第29話:グリフォンっぽい
「(あそこですね)」
林道を抜けた先の開けた場所には高く聳える山肌が出現し、その山肌には横穴がぽっかりと空いている。あれが鉱石の採掘に使う坑道なのだろう。
その坑道の入り口を塞ぐようにして、頭と前脚が鷲、胴体と後ろ脚が馬の姿をしている有翼のモンスターが座っている。
「(あれがグリフォン?私がイメージしていたのと何か違うんだけど?)」
近くの草むらから様子を窺いながら絵理華が小声で話し掛ける。
「(あれはヒポグリフと言って、オスのグリフォンとメスの馬が交配したことによって生まれたモンスターです。似てはいますがグリフォンではありませんね)」
「(馬との間に生まれた雑種みたいなもんだから、戦闘力はグリフォンよりも低いんだよねー。さっさと倒しちゃおっか)」
「(【テイム】したいから倒さないでね。上手く弱らせる程度にできないかな?)」
「(ルナティちゃんに任せなさーい☆)」
マイクロフォンのように棒の先端に透明な水晶玉が装着された杖を持って駆けると、
「HEY!!ルナティちゃんの楽しい歌の時間だよっ!!観客のみんなは準備ができているかな?!」
声量を増長させながらヒポグリフに話し掛ける。どういう仕組みになっているかは分からないが、マイクと同じように音を拾って音声を拡張させることができるようだ。
「今日の観客は君一人、ルナティちゃんとの楽しいワンマンショーだああ!!今日という日に感謝するんだゾ?」
「何言ってんだコイツ?」と言いたげな目で見るヒポグリフを無視したままルナティのライブは続く。
「さてさて、それでは早速参りましょう!!ルナティちゃんの楽しい楽しい――――」
「キエエエエェェエエエエエエエエェェェエエエエエエエーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!」
相手の都合など知るものか。
獣人少女の言葉を遮って小動物を戦慄かせる猛禽類の咆哮を鋭い嘴から放つ。
「ひええっ!!」
自分が用意したマイク(仮)によってヒポグリフの鳴き声が拡声。人間の数百倍も優秀な耳の中へと音を反響させる。
「こんのっ!!ルナティちゃんのお話を邪魔するなんてルール違反なんだぞっ☆。許さな、い、ん、だから…………」
ルナティの声が小さくなり、その表情は引き攣っていく。
別にマイク(仮)が故障したわけではない。
「キエエエェェエエエエエエ!!!」
「キエエエエェェェェェェエエエエエエエエエェェェッッッッッ!!!」
「キエエエエエェェェエエエエエエエーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!」
マイク(仮)で拡張されたヒポグリフの鳴き声を聞きつけ、空から新たなヒポグリフが三体出現したからだ。
「よっ!四体!!?ルナティちゃん的にはちょっと定員オーバーかな?!」
このままではルナティが危ない。
「えっと、こういう時ってどんな魔法使えばいいのかな?」
「絵理華さんは物理攻撃力も高いので、ぶっちゃけ物理で殴っても大丈夫ですよ!」
「……一応役職は魔法使いなんだけど?」
草むらから飛び出してルナティを庇うように立つ。
「うーんと、どうしよう?」
ヒポグリフは全部で四体。
一体は坑道の入り口を塞ぐようにして立ち、三体は入り口に立つヒポグリフと向かい合うように空で停滞している。
「片っ端から【テイム】すればいいんじゃないんですか?」
「それはそうだけど、一体を【テイム】している隙に他の三体に攻撃されるかもしれないじゃん?」
「じゃあ、ルナティちゃんが攻撃を引き付ければいい?」
「少しでも隙を作れればいいんだけど、何か手があるの?」
「よーし、あんまり好きじゃないけど、ウォール=フレアを使おっかな?」
マイクのような構造になった杖を構えると、
「攻と防の二つの面を属性によって具現化せよ!ウォール=フレア!」
拡声器に声を乗せて魔法を詠唱。
直後、三人を囲むようにして炎に包まれた檻が出現する。
「火属性の防御魔法だよ☆。相手の攻撃を防ぐ炎のバリアを展開できるんだけど、ルナティちゃんたちは解除するまで動けないし、中は暑くなるから汗だくになっちゃうんだよねー」
「あちちちちち!!!暑いです絵理華さん!早く【テイム】しちゃってください!!じゃないと蒸し焼きになっちゃいますよこれぇ!!」
【テイム】の条件は、対象となる相手が一定の範囲にいて視認できること。赤く燃える檻の隙間から見えるヒポグリフに向かって次々と【テイム】を使う。
「全員完了したよ!!」
「りょうかーい。ウォール=フレアを解いちゃうよ!!」
さくん、と杖を地面に突くと、炎の檻は空気の中へと消える。
「…………」
三人の女性を囲むのは四体のグリフォン。八個の鋭い目線が向けられるが、
「羽を閉じて」
絵理華が一言命令すると、一斉に翼を閉じて大人しく座る。【テイム】成功のようだ。
「凄い……っ!【神】の【テイム】を初めて見たけど、ヒポグリフ四体でも難なく命令できちゃうんだねっ!!」
「ヒポグリフの【テイム】は成功したけど、目的はグリフォンの討伐だったよね?グリフォンは何処にいるんだろ?」
「聞いてみればいいじゃん!このヒポグリフにさ!!」
「もしかして、獣人だからモンスターの言葉が分かるんですか?」
「いいや、そういうのじゃないよ?」
【テイム】によって暴れないことが分かっているからか、馴れ馴れしくヒポグリフを撫でる。
「エリポンって【マジックマスター】なんでしょ?だったら、光属性の魔法に『トランスレーション』っていう魔法があるから、それを使ってみてよ」
「…………どうやればいいの?」
「さてはドジっ娘属性を追加して、ルナティちゃんの座を奪おうとしているなー?」
ぽふぽふと鷲の羽毛に手を埋める。
「まずは光属性の準備魔法を唱えてっと」
動物園の音声案内を『スピーチ』したり、『サイキック=エクスプレッション』で画像を作成した時に唱えたため記憶に新しい。
「煌然と佇む神域の天秤よ。私に正誤善悪を示せ!」
準備魔法を唱えると、光の精霊・アロアの灯が謳うように周囲を漂い始める。
「んじゃ後は、ルナティちゃんに続けて唱えて。異なる魂の形を持つモノ同士の心と心を繋げよ!トランスレーション!」
「異なる魂の形を持つモノ同士の心と心を繋げよ!トランスレーション!」
両手を向けて一体のヒポグリフに唱える。
「……見た目状は何も変わってませんね?」
「エリポンほどの魔力があれば成功しているはず。普通に話し掛けてみてよ」
入り口に立っているヒポグリフのもとまで歩き、
「あなたたちのお父さんである、グリフォンを探しているの。何処にいるか知らない?」
ごく普通に話し掛ける。
と、
「|キエッキエッキエエエッッッ《父さんの場所が知りたいって?》」
キエキエとしか言っていないはずなのに、脳内で同時翻訳のように人語が聞こえる。意思疎通ができていることが確認できたため、そのまま会話を続ける。
「私は、あなたたちやあなたたちのお父さんと仲良くなりたいの。何処にいるか教えてくれないかな?」
「|キェルルルキェキエッキェル《それならば、この坑道の先に進むがいい》」
身体を動かすとその先の洞窟へと道を譲った。




