながらガルシャが文句を言う。
交通アクセス的に俗世間から隔離されているため、意外にも吟遊詩人や隠居生活を考えている高齢者には人気らしく、一日2~3部屋程度ではあるが宿泊客が泊まることがあるのだという。
「何だろうね?五度の飯より大事なことって?この前みたいに失禁しそうとか?」
「もしそうだとしたら、後悔するのは同じ部屋に泊まってる嬢ちゃんたちだぞ……?」
こちらの世界に来て最初は慣れなかったが、中世における一般庶民の食事は、朝起きて教会でお祈りを終えて帰ってきてから食べる6時頃の朝食・労働の休憩として食べる9時頃と15時頃の二回の軽食・12時頃に摂る昼食・18時頃に摂る夕食の計五回で、およそ三時間ごとに食事を摂る。恐らくだが、3時間ごとになる鐘の音を時報とし、それを合図として食事を摂っていたのだろう。
「用を足すのであれば外に向かうだろう?部屋ではしないと思うけど」
ようやく目が覚めてきたタイガが鳥の香草焼きを齧りながら答える。
「すぐ戻ってくるんじゃないですかね?……ほら、来ましたよ」
階下からでも聞こえるドゴンッ、という扉を閉める音。
そして、ドコドコドコドコ!!と板を踏み鳴らしながら走って階段を下りる音が聞こえる。
「だーっ!!うるさいっつってんだ、ろ……?」
ガルシャが思わず疑問形になってしまったのには一体どのような意図があるのだろうか?
階段の前に現れたルナティに視線が集まる。
「じゃじゃーん!!どう?これ??ルナティちゃんのかわいさに虜になっちゃった??!」
かわいらしくウインクをすると、紺色のケープに包まれた大きめの胸を強調するように前屈みになる。
「とても似合っていますね!ロマリアに出た時に購入したんですか?」
「ヤダな~。忘れちゃったの?『月虹装備』だよ『月虹装備』!!『ロマリア市街ウェアタイガー抹殺作戦』の報酬で手に入れた『月虹装備の欠片』を使って、こっそり【鍛冶屋】スキルで生成してもらったんだよ~ん☆。ひらひら」
紺色の裾の長いローブを掴んで上下に緩やかに揺らすと、その隙間から白くて美しい脚が覗く。
「これでルナティちゃんの回復力は爆上がり!これからももっとみんなのことを癒してあげるから、期待していいんだぞっ☆」
「戦力アップですね!ところで、OPはどうだったんですか?」
「……状態異常耐性が2つと、攻撃速度上昇・クリティカルダメージ量アップ。OPのことはあまり気にしないでネ」
この世界では味方に回復魔法を掛けた時にもクリティカルの判定が発生するため、回復量を上げるには、魔法攻撃力を上げるかクリティカル確率を100%に近づけた状態でクリティカルダメージ量を上げなければならない。と、なると、四つ中三つが無駄OPと言ったところか。
「まあでも、LSランクの冒険者しか装備することを許されないような珍しい装備ですからね!OPは弱くても強い装備であることには変わりませんよ!」
「ありがとうセレセレ……っ。女神のような優しさだねっ!」
「本当は女神だったんですけどね!」
「さあて、今日も頑張るとするか!店を開けるから嬢ちゃんたちは依頼にでも行ってきな」
ガルシャの一言で食事を摂っていた絵理華たちや北欧神話の神様たちが移動。今日も『アルミラージの集会所』の営業が始まる。




