第38話:回避タンク
タンクの最も重要な役割とは、その圧倒的なHPと防御力によって相手の攻撃を受け止め続け、中衛・後衛に相手の攻撃が及ばないようにすることなのだが、そのタンクの中でも回避タンクという特殊な役割があるのを知っているだろうか。
そのままの通り回避するタンク。
その身一つで敵陣に潜り込み、相手の攻撃を回避し続ける的になることで味方に攻撃がいかないようにする、言ってしまえば囮のようなポジションだ。
HPと防御力を武器に相手の攻撃を受け止めるタンクとは違い、相手の攻撃を的確に回避する瞬発力や機動性・運動能力が必要になってくることから暗殺者が担当することが多いが、瞬発力・機動性・運動能力に優れた暗殺者がパーティにいるのであれば、DDやサブディーラーを任せた方がDPSが稼げるため、回避タンクをわざわざ設置するギルドは皆無に等しい。
「随分面白いことを言うんだな?」
全身をボロ布ですっぽり覆い、右手には三叉槍を持っていること以外は別段変わった外見をしていない小柄な少女を、Sランクの冒険者二人は見下ろす。
「さっきの言葉の意味を分かって言っているのか?」
「うん」
琥珀色の瞳を持つかわいらしい顔を静かに傾けると、その動きに合わせて短い茶色の髪が揺れる。
「君たち相手にボクが回避タンクをやるよ。虎の姿に変身しないでね」
「くくっ」
先述の通り、回避タンクとは敵陣で敵の攻撃を躱し続けるポジションだ。
Sランクの冒険者三人|(タンク・サブディーラー・DD)の攻撃を回避し続け、駆け回るのだという。
しかも、ウェアタイガーとしての力を使わずに。
「ははははははははは!!!笑わせてくれるな!!」
最前衛に立つ騎士が歯を剥き出しながら下品に笑う。
「見栄を張るにしても、できないことは言うもんじゃないぜ?後で後悔するからな!」
「できるから言っているんだよ?後悔なんてしない」
「……舐めた口を利く小娘だな。ならば見せてもらおうじゃないか。その実力とやらを」
「おれたちを見縊ったことを死んでから悔やむんだな!!」
熱り立った騎士と暗殺者が同時に武器を構える。
「は、初めて逢った君に言うのもアレだけど、そんなに相手を挑発しちゃっても大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ。それに、」
その小さな背中を向けながら一度だけ呟くと、
「エリカと会うのは初めてじゃないよ?」
何も履いていない足をバネのように跳ねて疾駆。
前衛の脇をすり抜けて一瞬で魔法使いまで到達する。
「んっ!!」
目的は魔法の詠唱を妨害することだと分かっていながらも、穂先の尖った三叉槍を防ぐべく杖を横向きに構える。
「このっ!!」
詠唱が終わったアイス=ミサイルが空中に浮かんでいたので標準を人虎の少女に合わせ、隙を見て発射する。
が、一方の少女は巧みな足捌きで身を翻すと、魔弾は明後日の方角へと飛んでいった。
「ミガルっ!!」
DDの集中が乱されてDPSが出せなくなった以上、タンクが攻撃を引き付けて前線を押し戻さなくてはいけない。
二人で魔法使いのもとへと駆けると3VS1を持ちかけようとする。
「……何だか分からないけどチャンスです絵理華さん!」
三人分の攻撃を見事に躱している少女を見ながら、セレンは口を開く。
「折角なら、超威力の魔法を使って相手を一掃しちゃいましょう」
「と言っても、魔法には詳しくないから何を使えば分からないし、そんなに強い魔法を使ったらあの娘を巻き込んじゃわない?」
「あれを見てください」
孤軍奮闘する少女を見る。
騎士の大剣を三叉槍で受け止めたと思ったら、死角から迫る暗殺者の刃を身を振って回避。そして、魔法の詠唱が終わりそうなタイミングを見計らって脚や拳を使った細かい攻撃を加えることで魔法使いの詠唱を上手く乱している。
「あの身軽さなら絵理華さんが魔法を撃っても避けられると思います。あの娘が避けてくれると信じて一撃で決着が着くような極大魔法を撃ってしまいましょう!!」
「はいはーい!なら手っ取り早く『メテオシャワー=ストライク』なんて如何でしょう?」
被弾が消えて一安心したルナティも近寄ってくる。
「火・土・光の三つの属性を合わせる魔法だよっ!ルナティちゃんが火属性を担当するから、エリポンには光属性と土属性を担当してもらってもいいかな?」
……魔法の知識ももう少し教えてもらわなければいけないようだ。動物園設営の時ぶりに使った土属性の準備魔法を唱える。これで、元から使える光属性と、今使えるようになった土属性、ルナティの火属性で三属性の魔法の準備ができたことになる。
「ルナティちゃんと声を合わせて言ってね☆。天空より顕現し、悪しきものたちを滅ぼす預言とせよ!メテオシャワー=ストライク!」
「分かった」
何とか言葉は覚えた。
一度だけ深呼吸し、何だかわちゃわちゃしている四人と、どうすればいいか最後衛でおろおろしている神官に標準を合わせる。
そして、
「「天空より顕現し、悪しきものたちを滅ぼす預言とせよ!メテオシャワー=ストライク!」」
転生者と獣人。
二つの異なる人生を歩んできた異なる種族の発する声が重なる。
一方で。
「くうっ!このっ!!」
「何故当たらん?!」
「言ったでしょ?君たちの攻撃なら容易に躱せるって」
袈裟状に振り下ろされた大剣を身体を逸らして躱し、突き出されたナイフを三叉槍で受け止め、魔法を唱えようとするミガルに一撃を加えてヒットアンドアウェイ。常に一定の距離を保ち、自分にとって不利な射程に敵が入らないようにする。
「ならば、これでどうだ!」
ゾーゴンが大剣を地面に一突き。
直後、一方向を塞ぐようにして岩の壁が出現した。
「おれのスキルは【大地の剣技】。岩塊を自由に操ることができるのだ!」
退路を塞ぐように背後に突き出た岩の塊。
四人を覆い隠すように高く聳えたそれは、壁と表現した方が正しいかもしれない。
「ぐっ!これじゃあ逃げ場がない?!」
「ふふふ。覚悟しろ」
ようやく動物を追い詰めたかのように、武器を持ってじりじりと距離を詰めてくる。
「あぁあぁあ!!このままでは終わりだ!」
「ようやく観念したようだな!」
へなへなと姿勢を低くする少女を見て戦意喪失したと思ったのか、その細い首を斬り落とす軌道に大剣を構える。
「そのまま大人しくしていろ。すぐに終わるからな」
「……君たちがね」
しかし、んべ、と舌を出すと三叉槍を捨てて虎のように四つ足で疾走。三人の足元を潜り抜けていく。
「あっ!待てこら!!」
即座に岩塊を削除。逃げた少女を追いかけようとすると、
「…………は?」
すぐ目の前に隕石が出現。
ごしゃっ!!という痛々しい音と共にゾーゴンが空中へと吹き飛ばされて宙を舞い、背中から石畳の上に叩きつけられる。
「これはっ!?」
「メテオシャワー=ストライク?!あたしたちが小娘に気を取られているうちに詠唱が終わったんだわ!!」
こちらに向かって容赦なく流星群が降り注ぎ、ロマリアの綺麗な街並みにクレーターを穿つ。突然の流星雨に人垣を作っていた見物客は叫び声を挙げながら逃げていった。
「どっ!どうすんだよこれ?!」
「防ぐ手段も対抗する手段もないわよ!」
「じゃあ、避けるしか――」
ごっ!!
側頭部に拳くらいの大きさの流星がヒット。脳を揺さぶられたセロイがその場に倒れる。
「エルキン!回復をっ!!」
「って、言っても、お二方みたいに直撃したら即死級のダメージを受けてしまいます!ミガルさんに掛け続けたってあんまり意味がないですよお!!」
わたわたと避けるので精一杯のようだ。隕石が降り注ぐ轟音に搔き消されて声もあまり聞こえない。
「……ねぇセレン?」
「言いたいことは分かっています」
一応パーティバトルをしている範囲だけに留めておいたものの、思いの外有効範囲が広かったようだ。LSランクの冒険者二人分の破壊力を持った魔法は近くの建物を薙ぎ倒し、隕石の着地した衝撃で石畳を吹き飛ばし、巨人が力一杯殴ったかのような穴を大通りにいくつも出現させる。
「ル……、ルナティちゃんは知らないぞっ!今回の魔法はエリポンと協力して使ったから、拡声杖メロディアは関係ないんだからねっ!!」
さて、これを弁償しようとすると、一体どれだけの費用が掛かるのだろうか。
三人で顔を真っ青にしながら流星群が止むのを待つしかなかった。
『荒涼』
その言葉には「景色などが荒れ果てて物寂しい」という意味の他に、「注意を欠くこと」や「うっかりすること」、「自分の力量に合わない大口を叩くこと」という意味もある。
……ゾーゴンやセロイがそれらの意味を知っていてギルドの名前にしているか否かは定かではないが。
「なろう」にてブックマークが3件、評価が1件増えました!!ブックマーク&評価していただいた方ありがとうございます!!10件というのは藤井の作品史上最多のブックマーク数です!三年間の努力が報われたような気がします!!
さて、折角の機会ですので近況報告。
現在第54話を鋭意執筆中なので、9月中も毎日新作投稿ができそうでございます!
――スプラトゥーンにハマりすぎなければ!
とにかく続きをご期待くださいまし!!




