第30話:ガチのグリフォン
「牝馬に変身したロキが魔法の馬スヴァジルファリと交配して、八本足のスレイプニルっていう馬を産んだらしいじゃん?だったらさ、グリフォンの妻である牝馬も魔法の馬なのかな?少し興味があるんだけど!」
「期待しているところ申し訳ありませんが、グリフォンと交配したのは、ごく普通の牝馬ですよ?」
光属性の精霊・アロアの灯を周囲にぷかぷかと浮かばせながら、真っ暗な坑道を進む。
「絵理華さんがアルミラージのルミ子を【テイム】した時に言っていたじゃないですか?「私がいた世界では、「ありえないこと」という意味を持つ言葉に「兎角」という言葉がある」って」
「確かに言ったね」
「それと同じで、ヨーロッパ圏には「不可能」を意味する比喩表現として、「グリフォンに馬を目合せる」という言葉があるんですよ」
「……どういうこと?グリフォンは馬が嫌いってこと?」
「その逆です」
疑問の声が洞窟の中を反響する。
「グリフォンは馬が大好物でして、馬を鷲掴みして巣に持ち帰って食べるんです。自分の好きな食べ物に発情して性交するのって、普通はやりませんよね?なので、「グリフォンに馬を目合せる」のは「不可能」なんです」
「それじゃあ、この世界にはどうしてヒポグリフがいるの?」
「これを言っては終わりですが、ここはゼロスト様が作ったファンタジーの世界ですからねー。そういう「ありえない」ものがありえた方が楽しいかもしれませんよ?」
「グリフォンが馬と性交する……。ルナティちゃんで例えるなら、人参スープでできたお風呂に入る感じかな!?ちょっとやってみたい!」
「兎の出汁が入った美味しいスープになりそうですね……」
「ルナティちゃん食べられちゃうの?乙女の貞操のピンチ?!」
坑道は三人が並んで通れるくらいの横幅の一本道で、発した声がよく反響する。
そのため、
「グオオオオオオオオン――――」
もっと早く気づくべきだったかもしれない。
敵も味方も声が聞こえやすく、届きやすいということを。
「……なんか猛々しい声が聞こえるね?」
「グリフォンでしょうね。グリフォンがいるグリフォンが占拠した洞窟なんですから」
こちらの侵入を拒むように低い声が反響し、背筋が凍りそうになるが、屈することなく歩みを進める。
アロアの灯に照らされた闇が消え、前方に出現したのは――。
「ぐおおおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおん!!!」
金銭や宝石を集める貪欲な性格を持ち、時にはその猛々しさでドラゴンすら追い払ってしまうほどの勇猛さを持つモンスター・グリフォンだ。
「いきなり戦闘開始!?ボイストレーニングできてないんだけど?!」
「必要ありませんよ!絵理華さんが一言【テイム】と唱えれば終わるんですから!!」
こちらを射殺さんとばかりに睨むグリフォンの目の前へと、女性は一歩踏み出す。
「グリフォンさん。私はあなたとお友達になりたいの。一緒に動物園に来てくれないかな?」
「ぐおおおおぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおん!!!」
答えは否だ。
『トランスレーション』の魔法で意思疎通ができているわけではないし、仮にできていたとしても縄張りに入って来た侵入者たちを許すわけにはいかない。
まずは小手調べと言わんばかりに鋭い鍵爪がついた前脚を横薙ぎに振るう。
が、
「よっと」
絵理華はLSランクの物理防御力を持つ冒険者。
生身の人間の肉を一発で削ぎ落してしまうほどの一撃を右手を軽く挙げただけで受け止め、その威力を去なす。
「私はあなたのことをもっと知りたいんだ。一緒に来てくれないかな?」
「グオオオオォォォオオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!」
今度は全体重を載せて押し潰す気のようだ。両方の前脚を高く挙げて振り下ろす。
「絵理華さんっ!!」
さすがの絵理華でも無事では済まないと思ったのか、焦ったセレンが声を張り上げる。
も、
「結構……、重い、ね……」
絵理華はLSランクの攻撃力と、LSランクの体力を持つ冒険者。
両手を手の上に掲げて押し返すと、
「どおりゃあああああああぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
まるでカブトムシがクワガタムシを引っくり返すかのように天に向かって力強く押し上げると、グリフォンはバランスを崩して土煙を挙げながら転倒した。
チャンスは今だ。
「【テイム】!!」
下半身がライオンであるため、ネコ科特有のもふもふとした体毛に向けて手を掲げて一言。
そしてお決まりの一言。
「おすわり!!」
【テイム】による服従ができているかどうかを確認するために、ペットを躾ける時には有名な一言を放つ。
と、
「ぐううん……」
鷲の前脚を伸ばして獅子の後ろ脚を曲げ、お尻を岩場へと着地させる。【テイム】成功だ。
「最初から【テイム】を使えば終わりますよね?!何ですかあの無駄な戦闘!!ドキドキしちゃったじゃないですか?!」
「いやだって、ちょっと弱らせた方が隙が生まれていいかな、と思ってさ。ゼロスト様は「この世界で不自由しない程度のステータスにする」って言っていたことだし、これくらいの攻撃じゃあ死なないでしょ?」
「怪我をしたのならルナティちゃんの出番ですよ?」
自信満々に胸を張る。
「実はルナティちゃん、『超癒し系少女』という名前で売り出してましてえ。バトルだけではなくて回復もできちゃうんです☆。キュルン☆」
「怪我してます?絵理華さん?」
「全然」
「ががん!!もしかしてルナティちゃんの出番なし?!」
斯くして『スロザード山脈グリフォン討滅作戦』は無事終了。
『ワープ』で移動させることができる最大積載量はLSランクで900パウンド|(約408kg)程度だというので、グリフォンが持っていた財宝のみをとりあえず『ワープ』で動物園へと移動させた。一体のグリフォンを筆頭として四体のヒポグリフを従え、空の旅を満喫する。
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