第37話:不均衡なPvP
そうだ。【マジックマスター】があるのだから、魔法を使ってゴリ押してしまえばいいのだ。
『スペシファイ』魔法を使う都合上、光属性の準備魔法は唱え終わっているため、光属性の魔法であれば即時詠唱可能である。
「対象を迎撃せよ!フラッシュ――」
初歩的な魔法であるミサイル系魔法を唱えるべく詠唱をしようとするが、
「そうはさせない」
「っ!!」
目の前に黒いローブの暗殺者が出現。詠唱に集中できなくなったため、タンクに向かって飛ばすために準備していたフラッシュ=ミサイルが霧散、消滅する。
「暗殺者っていう役職は、相手の陣営をかき乱すために存在するのだ。そう簡単にDDに魔法を撃たせはしない!」
LSランクの敏捷のおかげで命拾いをした。首筋目掛けて振るわれたナイフを咄嗟に躱す。
「くっ!これじゃあ、魔法が唱えられないよっ!」
「その魔法を撃てないようにするために、おれたちは距離と詰めているんだからな!」
タンクのゾーゴンも接敵。最前衛である絵理華が2VS1を強いられる。
「このままでは絵理華さんが危ないですうっ!!何とかならないんですか?!!」
「と言ってもさあ!!ルナティちゃんの【爆炎の才】は拡声杖メロディアで音に変換されちゃうから、敵味方関係なく焼いちゃうんだぞっ☆」
回復魔法を唱えるので手一杯らしい。目を回しながら答える。
「じゃああれですか?!絵理華さんがタンクとサブディーラーを純粋な火力で崩して戦線を崩壊させるしかないってことですか?!いくら何でも無茶ですよ!!」
「ルナティちゃんだってvP初めてなの!そんなこと言われたって要領が分からないのお!!――っておわあっ!!」
金髪の女神と言い争っていると、近くに人間の背丈ほどの大きさのある氷柱が突き刺さる。
遥か後方を見ると、ローブを身に纏った色白の女が周囲に氷の塊を浮かべていた。水属性の魔法の詠唱を終え、こちらに狙いを定めているのだろう。
「相手のDDに狙われてますよ!回復を絶てば有利に勝てると思われているに違いありません!!」
「つったって、ルナティちゃんにも避けることしかできないんだぞう」
本来であればタンクが前衛に立って攻撃を受け止め続け、その間に魔法使いが強力な魔法の詠唱を終えて攻撃を行うべきなのだが、その余裕を相手に与えないためか、威力の低いアイス=ミサイルを主軸として手数で攻めてくる。これでは避けるのに専念しなければならないため、火属性の魔法を使った援護射撃すらもできるかどうか怪しい。
「どうするどうしますどうすればいいんですかこれえ!!」
はっきり言って勝ち目のない戦いだ。
いや、こちらに勝ち目のない戦いだと分かっていたからこそ挑んできたのか。
そもそもの話、首筋にナイフを宛てて脅してくるような奴が真剣勝負をしてくると考える方が間違っていたということか。
「ぐううっ!!」
ルナティからの回復も疎らになり、いよいよDPSがHPSを超えそうだ。このままでは本当に何もできないまま終わってしまう。
何か策はないのか。
何か方法はないのか。
攻撃に耐えながら必死に思考を巡らせていると、頭の中に展開されている『スペシファイ』魔法の地図の上で光る光点が少しずつこちらに近づいてくる。
建物の目の前にいた時は距離165フィート(約50m)、高さ50フィート(約15m)あったはずなのに、その高さは0フィートになり、その距離も98.5フィート、65.1フィート、32.8フィートと段々と近づいていく。
相変わらずヤードポンド法による単位の読み方が分からないため、どれくらいの距離感かは分からないが、数字が少なくなっていくのを見て少しずつ対象が近づいてくるのが分かる。
そして、まるで散歩にでも行くかのように人混みの中からふらりと戦場の真ん中に現れると、綺麗な琥珀色の瞳で見上げながらその少女は質問する。
「エリカ……?君の名前はエリカって言うのかい…………?」
目の前に敵がいるというのに、その視線は否応なく少女に引き付けられる。
大きなボロ布の真ん中に穴を開けたもので全身をすっぽりと覆っているため、その身形や体格は分からないが、右手に持った柄の長い三叉槍を持つ腕と布の外にはみ出した脚から判断するのであれば、それほど筋肉質というわけでもないようだ。
「君が、ウェアタイガー……?」
『スペシファイ』に示された光点は、この少女がウェアタイガーであることを示しているため、そうには違いないのだが事実が飲み込めない。
絵理華の口から発せられたその言葉に前衛に立つ二人と魔法使いが動きを止めて答えを待つと、
「そうだよ?」
問いに対して何気ない調子で少女は頷いた。
「こいつが、」
「ウェアタイガーだと?」
何度も説明しているが、ウェアタイガーは巨大な虎の姿に変身する力を持ったモンスターだ。
それが突如として目の前に出現し、しかも、年端もいかないような少女の姿をしているとは、誰が想像できただろうか。
「ふっ、ならば探す手間が省けた!ここで貴様を殺せばいいんだからな!」
やはり目的はウェアタイガーを殺害して手柄を横取りすることだったか。邪な思考に汚染された騎士が大剣を、暗殺者がナイフを構えて狙いを定めると、
「下がってて」
カン、と三叉槍の柄を地面に打ち鳴らして下がるように指示する。
何故自分に味方するのか。
本当にこの少女が目的のウェアタイガーなのか。
いや、そんな疑問よりも。
「あっ!危ないよ?!」
相手は大剣とナイフを構えたSランクの冒険者二人だ。小さな女の子が受け止めるのにはあまりにも荷が重すぎる。
「おうおうどうした?諦めておれたちに倒される気になってくれたのか?」
「違うよ」
ゾーゴンの挑発に対して短い髪を揺らしながら首を横に振ると、身に纏ったボロ布を風に靡かせて自身満々にこう言い放った。
「ボクが回避タンクをやるんだよ。君たち三人を相手にね」
「missile」という英単語には、「飛び道具の誇張表現」という意味もあるんだとか。機械兵器のミサイルとは全く関係がありませんよ!!




